最終決戦
今日は決戦の日。
大人の話し合いだと名だたる貴族たちが円卓の間に集められている。
そして、クロード・カルメ、ラチェット・カルメーラという王族二人に加え、本作ヒロインと偽物ヒロインがスペシャルゲストとして参加予定だ。
国の失態を浮き彫りにする可能性があるため、今回はディル様は不参加だ。
殿下に仕入れた情報の束は預けたみたいだけど。
「それで?ギル様を追い出したの?ダメよ、仲良くしなくちゃ。」
「国同士の問題に発展するようなことはしてないから大丈夫よ。」
「それを決めるのは、仕掛けた側ではなく、仕掛けられた側よ。」
「…………っ。」
「はぁ……。全く。ロイドもロイドだわ。アルベルトを私付きの護衛にとお父様が寄越したのに、連日アルベルトこき使うだなんて。」
ココ数日、寝不足気味のアルベルトを気にかけてはいたけれど。
人手不足の我が家では、私が別の仕事をしている間はアルベルトが動いてくれている。
「あ、そうだ。グレムート様が領地に帰る前に時間くれって言ってたから、帰る前に会いに行きなさい。」
「な…!勝手に決めて……!!」
「強行突破してみました。どう?」
「薄情者!私が王都の貴族嫌いなの知ってるでしょ!?」
「うん。それでも、グレムート様を好きになったことも知ってる。」
「────」
目を見開くソフィアに微笑む。
「グレムート様のプロポーズに待ったをかけたのもね。」
「!?」
「全く。そんな心配しなくても、私は大丈夫だというのに。貴方たちの領主よ?安心してほしいわ。」
「ま、待って!どうして知ってるの!?尾行!?」
「まさか。グレムート様がプロポーズ成功したらコースター辺境伯領に移り住むので、家を建てても良いですかって相談してきたからね。じゃあ、土地の相談も必要だから、プロポーズ後に声かけてって話をしてたの。そうしたら、一旦保留の話を聞いてねぇ。」
パクパクと口を開閉するも、言葉は何も無くて。
諦めたかのように、息を吐き出した。
「皆が私を許さない気がする。」
「ハハハッ!領地にグレムート様を連れて行った時、皆がどんな反応をしたか、忘れたの?」
「それは……。」
はじめは、嫌悪感を持った接し方だった。
それでも、グレムート様と関わって、人となりを知って、受け入れた。
皆はちゃんと、ソフィアの想いに気づいてる。
「それに、王都の貴族であるグレムート様が婿に来ただけで許されないのであれば、帝国の皇太子に嫁ぐと言った私は、殺されるんじゃないかしら。」
「そんな、こと……っ!」
「無いって言い切れる?戦場以外でまともに顔を合わせたことも、関わりを持ったことも無い相手に?」
「…………っ。」
ソフィアが下唇を噛み締めて俯く。
それに苦笑しながら、頭を撫でる。
「少なくとも、私たちコースター辺境伯とアルベルト、貴方のご両親は味方でしょ。」
「…………。」
俯いたままのソフィアの両頬を包み込み、顔を上げる。
ようやく目があったのに、今にも泣きそうで。
「選ぶのはソフィア自身。だから、私もこれ以上の口出しはしない。でも、そうね。」
ニコリと微笑み、目元を拭う。
「私と一緒に険しい荊棘道を辿って、地獄に落ちてくれたら嬉しいわ。」
「!!」
好きな人の手を取れない理由が周囲の目だというのであれば、私がすべて受け止めてあげる。
領民以外に心を開いた相手が、王都の貴族だからと言うのであれば、その上が居ることを知らしめてあげる。
だから……ね、ソフィア。
「泣かないで、親友。」
「……、っさい…。泣いて、無い。」
「あら、コレが涙では無いのならなんだと言うの?」
「汗。」
「ハハッ。じゃあ、脱水症状になる前に水飲まなきゃね。」
ギュッと掴まれる服に笑いながら、抱きしめる。
コースター辺境伯領という、死と隣合わせの領地に生まれて。
生きるために剣を握って、学んで。
両親ともに生きている子たちは、少なくて。
「ソフィアが号泣するなんて、いつぶり?久しぶりに見たわ。」
ソフィアは、領地の中では恵まれている方だと陰口を言われていたこともある。
両親ともに生きているから。
医学を身に着けた、唯一無二の強い後方支援担当だから。
でもその分、数え切れないくらいの死人を目の当たりにしている。
「……、ユリア。」
「ん?」
「わ、たし……っ。」
「うん。」
「かれ、が…、好きな、の…っ。」
「うん。」
大丈夫、大丈夫だよ。
好きって、伝えても大丈夫だよ。
恨みを背負うのは、私たち領主の役目だから。
「ユリアぁ。」
「なぁに、ソフィア。」
腕の中から少し離れて、目元を赤くしたソフィアが私をまっすぐ見つめてくる。
「わた、わたしのために、一緒に地獄に落ちて……っ。」
「ふふ、ソレは私がさっき言ったでしょ?」
「私がユリアにお願いしたんだからぁぁああ!!」
「あーあー、はいはい。ごめん、ごめん。」
「ユリアじゃなくて、私がお願いしたんだからぁああ!」
「わかった、わかった。大丈夫。ちゃんと、わかってる。こじらせた恋愛してる親友のために、地獄にくらい付き合ってあげるから。グレムート様には素直に言うんだよ、自分の気持ち。」
「ゔん。」
号泣するソフィアを抱きしめたまま、近づいてくる見知った気配に視線を送る。
「おー、久しぶりに見た。ソフィアがそんな泣いてんの。俺も混ぜてくんね?」
いつもと変わらない笑みを浮かべたアルベルトが、ハンカチを差し出しながら、ソフィアの頭を撫でる。
「バカ。」
ソフィアの小さな抗議の声に、顔を見合わせて笑った。
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