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布石

案内された部屋は来客用とは名ばかりの国賓が寝泊まりする部屋。


「部屋の面積がおかしい。」

「まぁ、王都の邸に比べればそうかもしれませんね。ですが、王都の貴族は当たり前ですよ、このくらい。ご存知でしょ?」

「ご存知だけどよ。というかガゼル、部屋に入った瞬間素行崩し過ぎよ。」

「お嬢様しかいませんから。」

「ったく……。」


用意されていたふかふかな高級ソファに座る。

帝国からお近づきの印にと贈られたと聞く調度品が大半で。


「ハッ。この部屋はまるで、帝国に嫁ぐ淑女のために用意された檻ね。」


これ一つ売りさばくだけで、どれだけの命が救われると思っているのか。


「それで?侍女と家庭教師は?」

「それならそろそろ────」


ノックが二回。


扉の外にある気配に眉を寄せる。


「開けますよ。」

「えぇ。」


扉が開かれて中へと踏み入る二人の貴婦人と一人の侍女。


「私の方からご紹介をさせていただきます。教養・ダンスの講師として、ワイナール夫人、マナー講師としてマダムシャーリーにお越しいただいております。専属侍女としてルナが、専属侍従として私ガゼルがつきます。」


ガゼルの紹介にやや横柄な態度で応じ、四人を手招きする。


素直に近づいてきてくれるの、非常にありがたい。


「お父様から何と言われてココに来たのですか?今、私がどういう状況かおわかりでは??」


思わず小声で尋ねれば、マダム・シャーリーとワイナール夫人が顔を見合わせた。


「すべて承知の上でお引き受けしました。」

「何考えて……っ。」

「詳細は存じませんが、夫が手を貸すのです。妻である私が手を貸さないという選択肢は毛頭ありません。」

「一度王族の暮らしってものを直に見てみたくてねぇ。」

「そんな理由……。気持ちはすごくわかりますけど。」


王族どころか王都の貴族の暮らしって覗いてみたいよね。


「じゃんけんに勝ち抜きました。」

「じゃんけんって……。平和的だけども。」


王都の邸みんなでしたのかしら。

良かった、ソフィアを領地に置いてきて。

絶対に参加してたハズ。


「ルナは?確か、マリア様の専属侍女だったわよね?」

「はい。皇太子妃候補が来られるから、妃殿下付きから選べと陛下から御用達があって。私になりました。」

「なるほど。例の先輩侍女ね。締めようか?」

「い、いえ!大したことではないですからっ。それに、妃殿下候補がお嬢様だってガゼルさんが教えてくれたので、楽しみにしてました。」


えへへと照れ笑いをするルナを抱きしめる。


もう私絶対にこの子たちのために、夢を叶えるわ。


「みんなが事情を把握したうえでココに来てくれたのなら、構わないわ。立ち去りたくなったらすぐに言って頂戴。私のために用意された人材である貴方たち四人は私の意志でどうにでもなるから。」


あとは、もう周囲の流れに任せるしかない。


「じゃあお腹空いたから厨房から食材かっぱらってきましょうか。」

「お嬢様、流石にソレはダメです。」

「ユリアさん、教養・マナーに関しては必要ないと聞き及んで居るのですが……?」

「あぁ……、王国内での振る舞いに関しては必要ありません。このくらいの態度で居るほうが、私に対して否を突きつける淑女が出てくるでしょうからね。」

「!」

「私が知りたいのは帝国と公国に関する事項すべてです。お二人が知り得ること、ご教示願います。」

「わかりました。」

「そういう約束だからな。」

「ちなみにお二人はどのくらいの頻度で……?」

「夫があぁですから。毎日来ますよ。」

「私は店の関係があるから週に一度だよ。」

「わかりました。あぁそうだ。小耳に挟んだ程度でも構わないので、噂話も教えてくれますか?」

「噂話?そうさねぇ……じゃあ早速一つおもしろい話をしてあげよう。麗しきレディが、夜な夜な徘徊しているらしい。そのレディは貴族の関係者だとか町娘だとか言われている。ただ、そういったレディが行き着く先は娼館だと大半の人は思っているようだね。」

「…………へぇ。それ、とてもおもしろい話ね。」

「気に入ってくれたようで良かった。」


早速あたりを引いたわね。

いや、あえてこの噂話を選んだのか。


流石接客業のプロ。

侮れないわ。


「お嬢様、私は?」

「ルナはいつも通りの仕事ともう一つ。」

「?」

「この本について、調べてほしいの。」

「?」


暑さ約十五センチの本を手渡す。


方舟(はこぶね)……?」

「えぇ、そうよ。私、忙しくって読めてないの。だから、変わりに読んで内容教えてくれる?」

「わかった!いつまでに読み終えたら良い?」

「マリアお嬢様が卒業するまで。」

「任せてください!」


ルナが両手で抱える本を見てワイナール夫人が目を見張る。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

「?」

「ルナさんは古語が読めるのですかっ?」

「?読めますよ。領地の皆読めます。」

「な……。」


絶句するワイナール夫人に首を傾げるルナ。


ポンポンと頭を撫でておく。


「部屋においておいで、ルナ。」

「はい!すぐ戻ります!!」

「転ばないようにね〜。」


侍女らしく足早に立ち去って行く。

いやはや、子供の成長とは早いものね。


「ユリアさん、あの本は……。」

「方舟ですか?もしかしてご存知ない?」

「いえ、方舟は知っているのですが……その、古語で綴られた書物は見たことがなかったので。」

「そうですね。無いから作りました。」

「え?」

「ガゼル〜、厨房まで案内して〜。勝手に色々作るから。」

「わかりました。あの、お二人は…………。」

「私は店に戻るとしようかね。」

「わ、たしも……少し、疲れたので……帰らせてもらいます。」

「わかりました。ガゼル、先にお二人に馬車の手配。終わったら厨房行きましょう。」

「はい……て、お嬢様?どこに行くのですか?」

「探検。迷子防止のために。」

「でしたら一緒に行きましょう。お嬢様を一人にすると探しに行く手間があります。」

「ひどい言い方。」


騎士団員の配置を確認する良いチャンスだし。

ついでに、殿下やお嬢様に会わないように色々と調べよっと。

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