謁見の間
今日も殿下に群がるモブ女子から殿下を救出する。
「ユリア嬢、ちょうど君に用事があったんだ。」
「私に、ですか?」
お父様からの伝言か何かだろうか。
「少し良いかな?」
「えぇ、もちろんです。では場所を移しましょう。」
殿下の手を引き、いつもとは違って中庭へと誘導。
「ユリア嬢?」
「すみません、今日はココで待ち合わせなのです。」
中庭の木陰で待っていると、レオナルド様に連れられたマリアお嬢様。
どうやらソフィアはついて来なかったらしい。
まぁ、あの子が私の助っ人だとは誰も知らないから仕方がないか。
陛下も殿下に言ってるようには思えないし。
「マリア!」
「クロード様!」
もう、私達のことは眼中外なんじゃないかというくらいに甘い空気が漂って来る。
仲良しなのは良いんだけどね?
「……レオナルド様。」
先に仕事の話をしてほしい。
「クロード殿下、ユリア嬢に言われてマリア様を連れてきた私達に説明を求めます。」
「む、そうだったな。」
殿下がお嬢様の腰に手を添えたままこちらを見てくる。
お嬢様が顔を真っ赤にして固まっているけど……、大丈夫かなアレ、息してる?
「お前がマリアを連れて来てくれたのは予想外だったが、助かった。実は、昨日コースター卿から手紙をもらってな。」
「!」
「今日、コースター卿が王都に来るらしい。そこでユリア嬢に話があるらしいのだが、マリアの護衛をしている彼女を引き抜くこともできないからな。今日はココにいる四人で城に行き、公務をする。」
「…………なるほど。コースター親子を引き合わせるためのカモフラージュというわけですか。」
「あぁ。私とレオが居てマリアに何かある方がありえないだろう?ユリア嬢はコースター卿と城で合流してもらい、別行動になると思う。何やら話があるとのことだからな。」
「わかりました。」
殿下の指示に従うようにって言うからどうなるのかと思ってたけど。
良かった、殿下が賢い人で。
さすがメインヒーロー。
あとごめんなさい。
お父様はすでに王都入りを果たしております。
「ユリア嬢は何か聞いているか?コースター卿から。」
「いいえ、何も。殿下たち以上に何も知りませんよ、私は。」
なんせ、殿下の指示に従えという内容しか書いてなかったのだから。
「でもまぁ、悪い話ではないと思います。領地で何かあったのならお父様が王都に来るわけありませんから。」
「ふむ……。確かにそうだな。」
「ユリアがそういうのなら良いけど…………。話をして、何かあったなら言うのよ?力になるから。」
「ありがとうございます、マリア様。レオナルド様、どうか今日はお嬢様のことをお願いします。」
「お任せください。しっかりお守りいたします。」
レオナルド様が騎士の礼をしてくれる。
ただそれだけの光景なのに、スチルになりそうなくらいにキレイだった。
学園が終わり、四人揃って馬車に乗る。
しかも、王家の家紋が入った馬車。
お嬢様やレオナルド様はともかく、私まで乗るのかと周囲が目を見開いていたのが面白かった。
途中、お嬢様と一緒に門まできていたソフィアもニヤニヤとしていたし。
「お父様はすでにお城でしょうか?」
「あぁ。さっき、コースター卿が登城したと知らせを受けた。」
お父様ったら……。
昨日の時点で王都に入っていたのだから、もう少しゆっくりと登城してくれれば良いのに。
「お嬢様、くれぐれもお一人にならないでくださいね。」
「えぇ、わかったわ。」
「いざとなったら殿下やレオナルド様を盾にして逃げるのですよ?」
「え?」
「ユリア嬢、マリアの盾になれるのは本望だけれど、私は王族なのでそんなことをすればマリアが怒られてしまうよ。」
それもそうだよね。
でも、ココは乙女ゲームの世界。
メインヒーローである貴方がヒロインに会わずに死ぬなんてこと絶対にないと思う。
「致命傷で一命はとりとめますよ、きっと。」
なんせ貴方、この世界のメインヒーローですから。
「何を根拠に。」
「愛する人を置いて死ねないものだと聞いたことがあります。」
「なるほど。」
「クロード様?」
「大丈夫だよ、マリア。僕は君を愛してるから、そう簡単には死なないよ。」
「…………っ。」
ボッと音が聞こえそうなくらいに真っ赤になるお嬢様。
それを愛おしそうに見る殿下。
そんな二人からレオナルド様が視線をそらす。
このまま来年のヒロイン入学までイチャイチャしてくれていれば、ヒロインの王太子ルートはバキッと折れるのでぜひともそのままで居てほしい。
「……ついたようですね。」
レオナルド様がそういうと、先に周囲を確認しながら降りる。
それに続いて降り、殿下、お嬢様と続く。
「…………久しぶりに来た。」
「レオナルド、マリアの案内を頼む。私はユリア嬢を謁見の間に連れて行く。」
「わかりました。行きましょう、マリア様。」
「えぇ。…………ユリア。」
不安そうな表情でこちらを見てくる。
それに笑いながら、その両手をとる。
「そんな顔しなくても大丈夫ですよ。レオナルド様から放れないでくださいね。」
「……わかったわ。」
「行ってきます。」
「気をつけてね。」
「ふふ、はい。」
お互いに背を向けて歩き出す。
殿下の後ろをついて行きながら、衛兵の立ち位置を確認してしまうのはもはやクセなので許してほしい。
「随分と信頼されているな。」
「お嬢様の護衛ですから。信頼されなければ意味がありません。」
「それはそうだが…………。」
「…………ヤキモチですか?」
「…………っ。」
え、嘘。マジで?
殿下ヤキモチ妬いてんの?
わ〜っ!お嬢様が知ったら喜びそう!!
「マリアは…………。」
「?」
「マリアは、どのように過ごしているのだろうか。」
「…………それは、お嬢様に直接お聞きください。」
「気持ち悪いと思われないだろうか。」
「婚約者同士なのだからある程度は問題ないのでは?」
「ユリア嬢はイヤではないのか?」
「あまりにも踏み込んだプライベートな質問はイヤですが……、今日は何をしていたのかって質問くらいなら答えますよ。」
とは言っても私がお嬢様の傍でやってることと言えば、特訓と護衛だけなので面白みには欠けるんだけど。
「クロード様。」
「マルクル様!」
「お久しぶりでございます、ユリア様。中でオズワルド様と陛下がお待ちでございます。」
左右に立つ衛兵がゆっくりと謁見の間へと続く扉を開いてくれる。
そして、見えた光景は玉座に本来なら座っているハズの陛下に対して四の地固めを決めるお父様で。
「おやおや、また戯れておられますね。」
「戯れ……!?マルクル、父上は一体……!!」
見慣れた光景だと言いたげなマルクル様と慌てるクロード殿下の差よ。
ソレに小さく息を吐き出して、顔をあげると玉座へと近づいていく。
「まだまだ現役だな、オズワルド……!!」
「そういう貴様は相変わらず頑丈だな……!!」
「仕方がない、ココは王家の威厳をかけたスーパーな絞め技を……!!」
「やれるもんならやってみろ……!!」
聞こえた声に、息を吸い込む。
「いい加減にしなさい!!!!」
「「!!」」
アワアワと見ていた衛兵と二人の視線が私に集まる。
「良い大人が情けない!!遊ぶなら後にして!」
「おぉ、ユリア。来てたのか。」
「戻ったか、クロード。手間をかけたな。戻って良いぞ。」
そう言いながらお互いを解放し、こちらに向き直る。
「ですが……。」
「かまうな。マリアを待たせているのであろう?早く戻りなさい。」
「…………はい、陛下。」
殿下が一礼し、出ていくのを見送れば、マルクル様がニコニコと近づいてきて。
「いやはや、さすがユリア様。あのお二人をそのように怒鳴りつけることができる令嬢は貴方だけですよ。どうです?私の孫に会う気はありませんか?」
「マルクル、娘を誑かすのは辞めてもらおうか。」
「冗談ですよ。」
親バカですねぇとニコニコするマルクル様はお父様で遊んでいるな、確実に。
陛下の合図で謁見の間に居た衛兵たちが外へと追い出されて行くのを見届け、二人を見上げる。
「まずはご挨拶を。お久しぶりです、陛下。」
「うむ、久しいなユリア。」
「ユリア、特に問題はなかったかい?」
「はい。ですが、ソフィアが入学してるのは普通に驚きました。前もって言っておいてください。」
「助っ人を送るって言わなかったかい?」
「誰が来るのかくらい教えてくださいよ!」
「あぁ、言ってなかったかい。まぁ良いじゃないか。学園の中にいた不穏分子は取り除いたのだろう?」
「食堂の事件ですか?あんなトカゲの尻尾切りに用はないですよ。私が求めたのはもっと大きな何かです。それなのに、あんな小物一人とらえるせいで、黒幕を炙り出せませんでした。アレは私の手柄ではなく、陛下の手柄です。」
そういえば、ニコニコとお父様が楽しそうに笑う。
どうやら、私が怒っているだろうことはわかっていたらしい。
「とりあえず、行こうか、ユリア。我が家に。」
「王都の別邸にですか?まさか今日はそのままお泊りですか?」
「今日と明日はこっちで過ごしてもらうよ。色々と話もあるからね。あぁ、大丈夫。その間、マリア・セザンヌ公爵令嬢は公務の関係で城にお泊りだから。」
「え。」
それってつまり……外泊ってこと!?
殿下とひとつ屋根の下!?
「よくソレをあの公爵が許しましたね……。」
「公爵は物分りの良い人だから。」
のほほんと答えるお父様に、ジトリとした視線を送る陛下とマルクル様。
どうやらお父様が何かしたらしい。
昨日お嬢様と公爵に届いたと言っていた手紙が原因だろうか。
「じゃあ行こうか、ユリア。」
「はい。陛下、マルクル様。失礼します。」
「いつでもお越しください。」
「そうだな、今度はその口うるさいのを置いて遊びに来ると良い。」
陛下の戯言にお父様がニコリと微笑み、私の身体をくるりと反転させる。
「さぁ、行こうか。皆が君に会いたがっていたから、きっと驚くよ。」
「ちょ、お父様…!?」
促すように背中を押され、謁見の間を出る。
そうすれば扉を守っていた衛兵たちが目をパチパチと瞬いて私達を見てくる。
それはそうだろう。
普通は親に背中を押されて令嬢が出てくるなんてあり得ない。
オホホホと笑ってごまかし、城をあとにした。
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感(ー人ー)謝




