無双
囮としての役目を果たすために、ずっと派手に動いていた。
王城内では大人しく書庫にこもっていたけれど。
お陰で、こんなにも上手く行った。
「おー、壮観。」
囲むように武装した人たちが動く。
360度どこを見ても物騒な人たち。
「想定よりも少ないわね。もう少し来るかと思ったのに。」
「ユリア・コースターだな。」
「ええ、そうよ。」
「俺達の商売を邪魔した責任はとってもらうぜ。」
「あら。人聞き悪いこと言わないでよ。貴方たちが私の邪魔をしたから、潰したの。」
アルベルトにはワイナール夫人とマダムシャーリーの護衛を任せているからココに来ない。
ソフィアにはルナたちを任せているし、そんなソフィアにグレムート様がついてるから心配もいらない。
完全に孤立。
でも、計算内。
「こんな往来で囲まれるなんて。私、本当よく暗殺者に囲まれるわ……。せめてもう少し人目につかないところで囲んでくれない?こんなとこじゃ、下級騎士団が駆けつけるのが速くて困るでしょ?」
「ソレは俺達側のセリフだろ……。」
「やっぱり規格外か、コースター辺境伯は。」
「下級騎士団はココには来れねーよ。さっき、他のやつらがこの町中でボヤ騒ぎを起こす準備に向かったからな。」
「私一人のために随分と大掛かりじゃない。感動で泣きそうだわ。」
ドナウ侯爵にはお父様から手紙が行ってるハズだし、ボヤに関しては可能性があることをギブハート団長に伝えてある。
今頃、怪しい人や物はお縄についてるだろう。
「貴方たち、誰の差し金?」
「予想はついてるだろ?あれだけ俺達を煽るようなことしてくれてたんだから。」
「えー、ぜんぜんわかんなーい。」
キャピッ、キュルルンと目をパチパチしてみる。
「うわ……。」
「可哀想……。」
「可愛い子がやるから効果あるんだな……。」
迷わず剣を一閃し、地面に沈める。
「えっ?」
さっきまで聞こえていた囁き声すらも鳴りを潜めた。
「女の子には可愛いという褒め言葉が無難だよ、オニイサン。」
「コイツ……!」
「気を引き締めろ!相手は、コースターだぞ!!」
おや、戦意が戻った。
良い号令役がいるね。
「戦場に立つ以上、生き死にが賭かっている。貴方たち、その剣を抜いたからには、覚悟はあるのね?」
「…………ッ。」
「一度見逃した命をもう一度見逃すほど、お人好しじゃないわよ?」
闇商人たちの隠れ家を襲撃してリーダーだけを捕まえてきた。
たったそれだけでも情報は手に入っている。
わざと逃がして泳がした私と、そんなことを知らずに追いかけ回していた下級騎士団。
その騎士団の追跡を免れた人たちがココに集まっている。
「や、殺れ〜!!」
号令と同時に踏み込んでくる。
あらかじめ住民たちには家からこの時間は何があっても出るなと王命が下っている。
もちろん、何のことだかわかってない人たちがほとんどだろうが、この地鳴りがトラウマになってはいけない。
未来ある子どもたちの未来は、明るいものでなくてはならない。
「戦なんて知らないほうが良い。」
斬り掛かってくる者を受け流しては斬り伏せる。
団体で斬り掛かってくるから、少し危ないかなと思ったが、なんてことはない。
統率力のない烏合の衆なのであれば、斬り伏せるのに苦労はしない。
「……そうは思わない?」
「……ッぬ!」
後方に吹き飛び、動かなくなる。
休む間もなく斬り掛かってくる人たちを相手しながら、逃げ出そうとする人たちを確実に仕留める。
「なんで、こんな……!」
「コイツ、化け物かよ……っ!!」
「誰だよ、相手は女だから勝てるって言ったの!!」
「知らねーよ!俺は逃げるぞ!?」
「バカ、やめとけ!!逃げたら命はねぇぞ!!」
「だけど……!」
「よく見ろ!逃走者には容赦ない死!だが!勇敢に戦ったヤツの中には意識失っただけのヤツもいる!!」
「え!」
お、気付いたか。
今回の私の役回りは派手に立ち回って、相手の戦意を消失させること。
そして……、
何の罪もない国民を殺させないこと、
合図があるまで、見向きさせないこと、
全員ココで討ち滅ぼすこと。
「……、ふう。結構減らしたと思うんだけど。やっぱ多いな。」
持ってきていた剣はすでに刃が使いものにならなくなった。
現地調達して戦っていたけれど、剣の質が落ちるから少し大変。
「おい、おかしくねぇか……?」
「何が?アイツ?もうおかしいだろ。なんでピンピンしてんだよ。」
「そうだが、そうじゃねぇ。なんで、騎士団が誰も駆けつけない……?」
「言われてみりゃあ……。」
ようやっと、違和感に気づき始めた。
でも、もう遅い。
「逃走者ゼロ名!ご協力感謝します!!」
そのセリフに剣先を地面に突き刺す。
「遅い!!!!」
「申し訳ない。」
「え、わ、コイツいつの間に……!くそ、放せっ!!」
「なんだ!?いつから紛れてた!?」
「さぁ、いつからだろうな?」
いつもの騎士団服ではなく、彼らと同じようにギルドの服に身を包んでいる。
そんな彼らを味方だと思い込み戦っていた意識のある生存者には、呆れる。
「敵と味方の顔すら覚えてないのは致命的だわ。」
「全員覚えているのは、貴方くらいでしょう。」
「基本でしょ。」
「味方だと思っていた人間に斬りかかられたら、貴方でも無抵抗で死ぬかもしれない。」
「試してみる?」
「御冗談を。これ以上動けません。」
両手をあげる騎士団長に向かって剣先を突きつける。
首筋スレスレ、後ろから襲いかかっていた敵は、呆気なく事切れた。
「味方に斬りかかられて無抵抗のまま死ぬ未来は貴方のほうが近そうね、ギブハート団長?」
「そのようだ。」
「では、私はコレで。行くべきところがありますので。」
「事後処理に騎士団を使うのは、コースター辺境伯くらいだろう。」
「使われたくないなら、職務を全うしてください。情報収集なんて、基本中の基本でしょ。」
王都の邸に戻って、情報交換といきますか!
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




