庭園茶会
王妃様からの招待状について、マダムシャーリーに相談すれば。
「それなら、お嬢様にオススメの良い品があるよ。」
そう言って用意されたドレスは可愛らしい牡丹色で。
珍しい色合いのドレスに目を瞬く。
いや、それよりも。
「丈が短い!!短すぎると思うの!!」
「おや、足が綺麗なんだ。隠すのはもったいない。でも、後ろは長いだろ?」
「ソレはそうなんだけど……!!」
フロントは膝上十五センチの絶対領域。
バックは四センチヒールを履いて裾がつかない程度。
「可愛い〜!これならユリアもお茶会で暴れることはないわね!」
「ソフィア。私の味方をして?」
「おー、よく似合ってるぞ姫さん。」
「アルベルト、私の味方をして?」
「?味方してるだろ。」
「どこがよ。」
「可愛いは正義って、姫さんよく言ってたじゃん。」
「う……。」
それはそうなんだけど!
でもそれは、なんか違う!!
「………はぁ、良い。大丈夫。一人で焦ってバカみたい。ありがと、マダムシャーリー、素敵なドレスを用意してくれて。」
「どういたしまして。」
「でも、貴族の子女は足を出すのご法度じゃなかった?」
「あら、そうだったかね?でもまぁ、流行を作るのはいつだって上位貴族だよ、お嬢様。」
悪巧みをする笑顔で見送られ、お茶会に来たのは良いものの……。
「流石ね、ユリア。視線が釘付けだわ。」
「マリア様の影響でしょう。」
「フフ、貴方のドレスよ。マダムシャーリーにしてやられたの?」
「わかります?」
マリア様が楽しそうに笑う。
今回の庭園茶会は限られた貴族の令嬢だけが集められているらしい。
立食パーティーのような感じで進められている。
貴族の令嬢だけなのに珍しいなと思って周囲を観察。
なるほど。
「ココに居るのは、婚約者候補の方々だけですか。」
「えぇ。クロード様と皇太子殿下のね。」
「マリア様の素晴らしさを見せつけ、不穏な動きを見せる貴族たちに牽制、ですか。なるほど、随分と面倒な役割を押し付けられましたね、マリア様。」
「あら。ユリアも同じでしょう?候補筆頭のユリア・コースターは注目の的。私以上に気をつけなくては。」
「私なんて眼中に無いですよ。お陰でこうしてゆっくりと歓談できるわけですが。」
「もう……。」
視線を感じ振り返れば、王妃がこちらを見ていて。
「マリア様、王妃がお呼びですよ。」
「貴方も行くのよ。」
「なぜ?」
「私は貴方を説得するように伝えられているから。」
「へぇ。説得とは何をですか?皇太子との政略結婚については、承諾しておりますが。」
「え、そうなの?」
「マリア様、表情。」
「あ。」
咳払い一つし、表情を改める。
「ある程度のパフォーマンスは必要かと思って。政略結婚のために仕方がなく嫁ぐという建前のほうが、スムーズでしょう?家族を護るためにも。」
「…………計算尽くされているのね。貴方には勝てる気がしないわ。」
「あら。妃殿下ともあろうお方がたかだか貴族に足元をすくわれていては、国政が傾きますよ。」
「ふふ、コースター辺境伯が今後も中立でいてくれることを望むわ。」
歓談の終わりを告げるのは、王城の侍女。
正確には、王妃様付きの侍女たち。
バラけていた令嬢たちが一箇所に集められる。
「楽にせよ。ちょっとした催しに付き合ってほしい。今から妾がいくつか質問する。その答えを庭園茶会にあるすべてのモノから探して述べよ。」
ざわつく令嬢たち。
少なくとも、ココにいるメンツが婚約者候補であることを理解している人たちは、この空間から正解を探すハズだ。
「明確な正解はない。全員、思うがままに答えてほしい。」
王妃の口元が扇子で覆い隠される。
表情を読み取りにくくするつもりか?
「今ココに曲者が現れ、一番に護るべきものは?」
「も、もちろん王妃様です!!」
「王妃様以外にありえませんわ!!」
「ほとんどの者が妾を選んでくれるのか。嬉しいことよ。して、マリア。お主の答えは?」
「我が身でございます。クロード様より、己の命を一番にと申し付けられておりますので。」
「ふむ。ユリア。お主の答えは?」
「標的ですね。流石に目の前で殺されるのを黙って見ているのは目覚めが悪いので。」
ニコリと微笑み応じれば、王妃が視線を戻す。
「では、茶器に毒を盛られたとしよう。どのように対処する?」
「そ、それはもちろん中身をすべて捨てますわ。」
「え、えぇ。他に手段が無いもの。」
ザワザワと令嬢たちの意見が飛ぶ。
「マリア、意見を聞かせておくれ。」
「触らずに注意を促し、会場を移動します。茶器のどの部分に毒があるかわかりませんから。」
「ほう。ユリアよ、そなたの意見も聞かせてくれるか?」
「該当の茶器一式を処分します。」
「……最後の質問じゃ。誰に、忠誠を誓う?」
「そんなの決まってますわ!!」
「王家でございます!!」
口々に王妃……ひいては王家だと答える。
ただソレを静かに受け止めている。
「マリア。」
「…………この国にございます。私は、国を背負う立場ですから。」
「ユリア、そなたは誰に誓う?」
「それはもちろん、大切な家族に。」
ニコリと微笑めば、王妃が扇子を閉じた。
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