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血塗られた手

戦闘場所からほど近い川に飛び込み、血を流す。


あ、一応下流で綺麗なところだから。

衛生的には良くないが、血まみれで歩くよりはマシだ。


町中で血まみれの人とずぶ濡れの人、どっちが良いかと言われれば私は断然後者だ。


「…………血なまぐさい。」


洗っても洗っても取れない。


長年染み付いたこの血の匂いだけは、こびりついてとれない。


「…………。」


じゃぶじゃぶと水をかきわけ、川から出る。


後は人目につかない通り(ルート)で帰るだけ。


「っし。帰るか!」


びしょ濡れの上着を脱いで帰りたいところだが、まだ明るい時間帯。

流石に良くないのはわかる。


「…………。」


視線だけを向け、邸に向かって歩き出す。

風が濡れた身体を吹き抜ける。

冷たい。


「…………人が出てきたわね。」


ようやく、いつもと変わらない日常になる。

人々が活気に満ち溢れた生活。


いつか、領地の皆もゆっくりと王都に来れたら良いな。


「……………………はぁ。」


しつこい。


相手にするつもりは無いけど、しつこい。


一体どこまでついて来るつもりなの?


こんな白昼堂々とストーカーされたのは初めてよ。


王都の邸の門扉が見え、私の帰りを待っていたセバスが少しだけ開いてくれる。


「お帰りなさいませ、お嬢様。」

「ただいま、セバス。皆は?」

「ご命令通りに、全員出払っております。」

「そう。良かった。」

「湯浴みの準備はできております。ベロニカが待機しておりますので、ゆっくりと温もってください。」

「うん。ありがと。」


私が門をくぐるのと同時に閉められる。


私たちの間に隔たりができる。


「お嬢様、彼はどうしましょうか。」

「どうもしなくて良いわ。ただのストーカーよ。」

「それはそれは。生かして帰すのですね、かしこまりました。では、ご要件は私がお聞きしておきましょう。」

「問答無用で追い返して良いわよ。」


チラリともう一度視線だけを向ける。

ただ、私の視線を静かに受け止めるだけで何も言わない。


「…………なんなの、一体。」

「お帰りなさいませ、お嬢様。まぁまぁ、随分と派手にお仕事なさいましたね。」

「ただいま、ベロニカ。色々と準備ありがとうね。」

「お気になさらず。湯上がりは身体を温める飲み物をお持ちしますね。」

「うん。お願い。全員出払うように作戦たてちゃったけど、困らなかった?」

「うふふ。こういうこと、旦那様や奥様がいらっしゃる時はしょっちゅうありましたよ。」

「え、そうなの?」

「えぇ。何より、セバスも残してくれているのはありがたいですね。邸に二人いれば、一通り手は回りますから。」

「そっか。」

「さぁさぁ、お話はこれくらいにして、まずはゆっくりとしましょう。」

「ありがと。」


テキパキと浴室に入り、身体を洗う。

あ、はちみつの香り。


浴槽……というか、ほぼ温泉みたいな浴槽に浸かる。


「あったかーい。身体、冷えてたのねぇ。」


俯くのと同時にポタリと流れ落ちる。


「……まずっ。」


慌てて目元を抑え、上を向いて呼吸を整える。


下を向いちゃいけない。

心まで弱くなる。


でも、何回戦場に立ってもなれない。


人の命を奪った感触を。匂いを。


重たくのしかかる。


「……ごめんなさい。」


私は、私の大切な人のために、誰かの大切な人の命を奪っている。

犠牲の上に成り立つ平穏を享受している。


重たくのしかかる責任。

家族には背負わせられない。

一緒に背負うと言ってくれた幼馴染たちを戦場から理由をつけて遠ざけて。

それでも彼らのところに賊が行かないとは限らない。


だから、生け捕りにするようにとお願いをした。


あの二人なら、何があってもやってくれるだろう。


「…………血の匂いがする。」


洗ってもとれない匂い。


はちみつの香りでごまかせているように感じるのに、まだ全然足りない気もする。


──…攻略キャラを攻略するつもり、あるの?


乾いた笑いが漏れる。


「こんな血なまぐさい人間に、誰かとハッピーエンドなんて、無理でしょ。」


それこそ、立場のある人で後継者が必要だと迫られる立場の人たちなら話は変わるけど。


私はモブキャラで、後継ぎではない。

ましてや、弟妹(キョーダイ)が多い長子だ。

しかも、誰にも秘密の人生二度目組。

ヒロインにはバレてるけど。


──…プロポーズは夢物語みたいにしてやるから、楽しみにしてろよ。約束だ。


鷲掴みされたような心臓の痛みに、唇を噛み締める。


「…………無いわ、絶対。」


鉄の味が、した。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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