命がけの情報収集
以前、マリア様と一緒に潜入した入口を使って地下通路を進んで行く。
暗闇の中を二人迷うことなく足を進める。
「不自然なくらい、人の気配がしないわね。」
「当然だな。宰相が捕まった今、ココを集会場として使うのは自殺行為だ。どこよりも怪しいからな。」
「それでもココに来たってことは、何かしらの証拠があると考えたからでしょう?」
「あぁ。」
人の気配が無い空間に、警戒して足を踏み入れる。
なんだっけ、この匂い……?
「さっきまで誰か居たみたいだな。」
「残念ね。捕まえられたのに。」
置かれたランタンに近づけば、傍には数式やらが書かれた資料。
そして、わずかに火花を散らすランタン。
「まさか…………。」
「どうした、ユリア。」
「ディル様!!今すぐココから離れて!!」
「!?」
「早く!!」
重要そうなその紙束を手にとり、来た道をディル様の手を引いて走る。
大きな爆発音と熱風が背後から迫ってきて。
「────」
二人揃って身体を爆風で煽られ、身体が宙に浮く。
抱きしめられるのを感じながら目を閉じれば、冷たい風と共に地面に叩きつけられて。
目を開けば、土煙で覆われた空が見えた。
どうやら、地上にまで弾き飛ばされたらしい。
「…………、大丈夫か?」
「え、えぇ……。ありがとう」
「そうか。」
その腕の中から抜け出そうとして、動きを止める。
「……、ディル様、背中を……!!」
「何、大したことじゃない。一応、耐火性のある薬品を服に染み込ませているものを身につけていたからな。」
「強がりは良い!!あの爆風で無傷なわけないでしょ!?手当するから、服脱いで!!」
「嫁入り前の娘とは思えない発言だな。」
「軽口を叩ける余裕があって何よりよ。」
さっきの爆発で負傷した箇所が痛いのか、顔を歪めながら服を脱ぐ。
完全に、防御痕……。
ソフィアからあらかじめ多めにもらっていた火傷薬と傷薬を塗り込んでいく。
「庇ってくれてありがとう。でも、次からは守らないで。」
「それはできない。」
「…………。」
「お互いに予想通りの展開だっただろ?だから、その薬がココにある。アレは証拠隠滅のために仕組まれた罠だった。そうだろう?」
「……えぇ、そう考えるのが妥当ね。」
「そしてさっきユリアが回収していた紙束と、俺が回収してきた薬瓶。」
「!!」
「敵方の誤算は、俺達二人が、この可能性を考えてココに来ていたこと。そして、消したかった証拠品の一部を手に入れたこと。」
「…………じゃあ聞くけど、私たちの誤算はなんだと思う?」
「思ったよりもガスが溜まりやすい地形だったことと、俺達二人が負傷したことだな。」
土埃にまみれた手で、私の毛先にふれる。
「燃えてしまったか。すまない。」
「どうせ切るつもりだったから、気にしないで。」
「ごく普通の令嬢のように髪をいじる楽しみができたのに……残念だ。また伸ばしてくれ。」
「貴方に髪をいじられる予定は無いから。」
「今のところは、だろ?」
「…………。」
「回収してきた書類を見せてくれ。」
「野次馬ひしめくこの状況下で状況整理を始めますか。頭おかしいんじゃないの。」
突然の地下爆発で吹き飛んだ民家に、人々が集まりだしている。
下級騎士団が駆けつけるのも時間の問題だ。
「どっかの誰かが先んじて避難させていた民間人が戻ってきただけだ。気にする必要もない。」
「…………。」
「だがま、下級騎士団は駆けつけてくるか。仕方がない、取り調べは面倒そうだから、一時避難するか。」
衣服を身に着け、立ち上がるディル様に手を引かれて立ち上がる。
後ろに現れた気配に、彼を背にかばいつつ振り返る。
「そういうことなら、私と一緒に来てくれませんか?愛しきソフィア嬢からのお願いで、お迎えにあがりました。」
「グレムート様!」
「貴方たち以外の負傷者はゼロ。流石の読みです、ユリア嬢。さぁ、こちらへ。馬車を待機させています。ソフィア嬢が顔を険しくしてお待ちですよ。」
ニコリと笑って告げられる事実に苦笑する。
予想していたこととは言え、逃げ出したいわ。
ソフィア、怒ったら怖いのよ……。
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