苛立ち Sideエルディラン
三人だけの空間になる。
そして、扉の外にも気配が無いのを確認したのかムクリとお姫様が動き出して。
「……………………。」
「険しい顔をしてどうかしたか、お姫様。」
「お互い様でしょ、皇子様。」
至近距離で視線を交わしているのに、照れた様子もなく。
悔しくなって、離れようとする腰を抱き寄せる。
「ちょっと。」
「このままで良いだろ。それより、どうだった?あの男は。」
「どうって何。思ったよりも浅はかですね?思ったよりも若いですね?それとも、情報収集能力皆無ですね?」
「…………。」
「私の頭の中にはそんな罵詈雑言しかでてきてないけど??」
怒る獅子も可愛いとは。
それは罵詈雑言には当てはまらないと俺は思うぞ?
言っては火に油なのはわかっているので、言わないが。
「そう怒るな。じゃあ、あの女は?」
「それについては私から貴方に聞きたい。バカみたいな話を信じるの??」
「荒唐無稽な生い立ちのことか?信じるに値する振る舞いは充分しているだろう。まぁ、それであの程度なのが問題なんだがな。アレ程度で国母が務まるのなら国中人手不足が解消されるのは間違いない。なぁ、ギル?」
「えぇ、そうですね。あの程度で国母が務まるのであれば、エルディラン様も今頃伴侶が居たことでしょう。」
「一言余計だ。」
反省の色が見えないギルに肩をすくめ、腕の中で大人しくしているユリアを見る。
「学園に通って居る時から、あの女を気にしていたな。マリア・セザンヌとクロード・カルメの邪魔をしかねない存在だったからか?」
「そうね、ソレもあるわ。」
「も?」
「マルエラン・ディ・シエルとして通っていたなら、気づいているでしょ?彼女の人脈の異様さに。」
「ああ、そういう。」
「少なくとも私が学園に通っている間、あの二人に直接的な関係は無かった。あの二人が隠れて交流している様子も無かった。なのに、今このタイミングで関わりを皇太子であるエルディラン・マルシェに明かした。妙だと思わない?」
「なるほど、出来すぎてるわけか。」
「そう!」
嬉しそうに頷く姿に、唇を引き結ぶ。
畜生、可愛い。
「何より、彼女あんな名前じゃなかったと思うの。」
「リナ・ソリッド?俺が調べた時には男爵位になってたが。ギル、新しい情報はあるか?」
「ソリュート侯爵がいくつか帝国から薬品を買い漁っていたということくらいですね。」
「あ?なんでまた。」
俺達が会話している間、考える素振りを見せて。
そして、ニヤリと口角を上げた。
「ユリア?」
「ねぇ。」
コースター辺境伯にとって、俺達帝国と関わる連中は全員敵だ。
助ける価値も生かす理由もない。
それでも、何かを伝えようとしてくれる。
少しは信用されていると思っても良いのだろうか。
「貴方は帝国の皇太子?それとも、私のディル様?」
「────」
「答えて。」
あぁやっと、この姿の時に呼んでもらえた。
しかも、私のときた。
「俺は、誰がなんて言おうと皇太子だ。だが、ユリア・コースターの婚約者である以前に学友だ。」
「だったら、帝国よりも私を選んでくれる?」
「選ぶ。」
「わかった。」
「信用するのか?」
「何年剣を交えたと思ってるの。疑うほうがおかしいでしょ。」
言い切る潔さに心地よさを覚える。
本当、最高だ。
「話を聞こうか、お姫様。」
そう応じれば、笑みを深めて俺を見た。
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