王都の別邸
お父様に連れられ、辺境伯の家紋が入った馬車で別邸へと帰る。
私にとっては初めての王都の邸だ。
「ほら、あそこだよ。」
「え、嘘でしょ!?キレイ!!」
公爵家のお嬢様の邸と遜色ないくらいにはキレイな邸。
思わずお父様を振り返る。
「え、なんで!?領地の邸と全然雰囲気違うんだけど!!」
「王都で弱みを見せるわけにはいかないからね。だから金に糸目をつけるなと言ったんだよ。ココは、そういう場所だからね。」
「いや、それでも!それでもだよ!!この差は激しすぎない!?」
「そうかな?そうでもないと思うよ。」
「だって!塀も壊れてないし!屋根も壊れてない!!庭だって花が咲いてるし!」
「領地の方も修繕すれば近い空間にはなるよ。あ、そうそう。前金で送られた三千、消えたからね。」
それはまるでご近所さんで子供が生まれたらしいよと世間話をするような穏やかさで。
「学舎を整備してね。領地の周辺に柵を張ったんだ。それから、植物の防護ネットを買ってね。隣の領地から鉱石を運び出すためのトロッコも整備したんだ。」
「それなら仕方がないわ。でも、足りたの?トロッコの整備だけでそれなりの額を提示されていた気がするのだけど。」
「その辺りも大丈夫だよ。ユリアが王都に出稼ぎに行ってると言う噂が出回っていたらしくてね。とても協力的だったんだ。」
「まさか王命がココで効力を発揮するなんて思わなかったわ……。でも、良かった。あと金貨二千の為に私も頑張らなくちゃ。」
気合を入れ直していると、ゆっくりと馬車が止まって。
「さぁ、ついたよ。おいで、ユリア。」
「もう、私はもう一人で降りれるわよ。」
「それでもエスコートしたいというのが親心だよ。」
照れくさくなりつつ、差し出される手をとる。
馬車のステップを降りれば、ずらりと並んだ使用人。
それでも、辺境伯家らしくたったの五人だが。
「お帰りなさいませ、旦那様、お嬢様。」
「あぁ、ただいま。」
「ただいま。」
返事をすれば、なぜかこっちを見て瞳を潤ませる人たち。
それにギョッとしていれば、苦笑するお父様と紛れているソフィアが視界の隅に入って。
「あぁぁぁあ、お嬢様、お嬢様、お嬢様!!」
「大きくなられて!!もう、本当に!!こんな……こんな……良い子に育って……!!」
「お嬢様、聞いてたより普通で安心した。」
「お嬢様、聞いてたよりまともで安心した。」
なんかとても失礼な言葉が聞こえた気がする。
「お父様、これは一体……?」
「言っただろう?会いたがってるって。」
絶対に良い意味だけじゃなかったと思う、会いたがってる理由。
「あの号泣してる老紳士がこの王都の別邸を仕切っているセバス・マイヤー。その隣で涙を流している老婦人がベロニカ・マイヤー。その隣の双子がマーリンとルリ。そして、その隣が知っての通り、ソフィア・ローゼン。」
お父様の紹介で、一通りは頭に入った。
「自己紹介のためだけにこの邸に私を呼んだわけじゃないでしょ、お父様。」
「もちろん。中で説明しよう。皆、ありがとう。仕事に戻ってくれ。さぁ、ユリアは学生服から着替えておいで。ソフィアが部屋まで案内してくれるから。」
「ユリアお嬢様、こちらです。」
「えぇ、ありがとう。」
ソフィアに案内されるように邸の中に踏み込めば。
「!?」
内装まですっごいキレイなんだけど!?
あり得ないくらいにキレイなんだけど!!
うわ、この調度品なに!?
「旦那様とお嬢様の部屋は二階になります。執務室は一階の奥。着替えてから向かいましょう。」
ソフィアが勝手知ったる様子で説明しながら階段を登り、私の部屋だろう場所を指差す。
「こちらです。」
ドキドキしながら部屋の戸を開く。
「…………安心したわ。ココはすごく見慣れた光景で。」
「それは良かった。」
部屋の中へと入れば、ソフィアが扉を閉める。
「んで、お嬢様の服はそのクローゼットの中。すっごいわよ。さすが王都の仕立て屋って感じ。」
開かれたクローゼットを見て、思わず目を瞬く。
「な…!?え…!?久しぶりに見たわ、ドレス。」
「だよね。私もアンタがドレスを着てるところなんて最近見てないもの。」
「なるべくなら動きやすい服が良いんだけど。」
「そういうと思った。そのドレスはパーティーやお茶会に招待された時用だって領主様が言ってたわよ。普段はいつも通りで良いみたい。」
「それは良かった。」
この制服もワンピースみたいなタイプになっていて、すごく困ってたのよねぇ。
動きづらいし。
「それで?ココの人たちはソフィアのこと知ってるの?」
「さぁ?マイヤー夫妻は知ってるかもしれないけど、双子は知らないと思う。あの子たちは新しく王都で雇われたみたいで、奥様や領地のことを知っているのはマイヤー夫妻だけよ。」
「…………そっか。」
「ほら、元気出しなさい。アンタ、お嬢様でしょ。」
「…………こんなキレイな服、あの子たちにも送ってあげたいわ。」
「ソレは貴方の頑張り次第でしょ。」
「そうね。」
「さ、行きますよお嬢様。」
「ねぇ、ソフィア。その話し方やめない?なんか、なれないんだけど。」
「慣れて。あの双子が真似しちゃいけないからって注意されてんのよ。」
「なるほどね……。」
どこも双子には手を焼かされるってわけね。
納得しつつ、ソフィアと後に続いて執務室を目指す。
領地の邸と違って、隅々まで手入れが行き届いていてキレイだ。
「ココが執務室です。」
「ありがと、ソフィア。」
扉を数回ノックし、返事を待たずに開く。
「ユリア、待ってたよ。」
「ごめんなさい、お父様。色々と戸惑ってしまって。」
「あぁ、構わないよ。ソフィア入っておいで。君たち二人に話しがあるから。」
部屋の中にはお父様、マイヤー夫妻、私、ソフィアの五人。
この五人で話って……お嬢様の件だけじゃなさそうね。
「ココにいる我々だけの秘密だ。他言無用だ。良いね?」
「はい、旦那様。」
「もちろんです。」
「わかったわ。」
「はい。」
それぞれが返事をしたのを見て、お父様は満足げに微笑むと一枚の書類を机に出して。
「コレが何か、わかるかい?」
その書類は、この土地の借用書だった。
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