AクラスとDクラス
一学年、AからDの四クラス構成。
今日はついに、入学式だ。
ヒロインが入学してくるのは来年だから、本編は始まらないだろうけど。
学園までは、お嬢様と同じ馬車で向かう。
帰りはお嬢様が馬車、私は徒歩の予定だ。
公爵が馬車を別で出してくれたら問題ないけど。
「そんな顔しなくても、大丈夫ですよお嬢様。学園内で暗殺しようなんて馬鹿、そうそう居ません。」
「…………。」
「あ、それとも婚約者様の心配ですか?大丈夫ですよ。婚約者のいる殿方に言い寄る常識外れな方はそうそういないでしょう?小説の中だけです。」
まぁ、ココが物語と大差ないことをステラさんにも聞いてるから、気休めにもならないだろうけど。
というか、私からすればこの世界はゲームの中なんだけどね。
「……私が婚約者であることを、疎ましく思っている方々は大勢いるわ。」
「貴方ほど彼を愛してる人はどこにもいませんよ。」
お嬢様の視線が窓の外から私へと移る。
「公爵家の教育は王家と変わらないと聞きました。私からすればどの貴族も素晴らしい教育を受けているので、違いはわかりませんが……。少なくとも、暗殺者に狙われて一撃で死なない令嬢は我が辺境伯家と貴方くらいです。自信持ってください。」
「…………殿下に嫌われたらどうしましょう…。」
「自衛できることが疎ましくて、ですか?自衛できることのありがたみもわからないような無能王子ならやめておいた方が良いですね。生涯ともにする相手としてふさわしくないです。」
「…………。」
「まぁ、どうするかは貴方たちです。私は約束の日まで貴方を守るだけです。」
「でも、学園では他人のふりをするのでしょう?この状況を見られたら、他人のフリは難しいのではなくて?」
「あぁ、大丈夫ですよ。徒歩で学園に向かう貧乏貴族の辺境伯家ご令嬢を見かねた王太子の婚約者であるマリア・セザンヌ公爵令嬢が渋々馬車に乗せてくださったという理由なので。」
「…………。」
「ご心配には及びません。初日の今日さえ乗り越えれば私も道順を覚えますので。それに、貴方の護衛ですから。貴方がどの手段で学園に向かわれたとしても、ちゃんと近くにはおりますので大丈夫ですよ。」
馬車がゆっくりと停車する。
お嬢様が降りたのを確認して、後ろに続く。
「わぁ…!!ココが、学園……!」
見たことある〜!
プロローグとかオープニング映像で流れてた、この光景…!!
視線が集まるのがわかる。
「ご親切にしていただき、ありがとうございます。なにぶん王都は不慣れなもので、大変助かりました。ご迷惑ついでに、教室までご一緒してもよろしいですか?」
「……えぇ、構わないわ。」
「ありがとうございます、マリア様。」
私の態度に違和感があるようだが、慣れてもらわなければ困る。
それに、私の助っ人っていうのも気になるし。
「王都に来て一番初めに出会えたのがマリア様で良かったです!クラスも一緒だったら良かったのに……。」
「…………。」
「マリア様はAクラスで私はDクラス……離れてしまいましたね。」
ちなみに殿下も私と同じクラスだ。
陛下め、辺境伯家に依頼出して来たんだから同じクラスにするくらいのことはしてくれれば良いのに。
「そうね。」
「お見かけしたら声をかけてもよろしいですか?」
「好きにしなさい。」
「はい。」
お嬢様のためにAクラスの名簿確認しておかないと。
とにかく、同じクラスなのは……ソフィア・ローゼン?
ローゼンなんて家名、あったかしら?
「ローゼン……?」
「あ、やっぱり気になりますか?」
「えぇ。」
「調べておきます。」
「ありがとう。」
「それから、殿下のことも心配せずに。貴方はご自分のことだけを考えてください。」
「わかったわ。」
お嬢様をAクラスまで送る。
私はこの先にあるDクラスに行かなきゃだし、ココでお別れだ。
そんな顔されたら別れづらいけど。
「ありがとうございました、マリア様。」
「えぇ。」
クラスに不審な人物はいないし、今後の動き次第だな。
気をつけておかないと。
自分のクラスに入れば、すでに殿下がいて。
目が合う。
「お久しぶりでございます、殿下。」
「久しいな。元気だったか?」
「はい。おかげさまで。」
「そうか。王都は半年ぶりだろう、困っていないか?」
なるほど。
公的に訪れたのは陛下に謁見したあの日だから……。
そうか、もうあのめちゃくちゃなお願いから半年もたったのか。
そう考えると少し感慨深い。
「学園への道がわからなくて迷っていたところ、マリア様に助けていただきました。良い婚約者をお持ちですね、殿下。」
「そうだろう、自慢の婚約者だ。」
視線が突き刺さる。
笑顔で話す私達が顔見知りだとは誰も思わなかったと言いたげな表情だ。
こうみえてもちゃんと貴族なので、顔くらいは知ってる。
「王都は慣れていないだろう?何か困ったことがあるなら私達を頼ってくれ。いつでも力になる。コースター卿にはいつも世話になっているからな。」
「ありがとうございます、殿下。」
その言葉に周囲が軽くざわめく。
私が誰か、ようやく認識できたらしい。
全く失礼な人たちだ。
「気にしないでやってくれ。君が珍しいんだ。」
「大丈夫です。父にも、珍しがられて殿下以上に見られるからと念押しされて王都に送り出されましたから。」
「そうか。」
「はい。それから、乱暴なことはするなとも。」
その瞬間、盗み聞きしていた人たちの動きが止まった。
ニコリと笑みを浮かべたまま殿下を見上げる。
「いくら野蛮令嬢だの貧乏貴族だの言われても立派な淑女ですからね。何もなければ大人しく過ごしておりますので、ご安心してください。ふふふ。」
何もなければ私が何かをすることはない。
ココにはお嬢様の婚約者である殿下がいるから、なおさらだ。
「そ、そうか。」
「はい。」
これくらいで牽制にはなっただろうか?
でも、ココにいるのはお嬢様のため。
念のため、言っておくか。
「殿下、一つお願いが。」
「なんだ?」
「知っての通り、私は社交界に出ないので知り合いがいないのです。しばらくは殿下のご厄介になっても良いですか?もちろん、お仕事の邪魔はいたしません。」
「もちろん。」
「ありがとうこざいますっ!」
さて、ココまでしたのに動く害虫は排除対象だからね。
皆さんせいぜいバレないように動いてくださいよ?
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




