全てはお嬢様の為に
学園に行けば、お嬢様と殿下は注目の的だ。
婚約者のクラスが離れているからと言って声をかけても良いってわけじゃない。
「殿下、教えてほしいことがあるのですが。」
「何かな?」
「こっちです。」
女子に囲まれている殿下の腕を引っ張り、輪から抜け出す。
「アレ、なんですか?」
窓から見えるガラス張りの一角を指差す。
怪訝な顔をしたものの、すぐに笑顔を浮かべて。
「アレは、サロンだよ。」
「サロン?」
「ん〜、お茶会の会場?」
「なるほど……。王都の貴族は優雅ですね。」
隣に立つ殿下の腕を掴んだまま、視線をサロンから殿下に移す。
「行ってみたいです、行きましょう。」
「サロンには事前に申請が────」
「楽しみです。」
強制連行。
すれ違う人たちがこちらを見るが、知らぬ顔して廊下を行く。
殿下に話しかけたそうだが一緒にいるのが私だと見るや、遠巻きに見てくる。
もちろん、声をかけてくる方もいらっしゃいますが、丁寧にご退場願っている。
「どこへ行く。」
「サロンです。」
「サロンには事前申請が必要だ。」
「知ってます。」
「何?」
「知ってますよ、殿下。」
サロンの扉に近づき、ノブをひねれば開く。
「どうして……。」
「申請して使ってる生徒がいるからですね。」
「俺はマリア以外と二人になる気はない。」
「当たり前です。あるなんて言った時には闇討ちにあってもらうのでご心配なく。」
「な……っ。」
殿下の身体を中へと押し込み、後ろ手で扉を閉める。
コレで、彼女たちの標的は私になったハズだ。
全く、手のかかる……。
「え?クロード様?」
「マリア?」
「どうしてココに……。」
戸惑うお嬢様が私を捉えて目を瞠る。
素知らぬ顔して温室へと続く扉に手をかける。
「それでは、私はコレで。お時間までごゆっくりとお過ごしください。鍵は締めているので、大丈夫ですよ。」
「貴方、どうして私がココにいるって知ってるの?」
「お嬢様の護衛ですから。」
そういえば困った顔をして、ため息を一つ。
どうやら追求は諦めてくれたらしい。
「温室にソフィアさんがいらっしゃるの。だから、その……。」
「ソフィア…?あぁ、君に懐いた男爵令嬢か。」
「そうです。」
「時間ギリギリまで私が相手してますので、気にせず二人で愛を語らっていてください。」
「な、何言って……!!」
パタンと温室へと続く扉を閉める。
直ぐ側に座り込む人影。
「どうだった?」
「温室の中に怪しいものはなかった。今はね。」
「ココを利用するとすれば、そのうちあるでしょうね。」
「まぁね。ソレより、どうやって王子様連れて来たの?あの人婚約者いるのにすっごい人気じゃない。」
「力技。」
「もっと他になかったわけ?」
「ソフィアならどうやって連れ出してた?」
「色仕掛け。」
「怒るわよ。」
「それで引っかかるような王子様なら幻滅だわ。ユリアのお嬢様の色仕掛けに引っかかるならまだしも。」
扉の向こうで気配が動く。
だけど、庭園に来る気配はない。
「庭園に逃げ込んだのは間違いだったかなぁ。」
「扉の前で見張りの如く立つわけにもいかないでしょ。」
「そうだけどぉ。」
ソフィアが不満そうに口を尖らす。
その時、扉の向こうで知らない気配を感じて。
視線を向ければ、うなずいていて。
「え〜、ユリア様のところもなんですかっ?一緒です〜!」
何がだと思いつつ、扉をひねれば優雅にお茶を楽しむ二人。
屋根にあった気配が消えた。
「えっ!?王子様!?わ、ごめんなさい!お邪魔してしまいました!」
「いいえ。大丈夫。」
「そうですか、良かったぁ。でも、良かったですね!一緒にお茶できて!」
ソフィアが無邪気にお嬢様に声をかける。
「殿下、何もありませんでしたか?」
ソレを横目に小さく尋ねる。
「問題ない。ただ、少しマリアの様子がおかしかった。後で確認頼む。」
「かしこまりました。」
どうやら殿下にはあの気配が感じ取れなかったらしい。
まぁ、一瞬だったから仕方がないのかもしれないけど。
王族としてどうなんだろう。
それとも、そのくらいが普通なのか?
カップを口元に運びながら言われるセリフにお嬢様に視線を向ければ、何かを伝えたそうに視線をよこしてくる。
お嬢様、王妃教育の賜物ね。
まぁ、ポーカーフェイスと逃げ足に全振りしたから仕方がないか。
屋敷に帰ったら少し特訓だ。
「そろそろ時間だな。教室に戻ろうか。」
「そうですわね。」
「またココ来ましょうね!すっごい庭園キレイだったんです!」
殿下とお嬢様を先に外へと送り出し、ソフィアと二人後から出る。
「ユリアさん。」
「はい。どうかしましたか、マリア様。」
「少し、良いかしら。」
「もちろん。ですが、お時間は良いのですか?」
「それは……。」
不安そうなお嬢様の手をとる。
「大丈夫です。もう今日は来ませんから。」
「……わかったわ。」
お嬢様の手を少し強く握る。
「大丈夫、安心してください。」
「……えぇ。」
その手を離し、見送る。
後はソフィアに任せよう。
「戻りましょうか、殿下。」
「……ユリア嬢。」
「はい。」
「わざと、か?」
何が、とは聞かない。
ソレは、貴方が提示すべき事柄だ。
「俺に、何を求めてる?」
その問いかけに、ニコリと微笑んだ。
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