初めての食堂
お嬢様と別々に帰り、いつもどおりお嬢様の使用人として過ごす。
「あの後、何もなかったわ。」
「ソレは良かったです。」
「お茶会してる時の、あの気配。貴方、気づいたの?」
「だから、戻ったのですよ。」
「じゃあ彼女は……。」
「あぁ。そろそろ時間だろうから戻りましょうと促したので、バレてませんよ。」
ソフィアが協力者だと言うのは伏せておく。
変に甘えて頼られても困るしね。
私は命令だからココにいるけど、ソフィアは違う。
私のことを思ってお父様が派遣してくれた助っ人だ。
あまり大きく巻き込めない。
「そう……。」
「随分気にされますね。そんなに心配ですか?」
「…………。」
「彼女が顔は好みと言ったことが原因ですか?」
そうだったとすれば、ソフィアに全力でフォローさせないと。
「そ……、それも原因だけど……。私と居たら、彼女まで危ない目に会うかもしれないのに……。」
ソレにニコリと微笑む。
「ソレは自分で彼女に言ってあげてください。どうするか決めるのは彼女自身です。」
「……そうね。」
お嬢様の身体から力が抜けたのがわかった。
「殿下がお嬢様の様子が途中からおかしかったと気づいておられたので、ポーカーフェイスもうちょっと極めましょうね。バレバレでしたよ。」
「う…頑張ります。」
「はい、頑張ってください。」
貴方たちの婚姻式の日取りが決まるまでは、ちゃんとお守りしますよ、お嬢様。
学園内で流れる噂に少し変化がついた。
私が殿下を狙ってるという噂だ。
もちろん、殿下がお嬢様と仲良しなのは周知の事実なので、私の横恋慕ということらしいが。
全く、良い迷惑だ。
「殿下、お昼一緒に食べましょう。」
「良いよ。」
今日も殿下を救い出す。
そして、いつもの裏庭ではなく、食堂へ向かう。
この学園の食堂は種類も豊富だが、値段は優しくないという調べはついてる。
お父様から金に糸目をつけないという命令のために、偶にはこうして目に見える使い方をしなければならないなぁと思ったので殿下に付き合っていただく。
もちろん、お嬢様をココに誘導してくる約束なので問題ない。
「殿下、今更ですが居心地悪いですか?」
「本当に今更だな。」
ココは食堂でも二階にあたる。
この二階に入れるのは王家とゆかりのある人物のみ。
現段階なら殿下とその婚約者であるお嬢様だけだ。
例外はもちろんある。
殿下かお嬢様に許可をもらうことだ。
そして、この二階席は給仕が運んでくるので自分でトレイを運ぶ必要はない。
「お嬢様のために見世物にしてる自覚はあるので、一応意思確認をしておこうかと。」
「普通は意思確認してから行動するだろう。」
「逃げられるとわかっていて逃げ道を用意するほど私はできた人間ではありません。」
そう話しているとお嬢様とソフィアがやってきて。
ソレを見て、立ち上がる。
「怪しまれるぞ。」
「怪しむ?そんな愚かなご令嬢ご令息が通っているのですか?この学園は。」
階下にも聞こえるように言う。
そうすれば、殿下とお嬢様が目を見張って。
「貴族界隈で有名な貧乏貴族の私が昼食も持たずに食堂に居座るわけないでしょう。お弁当持参済みです。ですが飲み物を忘れたので取ってきますね。」
静まり返る食堂。
「ユリア様!私、今日奮発したんです!その美味しそうなお弁当のおかず、交換しましょうよ!殿下とマリア様も一緒にどうですかっ?あ、毒見ならします!」
ちなみに、ソフィアがそう言ってかかげる食堂の料理は私のお金で買われている。
この二人が知る由もないが。
「そうだな。興味ある。」
「はい、とっても興味あります。ユリアさん、よろしいですか?」
「もちろんです。王都の料理ではないのでお口に合うかどうか……。食べていてください。お水とってきます。」
「あ、大丈夫です!私、お水二つもらって来たので!どうぞ、ユリア様!」
「良いの?ありがと、ソフィア。」
「いえいえ!」
気の利くソフィアにお礼を言いつつ、座りなおす。
気が利くのか染み付いた使用人としての動きなのかは、わからないけど。
ココのテーブルは円卓なので、殿下、お嬢様、ソフィア、私という順番に座る。
コレで殿下とお嬢様を私とソフィアで対応できる。
どこから敵が来ても対応可能だ。
「……、美味しい!」
「良かったです。」
「王都の食べ物に比べると薄味だな。」
「当然です。行商がめったに来ない土地ですので、調味料なども貴重なんですよ。まぁ、この料理に使用してるのはすべて辺境伯領で作った農作物と調味料ですが。」
「何!?コレ、全部か!?」
「はい。」
「美味しい〜っ!幸せの味です!ユリアさん、食堂の料理はどうですかっ?」
「……美味しい。王都の食べ物、美味しいものばかりで感動する。」
自分たちの頼んだ料理を脇に置き、私のお弁当を食べる三人。
ソフィアは元々私のお弁当を狙ってるフシがあるから、良いのだけれど。
その隙に、私とソフィアで二人の注文した品を毒見していく。
うん、殿下の料理に毒は仕込まれてないな。良かった。
「あ、私デザート忘れてた!とってきます!」
ソフィアが不自然な立ち去り方をするが、二人は気にした様子はない。
いきなり演技下手にならないでほしい。
「食堂の料理は、一階フロアの人たちと同じ料理人が作るのですか?」
私の唐突な質問に殿下は不思議そうにした。
「いや、二階は王族関係者のみになるから、王城の料理人を昼時だけ数名派遣している。」
「そうですか。」
二人の料理は、全部毒見した。
毒見するまでもないものも。
ソフィア、中和剤持って来てたのかしら。
「何か気になることでも?」
その問いかけになんと答えようかと少し悩む。
だけど、言わずに危険に飛び込まれるのも困る。
「はい、少しだけ。食堂に行く時は声をかけていただけますか?できるだけお二人分の昼食を用意させていただきますが……。」
「何?」
「もちろん、殿下のものはマリア様がご用意しますよ。ね、マリア様。」
「……私、あまり上手にできないわ。」
「マリアの手作りってだけで楽しみだよ。気が向いたら作ってくれるとありがたい。」
「……はい、クロード様。」
よし、言質はとった。
「疑ってるのはソフィアさんのこと?」
「確かに、最近妙にマリアにつきまとってるし……警戒していても良いか。」
全く見当外れなことを言い出す二人にはニコリと笑顔を向ける。
「おまたせしました〜!見てください!アップルパイです!みんなで分けましょう!」
その見覚えのあるアップルパイに苦笑する。
「良い香りね。」
「そうでしょ!?切り分けますね!」
素直に待つ婚約者二人。
とても可愛らしいが、自分たちが毒殺されかけたことを少しでも疑ってくれたら良いのに。
まぁ、ソレを悟られないようにするのが私達の役目だけど。
というかさっきまでソフィアを疑ってなかった?
「さぁ、いただきましょう!」
ソフィアの笑顔に、二人が楽しそうに笑った。
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