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婚約者の条件

料理が運びこまれ、テーブルが埋め尽くされる。

大した量を頼んでもないのに、一つ一つのお皿が大きいせいか。


「…………貴方に聞きたいことがある。」

「だろうな。先に答えを言おうか。その予想はすべて正しい、と。」


目を閉じて深呼吸をする。


帝国が秘密裏に開発していた薬。

マルエラン・ディ・シエルとの関係。

偽物宝石の出どころ。


それらすべてが正しいと言うのなら。


「私を婚約者に指名した理由は。」

「聞かなくてもその答えを導き出せたハズだ。」


それは、私の考えを肯定するもので。


「はぁ。年頃の娘を一体何だと思ってるのかしら。まぁ、良いわ。お父様とも話を済ませているのでしょう。私がどうこう口出すことじゃないから、受け入れましょう。」

「話が早くて助かる。他の令嬢だとこうはいかないからな。」

「陛下が淑女を数名紹介したと聞いたけど。私以外にもいたでしょう、条件を満たせる人は。」

「皇太子妃という肩書はそう簡単に手放したくないもんなんだよ。」

「へぇ。」


でも、そうか。

未来の国母ともなれば、莫大な富と名声が手に入る。

贅を尽くした生活を送れるともなれば、夢見る人は多いか。


「お姫様は興味ねーからわかんねぇか。でも、その価値はわかるだろ?」

「まあね。じゃあ、私たちの関係はマルエラン・ディ・シエルが学園を卒業するまでで良いのよね?」

「…………そうだな。」

「そうよね。半年もあれば、問題の解決はできるだろうし。」


良かった。帝国に嫁ぐなんてことになれば、領地の皆が何と言うか。

帝国が嫌いで貴族嫌いなのに。

そんなところに私が嫁ぐなんてことになれば、暴動が起きかねない。


「…………好いてるヤツがいるのか?」

「貴方に関係ある?」

「仮にも婚約者だ。噂話に尾ひれがついて、この関係に亀裂が入ることは避けたい。」

「なるほど、それもそうね。安心して、貴方の婚約者としての役目は果たすから。とは言ってもこの国にいる間に、出番はないだろうけど。問題解決に集中するわ。」

「…………。」

「はぁ。既視感の正体がこんなサラッと明かされるとは思ってなかった。なんかもう、イライラとかビックリよりも、疲れが上回るわ。」

「なんだ。拍子抜けだな。」

「?」

「一発くらい殴られる覚悟をしていたんだが。」

「最後まで見抜けなかった自分自身に嫌気はさすけれど、それだけよ。」


はぁ、ヤケ食いすっか。


て、あれ?


「そう言えば、なんで今日は薬使って容姿を変えなかったの?ネタバラシするなら、そっちのほうが良かったんじゃない?」

「機密情報だぞ。誰かに見られたらどうする。」

「それもそっか。」

「聞くが。なんで、コースター辺境伯は答えに行き着いたんだ?」

「あらゆる情報を精査した結果よ。あくまで憶測の域を出ないものに数通りの答えを用意する。何事もそうでしょう?その中で信憑性の高いものを選んだだけ。」


本当は、研究資料を見つけただけなんだけど。

そこまでは言わなくて良いし言う必要もない。

私たちの関係はあくまで政略結婚(ビジネス)の延長線上にあるのだから。


わ、甘くて美味しい。


「そうだ。一つ聞きたかったんです。」

「なんだ。」

「娯楽施設襲撃。」

「!」

「貴方に変装したギル様ですか?」

「…………理由を聞こうか。」

「貴方が一人で出歩くなんてありえないでしょう。」

「今だって一人じゃないか。」

「ハハッ!おかしなことを言いますね?私は、護衛もつけずに一人で来いと言ったんです。まさか、合流した時から貴方の後ろについていた気配に気づいてないとでも?今だって、物陰からこっちを伺ってる。」


私も彼もテラス席を選んだのは、人目につくから。

もし、襲撃されたとしても目撃者が多く存在するテラス席のほうが、お互いに潔白を証明できるから。


「…………はぁ。王侯貴族の護衛無しは、不可能だ。わかっていて、あんな条件を出しただろう。」

「えぇ。だから、何も言わなかったじゃないですか。今の今まで。本当に二人きりで行動するつもりなら、護衛を振り切るくらいしますよ。」

「なるほど。俺達の出方を見ていたのか。」


ニコリと微笑み、口を潤す。


「それで、教えてくれる気になりましたか?」

「…………ご明察だ。」

「それで納得いきました。」

「上手く化けれていたと思うんだが?なぜ、気がついた。」

「私の自慢の幼馴染が、見慣れない太刀筋だったと言っていたので。」

「!」

「戦場で剣を交えてきたんです。帝国剣術も帝王剣術も私たちは日々見ています。そんな領民が、見慣れないと言った。だったら、答えは絞られます。」


暗殺剣術は、皆に教えてない。

お父様もお母様も、そんな物騒な剣術は覚えなくて良いと排除してきたから。

私たちは、もしものために叩き込まれたけど。


「ククク……なぁ、お姫様。もし、お前自身か領民を婚約者として差し出せと言ったら、どうする?」

「わかりきった答えを聞かないで。不愉快よ。」

「あぁ、そうだな。そういうと思った。」


楽しそうに笑う。


思わず眉間にシワがよる。


「お姫様。」

「…………。」

「提示された条件はすべて呑んだ。オズワルド・コースターと誓約書も交わした。あとは、ユリアが役目を果たすだけだ。役目を果たせない時は、代わりを用意してもらうしかない。」


汚い真似を……。

そんなつもり、一切ないくせに。

それでも、権力(ちから)があるから、現実にできる脅し文句だ。


「頼りにしているぞ?婚約者殿。」

「貴方は最低の婚約者だわ。」

「最高の褒め言葉だな。」


さっさと仕事を終わらせて領地に帰ろう。


そう心に決め、口に放り込んだ。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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