正式に婚約者
視線が集まる中、王妃の扇子を閉じる音で令嬢たちの囁き声がなくなる。
「家族、と申しましたか?」
「えぇ。私は、家族に忠誠を誓っております。」
「何故。」
「何があっても護ると決めたからです。」
「この会場に、コースター辺境伯家の者はいません。よってその答えは無効です。」
「いいえ。私が連れてきた侍女は大切なコースター辺境伯領の領民。私の大切な家族です。」
「…………。」
「血の繋がりだけが、すべてではありません。それは、ご存知でしょう?」
ニコリと微笑み、王妃の背後に視線を向ける。
「それで、私たちの答えには満足いただけましたか?皆様。」
「……流石ですね。」
「王妃様の口調が、わかりやすいくらいに元に戻りましたから。陛下がお近くにいらっしゃるのは予想がつきますよ。」
王妃の後ろから、陛下に殿下、皇太子が姿を現す。
それに悲鳴にも似た歓声があがる。
「流石の人気。マリア様、大変ですね。」
「あら。ソレは貴方もでしょ、ユリア。」
「マリア、良き解答だったぞ。やはり、マリアは国母にふさわしい。」
「ふふ、ありがとうございます。」
殿下が脇目も振らずにマリア様の腰を抱き寄せ、額に口づけをする。
お熱くて何より。
「ユリア、場馴れし過ぎな解答だったぞ。どれだけ死線をくぐり抜けば、自分で対処する発想になるんだ。」
「貴方方が私たちに毒を盛った数が、最低限くぐり抜けた死線の数よ。」
「ククク、容赦がないな?」
腰に腕が周り、横腹を撫でられる。
「ちょ、放しなさい!」
「ヤダね。やっぱり俺の婚約者はユリアだけらしいからな。」
「これだけの婚約者候補が居るのに!?」
「気づいてるだろ?あの質問に、彼女たちは答えられていない。あのレベルで国母になんてなられたら、国が滅ぶ。」
「もう少し優しい言い方できないの。」
「俺はユリアが傍にいればソレで良いんだよ。」
こめかみに唇が当たる。
文句を言っても、無駄らしい。
マリア様、そんなキラキラした目で私を見ないでください。
私より貴方のほうが、イチャイチャしてます。
「いがみ合いながらも、お互いを思い合う。素敵だな。エルディラン殿。」
「クロード殿には負けませんよ。ユリア、茶会は楽しかったか?」
「えぇ。とても有意義な時間だったわよ。色々な思惑が飛び交っていて、とても面白かったわ。」
「そのドレスの丈の短さも思惑の一つか?」
嫉妬にかられた視線がいくつも向けられる。
わかっていて意地悪く聞いてくる私の婚約者様は、本当にいい性格してる。
「ふふ、さぁ?どうだったかしら。」
「ったく……。」
植え込みに視線を向け、マリア様を見ればコクコクと頷くから。
「ところで陛下?あそこの植え込みに護衛でも潜ませて居るのですか?茶会が始まってからずっと、こちらを観察している人が居るようですが。」
「何……?」
「まぁ、私には関係ありませんし、どうでも良いのだけれど。ディル様、足は触れないでください。」
「触れたくなるだろ、コレは。」
「欲望に忠実ですか。皇太子でしょ、外面くらい保ってください。」
「許せ、触るだけだ。」
「充分アウトでしょうが……!!」
くすぐったいから、やめろと手首を掴んで引き剥がせば、素直に離れる。
足がまだ、触られてるような変な感じだ。
「ユリア、さっきの毒混入茶器の件だが。」
「?」
「なぜ、該当茶器と答えた?」
「わかっているのに、なぜソレを聞くんです?」
「答え合わせだ。」
息を吐き出して、向かい合う。
「毒を盛られたと判明したのは何故か。一つ、犯人を捕まえている。二つ、毒を飲んだ人がいる。三つ、毒が混入されるかもしれないと判明している。まぁ、だいたいはこの三つの要因が考えられます。異論は?」
「無いな。」
「じゃああとは簡単。犯人がわかってるのであれば、口を割らせれば良いし、毒を飲んだ人が居るなら、ソレだけ処分すれば良い。毒が混入されている可能性が判明した段階で、誰が狙われているかは見当がついている。ね?該当の茶器だけを処分すれば良いでしょ。」
「狙われているのが一人とは限らないだろ?その場合は?」
「それって、事前情報無しで二人以上狙われた場合の話?」
「あぁ。」
「じゃあ当日の参加者の動きを見てればわかるでしょ。内容物に毒が入っていたのか茶器に塗られていたかで、犯人はある程度絞れると思うけど。計画的な犯行にせよ突発的な犯行にせよ、日常の中に違和感は存在しているんだから。その違和感をちゃんと調べれば共犯がいても単独犯でも立証はできると思うけど。」
「証拠不十分で釈放はあるぞ?」
「私の家族が狙われたわけではない場合、私には関係ない話ね。私の家族が狙われていた場合は、証拠不十分なんて言わせない自信はあるから、心配ないわ。」
「ククク…あぁ、本当。」
「!?」
ガバッと抱きしめられる。
「俺の婚約者は最高だな。」
草むらに皇太子が背を向けるのとほぼ同時に暗器が飛んできて。
少し身体をひねり、指先で暗器を捉える、
「これみよがしな罠に引っかかってくれましたけど。怪我はないですか?」
「あぁ、お陰様で。」
私の身体を放し、暗器に視線を向ける。
その間、お茶会の会場警備をしていた騎士たちが草むらへと向かうが果たして捕まえられるのかどうか。
あ、ソフィアが捕まえてる。
あんまり危ないことしてほしくないのに。
あとで注意……言ったところで聞かないか。
「ユリア嬢!怪我は!?」
「大丈夫です。そんな青白い顔しなくても、来る方向がわかっていれば。」
「…………ありがとう、ユリア嬢。エルディラン殿も、自ら囮、感謝申し上げる。」
「気にするな……と、言いたいところだが狙いがわかった以上俺がココに居るのは良くない。すまないが、俺達はコレで。」
「ちょ……!!」
「あぁ、この暗器は渡しておく。」
私の手からソレを抜き取ると殿下に手渡して。
「さぁ、行こうかユリア。」
「腰を抱くフリして足を撫でるな!」
「つい。」
「ついじゃないわよ!」
「嫌なら次回以降裾の長さには気を配るんだな。」
ごもっともな言葉に、ぐうの音もでなかった。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




