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別邸の問題

全員が言葉を失っている中、手を伸ばしその書類を手にとった。


「私、初めて借用書って見たわ。」


借用書に書かれている金額は金貨二百枚。

払えなかった時の為に、この土地が担保に取られている。


「お父様。コレはどういうこと?領地の経営だってこんなことしなくて済むギリギリを攻めていたハズよ。王都の別邸の管理はどうしてたの。」

「定期的に報告を受け取っていたし、王都に来た時には必ず顔を出していた。この間ユリアと王都に来た時にはなかったものだよ。」

「ということは私が王都にとどまってからで、お父様が領地に帰った後ね。」


書類のインクの匂い……まだ、随分と新しい。

紙質もかなり良いものを使ってる。


「セバス、心当たりは?私が居ない間の帳簿管理は任せているハズだけど。」

「それが……私も今初めて見まして…………。」

「それはどういうことだい?」

「はい。旦那様がこちらに来られる前日までは確かに私が管理をしておりました。お見せした帳簿のとおりです。こちらのお屋敷は昔から管理をさせて頂いておりますが、借金をするほど追い詰められておりません。」


セバスが困り顔でお父様を見る。


「ふむ……、ベロニカはどう?」

「私も今初めて見ました…………。この部屋は当主の部屋ですから使用人の立ち入りは一切禁止しております。執務室の掃除や管理は全て、コースター家の方々がするとのことでしたので。」

「うん、そうだね。」

「お父様はこの借用書にいつ気づいたの?」

「それがね……一昨日、来た時にはあったんだよ。」

「…………は?」

「気の所為かと思ったんだけどね。間違いなくコレはコースター家が借り受けた証明書なんだ。偽装はされていない。」

「そんな…………。」

「あ、ありえません…!!何かの間違いです!!」


マイヤー夫妻が顔色悪くお父様に抗議するのを見つつ、お父様に手を差し出す。


「その帳簿、見せてお父様。」

「良いよ。」

「ありがとう。」


渡された帳簿を見る。今年に入ってからの帳簿らしくキレイにまとめられている。

どこにも不審な点は見当たらない。


「ん?」

「どうしたんだい、ユリア。」


お父様の声を聞きながら帳簿のインクの香りを嗅ぐ。

そして、ソフィアに書類と帳簿を傾ければ同じように香りを嗅いでくれて。


「どう思う?」

「うん。書き直してる。書類に使われてるインクと一緒だわ。」

「どこだい?」

「帳簿のココ、インクが新しいわ。」


お父様たちの前に帳簿と借用書を並べる。


「見つけたのが一昨日なら、もうすでに調査はしたんでしょ?お父様。サクッと断罪して良いと思うけど。」

「「断罪!?」」


マイヤー夫妻がギョッとした顔をする。

それには見向きもせずに、お父様を見る。

この書類の見つかったタイミングを考えるに、外部犯の可能性は限りなく低い。


「だけどねぇ。止む得ない事情があったのかもしれないよ?」

「止む得ない事情があったら何をしても許されるの?違うでしょ?許されないから、領地の皆や私達は地べた這いつくばって頑張ってるんでしょ?」

「…………。」

「少なくとも、当主がめったに訪れない辺境伯家の邸で働かせてもらえてるだけで感謝しなくちゃいけない環境にいるという自覚がないわ。何より、当主の印鑑を勝手に押してる。コレはお父様でもセバスの押し方でもないわ。」


長年見てきたからわかる。

長年あの領地で帳簿をつけて少ないお金でやりくりして領地を支えてきたわけじゃない。


ただの名前も出ないモブ令嬢だけど、私はコースター家の長子よ。


「情状酌量の余地もないわ。当主偽装は立派な犯罪よ。この国の法律で決まってるわ。」

「それを知らなかった可能性もあるよ?それでも、君は罰すると言うのかい?」

「言ったでしょ、お父様。だからと言って許されることではないわ。」


盗めば生きていける。

嘘をつけば助けてもらえる。


そんなの、その場しのぎの策に変わりない。


「君ならどんな断罪をするんだい?」

「王家直轄、下級騎士団警羅部隊の給仕係に降格します。」


そう言えば、マイヤー夫妻が息を呑む気配がして。

お父様はただ黙って、私を見上げてくる。


「給仕係は人手不足だと耳に挟みました。必要であれば紹介状を書きます。お父様が書かないというのなら私が書きます。辺境伯令嬢なので力はあります。足りないというのなら殿下やお嬢様たちに一筆もらってきましょう。」

「…………。」

「警羅部隊の給仕係は過酷な上に賃金も安いと聞きます。ですが、コレを見る限り我が家が払っている賃金も貴族としては最低ラインでしょう?生きていくのにお金は必要ですが、警羅部隊の給仕係なら犯罪者にならない限り半永久的に働けます。」


何より殿下やレオナルド様が偵察のたびに潜り込んている。

余計なことをすればすぐに死罪だし、お目にかかれば城にあがることだってできる。


「…………わかった。では、そうしよう。」

「旦那様!!」

「落ち着きなさい、セバス。ユリアは間違ったことは言ってない。それに、どの断罪よりも最良で優しい処罰だ。」

「…………っ。」

「で、ですが旦那様。人が減ればそれこそ私達だけでは手におえません…!邸の手入れや調理場は、あの子達が請け負ってくれてるのです……!!」

「あら、それなら心配いらないわ。私、庭の手入れ好きだし得意なの。任せてもらえるなら請け負うわ。厨房の方も臨時でならなんとかなると思うし。ね、ユリアお嬢様?」


ソフィアがニヤリと口角をあげる。

それにため息一つ。


「あのねぇ、そんなわけにもいかないのよ!領地の方にアイツには居てもらわないと!お父様が向こうに戻るまでは絶対ダメ!お父様、雇用の面談はしてもらえるのよね?」

「誰か良い人が居るのかい?」

「私はこの邸にめったに帰って来れないから、今まで通りの暮らしになると思うの。そうなってくると信頼できる人が欲しいわよね?」

「うん、そうだね。」

「だからね、ちょっとお願いしてみようかと思って。」


メイン攻略キャラに直接関わりを持つ気はないけれど。

同じモブ同士なら問題ないと思うのよね。


「誰にお願いするんだい?」

「マルクル様とレオナルド様に。」


狙うはモブのマルクル様のお孫様とレオナルド様の弟様だ。

本編で一度も出てこなかった二人なら、なんとかなるかもしれない。


「……マルクルに声をかけるのは辞めないかい?」

「何を言ってるの、お父様。今は打てる手を打たないと。お父様だって早く領地に戻らないといけないんだから。」

「そうだけど…………。」

「そういうことだから!お父様はちゃんとお仕事してね!ソフィア、庭の手入れするわよ!」

「了解!領主様、お屋敷の庭に空いてる場所があったら新しいお花植えても良いですか?」

「もちろん。」

「ありがとうございます!領主様!」

「ソフィア、何か植えたい花があるの?」

「ふふふ、まだ秘密よ!」


鼻歌交じりに足を踏み出すソフィアに小さく笑って、後に続いた。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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