頼もしい味方
知り合いが居ないというアドバンテージを活かし、殿下と一緒に下校。
もちろん、お嬢様と引き合わせるためだ。
取り囲まれる前に手を引っ張って外へと連れ出した。
「帰らないのか?」
「殿下を一人で帰らせるわけにはいかないでしょう。」
「だが、公務の時間が……。」
「貴方一人の公務ではないでしょう。」
「…………まさか、まだいるのか?」
目を丸くする殿下。
「何かあったのかもしれない。俺は良いから、マリアを……。」
「大丈夫です。」
「何を呑気に!」
「怒らないでください。そもそも、貴方たちが何もしてないから私とお嬢様のクラスが離れたのです。」
「それは…………。」
「デレデレとお嬢様の制服姿を思い浮かべていたのでしょう、やらしい。」
「な……!ち、違う!可愛いだろうなとは思ったが、別に……っ。」
「来ましたよ、殿下。」
「!」
お嬢様と……誰だ?
いや、見覚えがある。
気の所為じゃなければ、ものすごく見慣れた顔がだ。
向こうも私達に気づいたのか、こちらを見る。
バッチリと目が合う。
「クロード様。」
「マリア。」
私と二人並んで立つ殿下にマリアお嬢様が目を瞬く。
「わぁ、殿下!?顔はモロ好み。」
「「…………。」」
あまりに素直な反応に二人が固まる。
ジトーと彼女を見れば、ヘラっと笑って。
「顔だけですよぉ。私はもう少し筋肉質な方が好きです。」
良いのか悪いのかよくわからないフォローを入れる彼女に呆れる。
どうしようかと思った空気から一番はじめに立ち直ったお嬢様が咳払いを一つ。
「クロード様、どうしてココに?」
「それは……。」
「王都に不慣れな私のために通りを教えてくれてたのです。マリア様、今朝は本当にありがとうございました。殿下とマリア様は一緒に帰るのですよね?私は道を覚えるのでココで。それでは」
「あ、私も一緒して良いですかっ?あ、私の名前はソフィア・ローゼンって言います!」
「ユリア・コースターです。」
「あ、知ってます!貧乏貴族って呼ばれてる伯爵家のお嬢様ですよね!?親近感湧いて、一度お話したかったんです!私も貧乏な男爵家なんです!」
それにニコリと微笑む。
「それは、親近感湧きます。それでは一緒に行きましょう。マリア様、殿下、また明日。」
「また明日ね、マリア様!クロード殿下!デート楽しんでくださいね!」
ブンブンと無邪気に手を振る彼女を置いて先に歩き出す。
「あ、待ってくださいよ〜!」
追いかけてくる彼女を連れて、人混みに紛れると後ろを振り返る。
二人は無事に、同じ馬車に乗って王城へと向かった。
「よし、乗ったわね。」
「わざとらしすぎでしょ。ビックリなんだけど。」
「私の方こそビックリよ。男爵ってどういうこと。」
そう尋ねれば、いたずらが成功した子供みたいな笑みを浮かべて。
「お店入ろーよ、入ってみたかったんだぁ。」
「フィー。」
「怒らないで、お嬢様。ちゃんと説明するから。こんなところじゃ落ち着いて話せないでしょ。領主様に王都でおすすめのお店聞いてきたから、そこ行こ。」
「…………支払いはどうするの。」
「領主様がユリアを頼れって。」
「…………わかったわ。その代わり、ちゃんと説明しなさい。」
「はーい。」
ソフィアと二人、並んで歩く。
王都の町並みが珍しくて二人揃ってキョロキョロと見回す。
「あった、九命猫のごはん処。」
「お父様……。」
どう考えても女の子におすすめするお店の風貌してないって……。
「こんにちは〜!」
「ためらいないわね、アンタも。」
怖いもの知らずというか、好奇心旺盛というか……。
中に入れば、大衆食堂という感じで。
「上の階にどうぞ。」
一階は男ばかりだったせいか、女子と見るや二階を案内された。
学園の制服を着たままだから、もしかしたら二階は貴族専用なのかもしれない。
「あ、個室。」
「わ、この椅子可愛い!」
はしゃぎながら席に付き、メニューを見る。
どうやら比較的財布に優しい値段らしい。
さすが、大衆食堂。
いや、お父様。
貴族様御用達とかになると倍の値段するんだろうな。
「何頼む?」
「コレとコレと…あとコレ!」
「そんなに食べるの?」
「食べるよ!晩ごはん!」
「あぁ、なるほど。」
ソフィアと二人、店員に注文を告げてメニュー表をさげる。
「王都ってとっても素敵ね!」
「そうね。」
「見たことないものがたくさん!」
「そうね。」
「でもやっぱり、領地が好き。」
「……そうね。」
「照れた?」
「かもね。」
「もう!素直じゃないんだから!」
店員が持ってきた料理からは美味しそうな匂いと湯気が立ち込めていて。
そのまま料理を置いて部屋を出ていった。
部屋の前から気配が離れたのを見て立ち上がろうとすれば、ソフィアに手で制されて。
大人しく座り直せば、ポットが置かれたワゴンのクロスをめくる。
そしてそのまま黒い機械を指先で潰した。
そのまま部屋の中をぐるりと一周して、何気なさを装いソレを手に取る。
「見て!このガラス細工とっても素敵!」
「ほんとね。」
「わぁ、こっちの時計もすごいわ!我が家では絶対に買えないわね!」
「こんな素晴らしい品だもの、一部の貴族しか買えないようなものなのよきっと。それより、料理が冷めてしまうから、こっちに座って食べましょ?」
「え〜、もう少し見てみたい。」
「置物は逃げないわよ。」
「そぉだけど……。」
「私が食べるわよ。」
「それはダメ!」
ソレから遮るように、時計をソレに向けて置く。
「…………お父様からココのことは?」
「壊しすぎるなと言われてる。事故を装って壊せる範囲にしなさいって。」
「そう……。ワゴンのは…、付け忘れてたという店側の事故でも良いけど……。」
「ソレは後にしましょ。汚れちゃう。」
「そうね。」
コソコソと作戦会議を終えて手を合わせる。
「いただきます。」
「いただきまーす!わー、美味しそう!良い匂〜い!」
ソフィアの表の仮面をこんな間近で見られるのは久しぶりだ。
適当に相槌を打ちつつ、食事を堪能する。
「美味しい。」
「うん、美味しい。」
コレが、王都の料理か。
使用人になってから食べたものって、質素だからなぁ。
それでも領地で食べるものより豪華だったけど。
「アルベルトは一緒じゃないの?」
「呼んだら来ると思うよ、領地から。」
「そこまでしていらない。」
アルベルトの料理スキルはなぜか無駄に高いから、この味もきっと限りなく近い再現できることだろう。
「でもさぁ。」
「ん?」
「コレ、たしかに感動はするけど……。」
「…………。」
「アイツが作った料理の方が美味しい。」
「…………ソレ、失礼。」
「思ったくせに。」
「うるさい。」
料理を完食し、一息つく。
そして、聞かれても問題ない話を笑顔で口にする。
「明日からの学校生活、楽しみだね!クラスが離れてるのは寂しいけど、仲良くしてくれたら嬉しいな!」
「私もよ。困ったら助けてね。」
「うん!はぁ〜っ、明日からは毎日会えるんだね!またお話聞かせてね。」
「えぇ。話を聞かせてくれると嬉しいわ。きっと、知らないことが多いだろうから。」
「じゃあ、約束ね!」
明日からはソフィアがお嬢様を、私が王太子を。
手分けして守ることになる。
おそらくお父様たちは、だから私をお嬢様と離したのだろうから。
ソフィアが殿下に近づくよりは私の方が安全だろうけど……お嬢様気にしそうだな。
「助っ人、期待してるわ。」
「もちろん!任せて!」
絶対に、守ってみせる。
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