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晩餐会

贈られたドレスに身を包み、護衛であるアルベルトを連れて晩餐会の会場へ。


皇太子を待つべきかとも思ったが、ドレスと共に入っていた手紙を読み気が変わった。


「俺、どこに居れば良い?」

「好きなところに……て、言いたいけれど。壁際に立ってるか床に座ってなさい。」

「わかった。て、座ってて良いの?」

「良いわよ。それくらいなら、すぐに私を守れるでしょ?」


目をパチパチと瞬いて嬉しそうに笑う。


「んじゃあ期待に答えないとな。」


今にも鼻歌交じりに踊りだしそう。


晩餐会の会場内にはすでに皇太子以外の面々が揃っていて。


「本日はお招きありがとうございます。」


ドレスの裾を持ち上げ、一礼。

基本の挨拶のコレ一つでお母様にはみっちりと指導されたのを覚えてる。


本当、よく耐えたわ、私。


「貴方の席はココよ、ユリアさん。」


王妃に指し示されたのはマリア・セザンヌの隣。

ありがたく座る。


「エルディラン殿は一緒ではないのか?」


殿下の問いかけにニコリと目を細める。


「私はまだ、婚約者ではありません。一緒に来る必要がありませんわ。」

「え?だが…………。」

「クロード様。」

「いや、なんでもない。無神経だった。」


殿下、もうすでにマリア様の尻に敷かれてる……?

流石悪役令嬢と言うべきか。


「申し訳ない、執務が立て込んでいて。」

「よい。急な呼びたてにも関わらず来ていただき感謝する。」

「国王陛下自らのお言葉に胸がいっぱいですよ。」


軽く聞こえる言葉遣いに視線をやれば、チラリと一瞬だけ視線が交わる。


「クロード殿の隣はてっきりマリア嬢かと思っていたが……、私が隣で良かったのか?」

「そのほうが、婚約者の顔が見れるからね。私が隣で不満なら席を替えよう。」

「あぁ、気を使わせてしまったな。むしろ感謝している。ことの経緯を知らない令嬢の隣に座るなんて自殺行為だから、避けたかったんだよ。お互いにそうだろう?婚約者殿。」

「そうですね。うっかり怪我をさせてしまう可能性が捨てきれませんからね、お互いに。」


私のすぐ近くで床に座り、目を閉じているアルベルト。


運び込まれて来る食事に視線を向け、マリア様に食べて良いのかと手で示せば、頷かれるから。


もぐもぐ、ごくん。


「……!」


流石王城、すごく美味しい。

あー、こんな贅沢なものを王都の貴族は毎日食べてるんだなぁ。


私たちの領地は復興してきているとは言え、こんな贅沢な食事にはありつけない。

ようやっと、ラチェット様のお陰でまともな衣服や食事が格安で手に入るようになったというのに。


「…………。」


いけない、感傷的になっては。


「ユリア、学園には通わないの?せっかく王都に戻ってきたのだから……。」

「通いませんよ。戻って来るつもりもなかったし、今の私は立派な国賓。私がココに居る理由を知れば貴族の方々は許さないでしょう。」


私は戦の火種になるつもりはありませんよと笑う。


悪役令嬢の天敵がヒロインであったように、私と帝国は対立する運命。


ゲーム本編を生きるメインキャラからすればモブキャラ同士の争い。


「許さないという貴族なんて黙らせる方法はいくらでもある。何より、政略結婚は許す許さないという幼稚な理由で決定が覆ることはない。そうだろう?」


皇太子の言葉に殿下が頷く。


「そのとおりです。私たちも政略結婚だからと色々なことを言われてきました。でも、今があります。放っておいて良いと思いますよ。」

「殿下は、マリア・セザンヌ公爵令嬢が外出もままならない状況まで追い込まれていたことを、程度が低い嫌がらせだとお考えですか?」

「そんなわけないだろう!」

「ですよね?放っておけば良いと言いますけれど、放っておいたから、あんな状況まで追い込まれたんでしょう?違いますか?」

「……、それは…………。」

「少なくとも、マリア様は苦労されておりましたよ。でもまぁ、国内の貴族同士の争いなので、殿下が介入するまでもなくセザンヌ公爵家の力だけでどうにでもできる範囲でしょうけど。あ、コレ美味しい。」

「気に入ったのなら、追加で持ってこさせましょうか?」

「ありがとうございます。では、持ち帰れるように包んでもらって良いですか?」

「えぇ、わかったわ。」


王妃様の鶴の一声で追加分は包んでもらえることに。


ガゼルをパシって、王都の邸に届けてもらおう。


「ユリアは、エルディラン様のお力で守れるわけがないと思っているの?」

「守れるでしょう。この王国内で帝国の権威は無いに等しいとは言え、帝国の皇太子です。誰もが一目置く存在なのは間違いありません。」

「それならどうして……?」

「理由を一つあげるのなら……お父様が誰よりも早く問題を解決するから、ですかね。」


まぁ、他にも色々と理由はあるけれど。

それを律儀に教える必要はどこにもない。


皇太子へと視線を向ければ、ニヤリと笑う。


全く。面倒な役回りを押し付けてくれる。


「気が強いところも、気に入っているんだがな。婚約者殿は、私のことが嫌いな様子。」

「あら。私たちが毎日のように剣を交えていたことをお忘れですか?少なくとも、好きになる要素は皆無だと思うのだけれど。」

「ククク……。下手なことを言うと公の場でも命を刈り取ってきそうだな。」

「お望みとあらば、そうしましょう。ドレッシングの変わりに毒薬でもいかが?」

「ハハハッ、有限実行できてしまうのが婚約者殿だな。刺激的な毒も魅力的だが、今は遠慮しておこう。」

「それは残念ね。」


私たちの会話に両陛下が苦笑する。


和やかな食事を楽しみたかったのなら、私たちを呼んだのは間違いだ。

私と皇太子が婚約者なのではと学園に通っている時から噂になってたとしても、仲が良いわけじゃない。


「エルディラン殿は、楽しそうだな。」

「わかりますか。」

「えぇ。」

「私たちは剣先を突きつけ合うのが日常。クロード殿とマリア嬢のような関係は築けないでしょう。でも、だからこそ、婚約者として一緒に過ごしたいですね。」


探るような視線と作り物の笑み。


ニコリと微笑み、ゆっくりと口を開く。


「改めて自己紹介の場を設けたいのですか、どうだろうか。婚約者殿。」

「構いませんよ。私も、事の経緯に興味がありますから。」


四人が安堵の息を吐き出すのがわかった。


たったこれだけのことで歩み寄ったと思ってるのなら、随分と甘い人たちだ。


私たちがこれからするのは、命のやり取りなのだから。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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