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辺境伯令嬢と皇太子

家庭教師であるワイナール夫人が用事があるからと早めに帰宅。


それじゃあ時間もあるしそろそろ勉強以外の書物に手を出そうと立ち上がる私に幼馴染たちが振り向く。


「あ、書庫行くの?私、ルナと定期報告してくるから一緒に行けないけど大丈夫?」

「大丈夫だよ。ルナによろしくね。」

「んじゃあ姫さん一緒に行くか。」

「うん。よろしく、アルベルト。料理本もいっぱいあったから、読んでね?」


アルベルトを連れて部屋を出る。

この部屋から書庫までが遠いのが難点だが、自由に動けるのはありがたい。


「王都でしか手に入らない調味料とか、気に入ったのあった?」

「おー。でも結構いろんなもん、姫さんと会長のお陰で手に入るようになったから、食堂のメニューは充実してるぜ。」

「それは良かった。」


少しでも王都の文化に触れて、興味を持ってくれたら嬉しい。

そうすれば、少しは王都への嫌悪感も和らぐと思うから。


「おや。珍しいところでお会いしましたね、ユリア嬢。」

「あら、本当。珍しいところでお会いしましたね、ギル様。さっき、通りすぎる気配を感じたのですが、まさかわざわざ戻って来られたのですか?」

「あはは…、実はユリア嬢にお願いがありまして。」

「お願い?」

「主とデート、してもらえませんか?」

「…………は?」

「実はココ数日例の件でずっと執務室にこもられてまして……。このままじゃ過労死は避けられないんです。」

「へぇ。そうなると帝国が衰退するのも時間の問題ですね。」

「笑えないです、ソレ。」

「期待されてないんですね、第二皇子様。」

「あ……。と、とにかく。主の休憩に付き合ってもらえませんか?城下……は、周知されると行けないので、ココでお借りしている執務室で。」


ふむ。

皇太子とは形ばかりの婚約者。

私は家庭教師がついて、婚約者候補として教育中という名目があるから皇太子と過ごす必要は無い。

これはお父様が陛下から勝ち取った権利らしいから、私はソレを利用して会わないようにしていただけ。


「例の件について、私たちに情報開示する気はありますか?」

「我々はコースター辺境伯には隠し事をしないと誓っております。」


あぁ、そうか。

使者としてこの国に来たときに交わした誓約書があるのか。


今頃ソフィアがルナからの報告を受けているハズ。


改めて帝国から情報を仕入れるのは至難の業。


「わかりました。」

「!」

「皇太子はどちらに?」

「ご案内します。」


ギル様がニコリと笑って先導する。


「良いのか?」

「うん。帝国が握ってる情報を知っておきたい。例の件以外でも、領地に関係のある情報は欲しい。」

「そりゃあそうだろうが……。」

「大丈夫よ。もしもの時は、武力行使で逃げるから。」

「わかった。」


アルベルトが真剣な顔をして頷く。


腰に佩いた剣は、コースター辺境伯の紋章が入っている。

帝国との戦いで扱っていた剣だから、アルベルトの手にも馴染んでいる。

だから、もしもの時は…………。


「こちらです。」

「!」

「主、ギルです。」

「入れ。」

「失礼します。」


ガチャリと扉が開かれる。

笑顔で促される室内には散乱した書類と、前髪をクシャリと握りしめてペンを走らせる不機嫌な皇太子。


なるほど。

王国内でマルエラン・ディ・シエルとして学園に通っている間は執務ができないから、皇太子としてココに顔を出している今、執務をこなしているわけか。


それでも、重要書類はこの王城内で手を付けてないように思う。


これらは……我が国の貴族から届いている嘆願書か。


陛下の政策にあやかる前に、美味しい思いをしたい貴族たちが多いらしい。


「主、少し休まれてはいかがですか。」

「そんな暇はない。それより、この書類、を……?」


あ、こっち見た。


「おい、ギル。」

「はい、主。」

「俺に言うことは?」

「休憩してください。過労死したいんですか。」

「過労死したら喜んでくれるか、ユリア嬢。」

「そうですね。」

「なら、このまま続けよう。」

「ですが、貴方が居なくなれば調子づいてさらに帝国からの進軍が過激化しそうなので、貴方が皇帝の座を得てから過労死してください。」

「なるほど。俺が死ねばこの和平条約も白紙になる可能性は大いに高い。」

「主、休憩する気になりましたか。」

「あぁ。ユリア嬢、護衛を連れたままで良いから俺の休憩に付き合ってくれるか。」

「貴方が例の件含めて私たちに情報開示をしてくれるのであれば、お付き合いしましょう。」

「ククク、良いだろう。では、こちらへ。」


促されるままソファに座る。

後ろに立つアルベルトに、隣を示せば大人しく座った。


「ギルが強引に連れて来たのだろう。悪いな。」

「今更ですね。」

「…………。」

「どうしたの、アルベルト。」

「いや……。なんか、改めて見ると、ものすごく見覚えがあるヤツに似てる気がして……。」


顎に手を当てて首を傾げるアルベルトに、口角が引きつる。


さ、流石……。


「戦場でほぼ毎回見ていた顔だからね。そういう誤解をしているんでしょ。」

「ん。姫さんが言うならそうなんだろうな。」


野生の勘は鋭いのよね、領地の皆。

とはいえど、マルエラン・ディ・シエルとエルディラン・マルシェが結びつけるのは難しいだろう。

髪の色も瞳の色も違うから。


それこそ、私が感じていた既視感をずっと感じている可能性はあるけれど……。


「どうぞ。」

「ありがとうございます。」

「ありがとうございます。」


紅茶の良い香りがしてる。

流石皇太子。

この高級茶葉を手に入れているなんて。


「例の件、詳細がわかったぞ。」

「!」

「レナ・ソリッド男爵令嬢は現在消息不明。ソリッド男爵はすでに彼女と縁を切って居るため、所在は掴めず。」


まぁ、ラチェット様が全力で匿ってるものね。

そう簡単には見つかるわけない。


「リナ・ソリッドという名前は存在しなかった。おそらく、偽名だろう。」

「存在しない?」

「あぁ。」

「なるほどね……。」


間違えた娘の名前を語っている上、存在もしない令嬢ということになる。


ということは、自分の名前では無いのか……?


「あと、学園名簿が改ざんされた痕跡を見つけた。」

「!」

「去年と今年前半、レナ・ソリッドという名前があった。だが、今年後半にはリナ・ソリッドと改名されている。改ざんする教師に心当たりは?」

「マーシャル・タールグナー。」

「あぁ……そういうことか。ちなみにだが、リナ・ソリッドは薬の使用者だ。遠からず、影響が出る。」

「不完全品だと決まったのね?」

「あぁ、確定だ。」

「そう……。」


カップを傾け、出されたお茶菓子に手を伸ばす。


ほんのりと甘くて美味しい。


「なぁ、姫さん。俺、そのリナ・ソリッド見たぞ。」

「え、どこで?」

「ココ。」

「え?本当??」

「あぁ。アレだろ?よく公爵令嬢に絡んで来てたロイド坊っちゃんと同級生の女子だろ?」

「そうそう。え、見たの?」

「あぁ。よく似てるけど、似てねぇじゃん?それに、雰囲気もチゲぇんだよなぁ。だから、多分、アイツがそう。でもなぁ……、髪の色っつうか、背丈が違う気がするんだよな……。」


視線を向ければ、小さく頷く。


「アルベルト、私、その人見てみたい。一緒に探してくれる?」

「おう、いいぜ。」

「じゃあ行きましょ!」

「話は良いのか?」

「うん、終わった。ごちそうさま、さようなら。」

「そっか。ごちそうさまでした。」


アルベルトを連れて部屋を出る。


薬の飲み合わせにご注意くださいって習わないのかしら、この世界では。

まぁ良いわ。私たちには関係ないもの。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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