エルディラン・マルシェ
晩餐会から四日後。
皇太子殿下のお誘いにより、会うことが確定。
「それじゃあ行ってくるわね。」
「本当に一人で行くつもり?アルベルトくらい連れて行けば?」
「ダメ。ギル様も連れて来るなって言っておいて私が護衛を連れていたら、皇太子を暗殺するつもりかって思われる。」
「でも……。」
「大丈夫よ。ただのお忍びだから。じゃ、行ってくるわね。」
会う場所は任せるということだったので、護衛無しの城下集合にした。
人目につく場所なら、何もできないだろう。
「えっと、確かこの道を右……。」
一人で移動することあまりなかったから、うろ覚えなんだよねぇ。
「……っ?」
暗器片手に振りかぶれば、手首を受け止められて。
「っと。俺だ。悪い、ふざけすぎた。」
対して悪いと思ってない表情で見下ろしてくる相手を睨みつける。
ごめんで済んだら警察はいらねぇんだよって言葉がこの世界に無いのが残念だ。
「はぁ……。」
放された手に、暗器を再び隠す。
「時間通りだな。」
「えぇ、そうね。」
「それで?どこに行くつもりなんだ?」
「目的地で良いの?」
「?」
「監視されてるから、外にあまり出れないって聞いてるけど。見たいものがあるのなら、案内するわよ。」
「────」
大きく目を見開かれる。
そんなに驚かなくて良くないか?
「コースター辺境伯の監視下でしか、自由に動き回れないでしょ。」
「…………ククク。」
「何?」
「いや。戦場で剣を交える相手と買い物デート行けるとは思ってなかったから。」
「今日は寄り道無しで直行直帰にしましょう。」
「今日はか。」
「…………なに。言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ。」
「いや。一箇所だけ、寄り道して良いか。」
「えぇ。何がみたいの?」
「インク瓶が割れてな。」
「え、大変。それなら、良いとこ知ってるから案内できるわよ。」
「頼む。」
「こっち。」
いやぁ、マリア様行きつけのお店だってステラさんに教えてもらってたんだよねぇ。
あと、マダムシャーリーからも評判が良かったから大丈夫だと思う。
「このお店よ。」
ドアベルが鳴り響き、店内に入れば。
今の私たちの格好とは不釣り合いな物が並んでいて。
「…………コレにする。」
「!早いわね。」
「即断即決、だ。迷っても良いことなんかない。」
「時と場合によるんじゃない?」
「払ってくる。」
レジに向かう後ろ姿を見送り、棚に並ぶ商品を見る。
うわ、高っっっ!
侍女仕事でもらってたお給金二カ月分は飛ぶんだけど!?
さ、さすが王都……。
「待たせたな。」
「買えて良かったわ。」
でも、落ち着いて考えれば高くて当たり前なのよね。
マリア・セザンヌ公爵令嬢が利用している店なんだものね。
「他に必要なものは?」
「特には思いつかねぇ。」
「じゃあ、行きましょ。」
皇太子を連れて、九命猫のごはん処に向かう。
「ん?」
幼い子供が人通りから外れて泣いている。
つまり、迷子の可能性があるわけで。
「どうした?」
「ちょっときて。」
近づき、視線を合わせる。
「どうしたの?」
「……だ、れ?」
「私、ユリア。貴方のお名前は?」
「……メメ。」
「そっか。メメは、どうして泣いてるの?」
「…………ま、ママと、はぐ、はぐれちゃった……っ。」
「ママとお出かけしてたの?」
「うん……っ。ど、しよ……っ。おうち、メメ、ひとりでかえれない…!うえぇぇん!!」
「あー、泣かないで。ユリアが一緒に探してあげるから。」
「……、ほんと?」
「本当。だから、もう泣かないで。」
よしよしと頭を撫でて、身体を抱き上げる。
「お人好しだな。」
「そのお人好しが貴方の婚約者よ、諦めなさい。てことで、肩車してあげて。メメ、このお兄さん背が高いから、ママを見つけやすいと思うよ。」
「……、ママ……?」
「ったく……。」
文句の一つでも言われるかと思ったけど、素直に肩車をしている皇太子。
「わー!パパよりたかいっ!!」
「良かったな。落ちるなよ。」
「うん!!」
良かった、涙が止まったみたい。
人混みに揉まれながら道を行く。
「────ッ!!」
「────ッッッ!」
「向こうから叫び声が聞こえるわ。」
「ママかパパ見えるか?」
「んと……、いた!!」
人混みをかき分け、声の主へと近づけばご両親と思しき人が駆け寄ってきて。
それに、肩から下ろす。
「ママー!!パパー!!」
「良かった…!!ごめんね、手を放して……!」
「本当に良かった…!あの、ありがとうございました!本当に、ありがとうございます…!」
「いいえ、気にしないでください。無事に再会できて良かったです。」
会えなかったら下級騎士団の詰め所に連れて行って、探してもらう必要があったから。
「……、コースター辺境伯様ですか?」
「え?」
「あの、馬車から助けてもらった者です……!」
「…………あぁ!あの時の!額の怪我は大丈夫ですか?」
「はい。あの後、言われた通りに糸を抜いてもらって。今ではこの通り、目立たなくなりました。」
「それは良かった。」
「あの!今更ですが、何かお礼を……っ。」
「そうです!あの時のことと今のことをあわせて何か…!!」
ご両親の気迫に苦笑しつつ、少し考えて。
「あ、それなら。おすすめの食べ物ありますか?私たち、色々美味しそうなお店見て回ってるんですけど、決めきれなくて困ってるんですよ。」
「え……?」
「そんなことで良いんですか……?」
「そんなこと?とっっっても重要なことですよ?美味しい食べ物って、とっても貴重なんですから!」
安物だとか高級品だとか、文句を言えるのは贅沢だ。
ちゃんとした食べ物が欲しくても手に入らないあの時に比べたら。
「それなら、この先にある九命猫のごはん処はオススメですよ。お貴族様が隠れて利用されてますし。あ、でもデートには不向きかもしれません。」
「あとは…………あ。あそこはどうかしら?ほら、青い屋根の。」
「あぁ、九尾の甘味処?確かに、あそこなら穴場かもな。」
「わぁ、そういうの大好きです!どこにあるんですか?」
「ココから三ブロック進んだ先を左に行けばありますよ。九命猫のごはん処の店主が、運営する店なんですけど、色々あるんですよ。」
「九命猫のごはん処と店主が一緒なら間違いないですね!私あのお店好きなんですよ!良いお店教えてくださり、ありがとうございます!」
「いえ。こんなことで良ければ、いくらでも。」
「こんなこと、なんて言わないでください。生きて美味しいものが食べられるなんて、とっても幸せなことですよ。幸せのお裾分け、ありがとうございます。」
バイバイと手を振って、家族から離れる。
「良いお店を教えてもらったわね。買い物が無いなら、行きましょ。」
「……あぁ、そうだな。」
三ブロック進んで左。
見えてきたのは九命猫のごはん処と同じように、女性が入るのはためらう見た目をしている店。
「ココだな。」
「ね。入りましょ。」
「躊躇無しか。」
「即断即決、でしょ?」
店内に入れば、作りは九命猫のごはん処と同じようにフロアが分けられていて。
「テラス席もございますが。」
「「テラス席で。」」
そう応じれば、二階のテラス席に案内された。
人がまばらで良い感じだ。
「わぁ、軽食とデザートがいっぱい。どれにしよ……。」
「コレにしたらどうだ?」
「?」
「よく食べていただろ。」
その一言が、すべてを裏付けた。
「ねぇ。」
「なんだ。」
「私は、貴方をなんて呼べば良いの?私、ずっと悩んでるんだけど。」
ニヤリと口角をあげ、店員を呼ぶとそのまま注文を通す。
私が何を頼むか、わかっているみたいに。
「いつも通り呼べよ。そのために、呼び方をセカンドネームにしたんだから。」
「…………。」
「改めて自己紹介だ。俺は、エルディラン・マルシェ。第一皇子だ。お姫様、貴方のお名前は?」
私の憶測を否定もせずにニヤリと笑った。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




