手紙とポーカーフェイス
短めです
公爵家での生活は変わらない。
ステラさんがお嬢様の身の回りの世話をし、私はただ部屋の隅に立っているか、片付けをしているかだ。
今はちゃんと、片付けの仕事をしている。
あとで料理長にまかないをもらいに行こう。
「ユリア。」
「はい。」
「今日、辺境伯から手紙が届いていたわよ。」
「ありがとうございます。」
「私やお父様宛のものと一緒に入ってたから私が預かっていたの。コレよ。」
「ありがとうございます。」
「早めに目を通すようにと言っていたから、今読んで構わないわ。貴方の領地に何かあったのかもしれないし。」
「そうですか?では、遠慮なく。」
ソフィアが領地の方は問題がないと言っていたし、お父様も王都に来ているみたいだから心配ないだろうけど。
内容は気になっていたので、ありがたく封を開く。
公爵家に出す手紙だからか、紙が上質だ。
それに少しだけ領地でとれたライムの香りがする。
「…………。」
手紙を持つ手に力がこもり、クシャリと紙の端が折れる。
「ユリア?どうしたの?」
「…………なんでもありません。いつも通りの日常が書かれているだけでした。」
「それなら良いのだけど……。何かあったなら言うのよ?お父様や殿下にお願いして、領地に戻れるようにしてもらうから。」
「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですよ。ただ、予想外の内容でちょっと感情的になっただけですから。」
そう、全然予想していなかったの。
手紙の内容が、
────殿下に伝えてあるから従うように────
たった一言、たった一文。
何を伝えてあるのかも書かれていないその手紙。
いや、もはやコレは手紙と呼んで良いのかすら怪しい。
「さて、お嬢様。少し休まれたようですしお風呂に入る前に軽く特訓しましょうか。」
「え。」
「ちょっとユリアさん!夕食後は特訓しない約束ですよ!」
「大丈夫です。避ける特訓ではなく、ポーカーフェイスの特訓なので。」
「あぁ、なるほど。それくらいなら……。」
「私は王妃教育を受けてるのよ?他の令嬢に比べれば、優秀だと思うのだけれど。」
「殿下が関わると感情的になるように見えるのは気の所為ですか?」
「…………否定はしないわ。」
「お嬢様…………。」
「では、お嬢様。表情筋の準備は良いですか?三回勝負です。お嬢様が笑わなければ勝ちです。ステラさん、カウントお願いします。」
「いえ、今回は私がお嬢様の対戦相手をつとめます。」
その申し出に目を瞬く。
「良いのですか?」
淑女としてあるまじき行動ですとか言ってたのに。
「私は拾われて貴族になった身。ユリアさんほど表情筋は柔らかくないですが、そういう遊びなら負けません。」
「………わかりました。では、私がカウントを。ステラさん、手加減しちゃダメですよ。」
「望むところです。いきますよ、お嬢様。」
「えぇ、負けないわよ。」
こうして、ポーカーフェイスを鍛える特訓……、にらめっこが幕を開けた。
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