一難去ってまた一難
二人きりの室内。
良い香りのお茶と高級菓子。
それから、手のひらサイズの小さな宝箱。
中には立派なダイヤモンド。
「コレが出回ってるの?」
「あぁ。」
「出どころは?」
「さぁな。調べてるみてーだが、情報はない。」
「へぇ……。」
「ソレ、本物だと思うか?」
「偽物よ。」
「さすがだな、嬢ちゃん。宝石の価値は何で決まるか知ってるか?」
「質量、色、透明度、カットの仕方。」
「御名答。さすが、辺境伯ご令嬢。」
「あら、ありがとう。」
宝箱から視線を外し、お菓子をつまむ。
美味しい。
「…………嬢ちゃん。」
「何?」
「わざとか?」
「なんのことかしら。」
「白々しい……。わかった、こうしよう。嬢ちゃんの質問に俺が答える。俺も嬢ちゃんに質問するから、答えてくれ。」
あぁ、なるほど。
やっぱり、そうくるか。
「良いわ。その話、のってあげる。」
「よし。」
「じゃあ早速。このお菓子はどこの?」
「…………。」
「…………。」
「ラチェット商会長が土産にくれた菓子だ。詳しくは知らねぇ。」
「この茶葉は?」
「同じく、ラチェット商会長のお土産。」
「その眼帯は?」
「王都に行ったついでに買った。」
「じゃあ最後の質問。この贋作を手に入れた経緯は?」
「行商人がコースター辺境伯に売ろうとしていたから、代わりに良い値で買った。」
「お父様が領地を離れたらコレだわ。」
「なめられてるからなぁ、コースター辺境伯は。」
ジトリと視線を向ければ鼻で笑われた。
まぁ良い。大体の目星はついたから。
「んじゃあ俺からの質問だ。その菓子気に入ったか?」
「ええとても。」
「茶葉は?」
「気に入ったわ。」
「王国内で流行ると思うか?」
「国の流行は上流貴族の貴婦人からだから、その層に気に入られれば流行るでしょうね。」
「なるほどな。じゃあ、王妃は好むと思うか?」
「どうかしら。好まれていたのは確かね。」
「へぇ……。んじゃあ、最後の質問。」
頬杖をつき、ニヤリと笑う。
「ダイヤモンド以外の宝石に興味はあるか?」
「興味のないレディはいないのではないかしら。」
私の答えに満足したのか、声を上げて笑う。
気にせずに茶器を傾け、菓子を頬張る。
美味しい。
「はー、笑った。やっぱ嬢ちゃんと話をするのは楽しいな。な、嬢ちゃん。一つ頼みがあるんだが。」
「出発は二日後の明朝。集合場所はこの宿屋。遅れたら置いて行く。」
「……聡明な女は嫌われるぜ?多少愚かなほうが好かれる。」
「愚かで生きていけるなら、良いじゃない。それが許される環境ってとっても素敵よ?」
大切に囲われて、大切に守られて、生きていける人が居ることを、初めて知った。
マリア・セザンヌは悪役令嬢だけれど、公爵令嬢だ。
公爵家の一人娘だ。
殿下のために聡明な淑女になっただけのこと。
「苦労を知らずに生きていける環境があるなら、それに越したことはない。そうでしょ?」
「ククク、確かにな。なぁ、嬢ちゃん。コースター辺境伯に生まれたこと、後悔したことあるか?」
乙ゲーの世界に転生したのだと気づいて。
自分がモブキャラだと気づいて。
メインキャラに会えないのだと気づいて。
どうしてストーリーからかけ離れた土地に転生させてくれたの神様と嘆いた。
でも……。
「愚問ね。」
私は、ユリア・コースターとしてこの世に生を受けたこと、一度たりとも後悔したことはない。
「むしろ後悔させてほしいわ。」
「ハハハッ!!嬢ちゃんは人生楽しそうで良いねぇ。」
出会った頃のように、楽しげに目を細めた。
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