取引
隣を歩く婚約者の視線を感じつつ、目的地へと向かう。
「意外だな。」
「何が。」
「俺が贈ったドレスは質に入れられたと思ってた。」
「えぇ、いれたわよ。遠慮なく。流石に城内で過ごすのに普段通りの格好がダメなことくらい知ってるわよ。」
それでも、彼から贈られたドレスに手をくわえ機動性の確保と暗器を仕込めるように改良した。
「ソレ、自分でしたのか?」
「懇意にしてる職人にアドバイスはもらったけどね。貴方、私のこと可愛い令嬢にでも見えてるの?どう考えても、私には似合わないデザインのドレスだったけど。」
「可愛いだろ。」
「は?」
何を言ってるんだコイツは。
ソレを本気で言ってるのであれば、戦場と学校生活でのギャップ萌を感じているのかもしれない。
「まぁ、なんでも良い。俺が贈った物を身につけてくれるなら。」
「……………………婚約者としての義務に独占欲なんて必要?」
見上げれば、口角を上げる。
「俺には必要だ。じゃねーと、本当に大切なもんを取りこぼすからな。」
応接室の前に立つ。
「準備は良いな?」
「えぇ。」
扉を開き、中へと入れば客人の後頭部が見えて。
彼のエスコートを受けつつ距離を縮める。
「待たせてしまったな。」
向かい合うように座る。
この男性は……。
「いえ、約束の時間より早くついただけのこと。お気になさらず。」
「寛大だな。」
婚約者を連れて会うとは思ってなかったらしく、怪訝な顔をされた。
それもそうだろう。
私でもそういう顔をする。
ニコリと微笑んでギル様の淹れた紅茶を飲む。
ほんのりとアルコールの味がする。
「それで、話とはなんだ?」
「…………今後の我々の関係について、お話ができればと。」
チラリと横目で確認されるのを感じつつ、焼き菓子に手を伸ばす。
あ、マリア様が好きなクッキーだ。
よく殿下が手土産で持ってきていたから、覚えてる。
美味しい。
「王国と帝国の関係なら、良き相手と出会えたから良好な関係を築けると胸を張って言えるな。」
「……、どこのご令嬢かは存じ上げませんが、政略結婚でしょう。本当に上手く行くのですか?」
「なんだ?信用が無いのか。このように俺達は仲が良いんだが?」
肩を抱くように腕を回される。
ニコリと貼り付けた笑みを浮かべて頬を手のひらで押す。
「そんなに引っ付いては、お茶をこぼしますわ。お客様の前なのですから、我慢なさって?」
「なんだ、遠慮はいらないぞ?いつも通り振る舞うと良い。」
ニコリと同じように外行きの仮面をつけて微笑まれる。
そっちがその気なら、仕方がない。
「もう。この話し合いに影響が出ても知りませんわよ?」
足の上に座って彼の首に腕を回す。
少し跳ねる肩に小さく笑い、耳元に唇を寄せる。
「…………ほら、馬鹿な令嬢のフリしてあげてるんだから、さっさと話を進めなさい。」
ポンと一回背中を叩かれる。
「ご覧の通り、愛し合っているんだ。良い相手に巡り合えたと国王には感謝しなければな。我々の未来は未確定だ。その懸念もわかる。だからこそ、いい話があるのなら、聞かせてほしい。」
愛でるように髪に手を触れ、くすぐったくて身を捩る。
「俺は、より良い外交のためにココに居る。」
「…………なるほど。話の分かるお人のようで安心しました。ご令嬢は……。」
「あぁ、構うな。彼女には酒入りを飲ませたからな。すでに夢の中だ。」
寝たフリをしろってことね。
というか、そのための酒か!!
「それで?どういった話なんだ?」
「…………私には、一人娘が居ます。」
「ほう…?政略結婚の相手を娘に変えてほしいということか?」
「いえ。娘は殿下の足手まといにしかなりません。知識は積み重ねた実績と年数で換算されます。」
「…………なるほど、一理ある。」
「私の知り合いに、殿下を支えたいと常日頃言っている者がいるのです。」
「その者は会えるのか?」
「もうすぐココへ、私の使いとして侍女が一人参ります。お会いいただけるのであれば、入室の許可を。」
「……ふむ。」
予測されるのは、愛人の誰か。
もしくは今回のために用意された相手。
私の短い髪を撫でて思案する皇太子の表情は私からは見えないけれど、手つきからして苛立っているのはわかる。
「……どう思う?」
小さな声で尋ねられるソレに伏せていた目を薄く開ける。
「良いと思うわよ。」
「……そうか。」
多くを語らずとも通じるものはある。
「ギル。開けてやれ。」
ギル様が扉を開くのと同時に気配が一つ、室内に増える。
相手の顔が見れないのは残念だ。
「この者か?」
「えぇ。ご挨拶を。」
「お初にお目見えします。」
この、声は……っ。
「ソリュート侯爵よりご紹介に預かりました、リナ・ソリッドと申します。」
ヒロインか!?
いや、でも……。
「ソリッド?」
「我が国の男爵位を賜った者です。私の姪に当たりまして、見かけはこのように幼子ではありますが、三十を超える妙齢の女性です。」
「……………………ほう?」
「疑われるのは当然だと思います!でも私、人生二度目!前回は三十半ばで人生断念し、今世十八と見た目は殿下よりも年下です!精神的にはすでに殿下よりも年上ですので、色々と御役にたてるかと!」
元気なヒロインに似た声が耳へと届く。
「……そう来るか。」
小さく怒気をはらんだ声が耳へと届いた。
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