最後の戦い
長いです↓
最後の決戦。
そういうにふさわしい装い。
暗器も仕込み終わり、全身を鏡で確認する。
「お嬢様、一段とお美しいですわ。純黒のアシンメトリードレスに銀糸のレースと刺繍で施された薔薇。怪しさ満点、さながら悪魔の申し子ですね。よくお似合いです。旦那様が見られたらきっと涙することでしょう。」
「ベロニカ、褒めてるのよね?」
「流石ね、ユリア。高貴な毒々しい薔薇がよく似合ってるわ。」
「ソフィア、褒め言葉よね??」
二人ともニコニコと微笑むだけで私の問いかけには答えてくれない。
「おめでたい席で純黒って……。良いの?コレ。」
「問題ありません。確かに今の流行ではありませんが……。流行を作るのは上位貴族の役目ですから。」
「はぁ…。階級だけは高いのよね、うちって。」
何より今回のドレス。
今までより金がかかってるのは見ればわかる。
手触りも見た目も、この王国内で生産されているものではない。
完全に輸入品。
装飾品もしかり。
というか全身薔薇コーデ。
誰が主役かわかったものじゃない。
「こうして着飾るのも今日で最後ね。二人とも、ありがとう。さ、そろそろ時間よ。サクッと行って終わらせましょ。」
「そうね。」
「…………行ってらっしゃいませ、お嬢様。ソフィアさん。」
ベロニカに見送られ、エントランスに行けばアルベルトとロイドが待っていて。
「おまたせ〜、行こ。」
「おー。」
「姫さん、綺麗だな。ソフィアは対照的な格好だな。ソレ、毒蜂か?」
「違うわよ。」
「蝶々よ、コレ。」
「へぇ、そっか。よく似合ってるな。」
「毒蜂と蝶を間違えた口でよく褒め言葉を紡げたわね。というか、このドレスをユリアが着てたら毒蜂に間違えるわけ?」
「姫さんが着てるんだから、蝶だろうな。毒蜂って感じしねーし。」
「…………。」
「ほら、じゃれついてないで行くぞ。姉さん、手。」
「ありがと、ロイド。」
ロイドのエスコートで馬車に乗り込む。
今日の御者はセバスらしい。
「じゃあもし私があのドレス着てたら綺麗だなって褒めるわけ?」
「?綺麗なものは綺麗だろ。」
「アンタのそういうところが……っ!!」
「イテッ!なんで叩かれたの??」
まぁだじゃれあってるよ……。
「ロイド、今日はユミエルとガゼルもパーティー参加なのかしら?」
「あぁ、あの二人も参加だ。婚約者探しのために参加しろとの仰せがあったみたいだな。」
「わぁ、大変ね。ロイドを見てればそんな焦らなくて良いのにって思うけど……。王都の貴族って大変なのね。」
「まぁ、ウチみたいな辺境地の貧乏貴族に嫁ぎたいもの好きはいねーだろ。良縁を求めて、なんてことも無いしな。」
「あら。少しは良いなって思う子いなかったの?」
「どうだろうな。関わり持たねぇから、わからねぇ。」
「そうよねぇ。皆コースター辺境伯だってだけで、遠巻きに見てくるから。まぁお陰で、トラブルなんてものとは無縁の学園生活を遅れたけど。」
「トラブル抱えて入学した人間は言う事が違うな。」
「そんなこと言うのはこの口かしら〜?」
ムニッと頬をつねれば、ムスッとした顔をする。
だけど大人しくつねられるあたり、優しいのよね。
「あ、ついたみたい。」
「やっとか。準備は良いか?」
「誰に聞いてるのよ。」
ニヤリと口角をあげて、馬車を降りる。
そうすれば集まる視線。
「…………?なんか、嫌な視線ね。」
「今更だろ。」
「そうだけど。なんだか、いつもより悪意がある。」
「ま、詳しくは先に行ってるハズの皆に聞けば良いだろ。」
「皆、ね。」
会場の中は殿下へ挨拶したい人たちがひしめき合っていて。
会場警備に当たっているらしい騎士団員の人たちと目が合う。
ニコリと微笑めば、サッと視線を逸らされた。
悲しい。
「挨拶行かねーのか、姫さん。坊っちゃん。」
「行く必要ねーよ。」
「そうそう。私達、辺境伯代理だから。」
ひしめき合う人たちを横目に、パーティーの食事を堪能する。
流石王城、何度食べても美味しい。
モグモグとしつつ、周囲を観察する。
「…………あ、居た。」
「どこ?」
「あの柱の影。ソフィア、アルベルト。」
「「…………。」」
「予定通り動くわよ。」
「「了解。」」
二人が離れて行くのを見送るとロイドが差し出されたアルコールグラスを受け取り、私に差し出してくる。
「良いのか。予定通りに動いてくれるとは限らねぇぞ。」
「本当にそう思う?」
「…………。」
「…………。」
「いいや、そうだな。この予想が外れることは無い。」
「でしょ?だから、私達はソレを信じて動くだけよ。」
とは言っても、私達は役者が揃うのを待つだけなんだよね。
「ユリア嬢、ロイド殿。」
「殿下。」
「来ていたのだな。なかなか姿を見せないから心配していたのだぞ。」
挨拶に来ないから出向いてやったの意。
ちゃんと、わかってますよ?
レオナルド様は……あ。
もしかしなくても護衛騎士の正装着てる!?
て、ダメダメ。
見惚れてる場合じゃないのよ、ユリア。
王命を全うしなきゃ。
「ご心配ありがとうございます。マリア様とお二人で過ごされるお姿に魅了されておりました。して、殿下?このようなおめでたい席に険しい顔をしておりますが、何かありましたか?」
「……、何もない。強いて言うなら、美しいマリアに魅了される皆への牽制、かな?」
「クロード様…っ。」
「仲良くて何よりです。本日は誕生日パーティーと婚姻式が同時に行われるとか。私、ソレを楽しみにしておりますのよ。」
「ありがとう。」
「ねぇ、ユリアさん。貴方のそのドレスもしかして────」
「クロード様〜!」
その声と共に、空いている腕に飛びつく令嬢。
フレッシュピンクの髪がふわりと揺れる。
見ていた貴族たちがざわざわとし始める。
「えへへ、お誕生日、おめでとうございますっ!」
満面の笑みを浮かべるヒロインと、貼り付けた笑みを浮かべる殿下。
お嬢様、目で合図されても彼女を殺すことはできません。
「婚約者の居る殿方には気軽に抱きつかないほうが身のためですよ。何より、クロード・カルメ殿下は貴方が気軽に触れて良い相手ではありません。」
「そんな怖い顔しないでくださいよぉ。ひょっとして、羨ましいんですかぁ?」
「羨ましそうな顔してますか、私。」
「ひどいことを言う人はぁ、嫉妬からだって言いますよね?」
「思い込み激しくて心配になりますね。殿下、そちらの方は婚約者候補の方ですか?私、王都の情勢に疎くて。私、てっきり今日行われる婚姻の儀はマリア様と挙げられると思っていたのですが……。」
頬に手をあてて、首をかしげれば、勢いよく首を横に振る殿下。
「マリア、少し放してもらえるかい?」
困り顔でお嬢様にお願いすると、反対の腕に絡みつくヒロインの手を多少強引に引き剥がした。
あくまで笑顔なあたり、ヒーローだな。
「ここは学園ではないんだ。学園の外では、貴族としての振る舞いが求められる。わかるね?」
「えーっ!!でもでも、この貧乏貴族……じゃなくて、モブ……、こっちの人とは学園と同じようにお話してたじゃないですかっ!」
言ってるから。言っちゃってるから、ヒロイン。
今更だから否定もしないけれど。
一応みんな陰口だってわかってるから、公の場では直接的には言ってこないからね?
「彼女はコースター辺境伯のご令嬢だ。当然の対応だよ。」
「だから何?でも、所詮貴族の恥さらしでしょ??」
おっと??
「言葉が過ぎるぞ。」
「殿下、怒らなくて良いです。私気にしないですから。」
「だがっ。」
「私がコースター辺境伯で、貧乏貴族で、貴族の恥さらしで、階級だけは高いと言われていることくらい知ってますから。私も王都の貴族は大嫌いですから、おあいこですよ。」
ニコリと笑い、殿下とお嬢様を止める。
せっかくの晴れ舞台に、怖い顔はダメだよねぇ。
「ハハハッ!!あいも変わらず舐められているな、野蛮令嬢!!クロード!誕生日おめでとう!マリア嬢も、おめでとう!!なんともめでたい日だ!!」
「ラチェット様……!」
「ラチェット義兄様……!」
「野蛮令嬢って呼ばないでくださいって。」
「はーはははっ!!良い日だな!な、野蛮令嬢!このようなめでたい日に争いはご法度!そこのご令嬢も、言葉には気をつけたほうが良いぞ!?」
ラチェット様が、ヒロインと殿下の間に割り込んで。
「すまないが、クロードにはマリア嬢が居る。ダンスのパートナーは私で我慢してくれ。」
「えっ?あ、いや、私は────」
ヒロイン、お邪魔キャラ様により退場。
殿下を攻略する時はとんでもなく邪魔だったけど、今ほど心強さを感じたことはない。
ありがと、ラチェット様。
「さて、殿下。一体何におびえているのですか?マリア様を傷つけるかもしれないものですか?」
「!!」
「そういうことなら、心配いりませんよ。そのために、私たちが居るのですから。」
「ユリア、貴方一体何をするつもり……?」
「私たちは何もしませんよ。敵が何もしない限りは。まぁ、すでに出鼻はくじいていますから、どう出てくるのか楽しみですけどね。」
「姉さん。」
「っと、そうだった。私が言えるのはここまでです。あとは、このおめでたき日を存分に楽しんでください。それでは。」
一礼し、ロイドと共にその場を離れる。
お嬢様の傍には殿下が居るし、ヒロインはラチェット様が足止め中。
ダンスが終わってからヒロインがとるであろう行動は二択。
もう一度殿下に突撃をかけるか、助けを求めに一度会場を離れるか。
「喋り過ぎたかしら?」
「過保護なんだよ。種明かしは役者が揃ってからだって親父に言われただろ?」
「そうだけど……。これだけの嫌な視線を感じるパーティーで、予定通りに婚姻の儀まで待ってくれると思う?」
「まぁな。でも、俺達が居るからか、動きがない。出方を伺ってるんだろ。」
「そうね。そして、黒幕にとっての誤算はラチェット様が遅れて参加したこと。お陰で、当初の予定よりも警備人数が増えたわ。」
この思惑だらけのパーティーにラチェット様は欠かせない人物。
商会会長としての仕事で、国外に居ると情報が流れていたのに国内に居るうえパーティーに堂々と参加している。
今頃、予定と違うことに予備の案に切り替えていることだろう。
「ユミエルとガゼルを巻き込むのは気が引けるわね。」
「本人たちは乗り気だけどな。」
「そうなんだけど……。」
モブキャラなら大丈夫だろうって、使用人として雇って。
ガゼルなんて出会い最悪だったのに、ソフィアのお陰で随分と人格矯正されたし。
ユミエルは出会った頃に比べたら明るくなったように思う。
ロイドが遠い目をして、ダンスを踊るラチェット様を見る。
あれ、ヒロインはどこに行った?
「やっぱ曲者だよな。ラチェット・カルメーラ。」
「そうね。だからこそ、信用できるでしょ?」
「まぁな。」
「おじょ…、ユリア嬢、ロイド殿!」
振り返れば、ドナウ侯爵を連れたユミエルが居て。
私を見る目は相変わらずだけど、ユミエルに対する態度は少しだけ変わったように見える。
「ユミエル、ドナウ侯爵。良い日ですね。」
「は、はい!おめでたい日です!」
「緊張しすぎだ。もう少し肩の力を抜け。」
「う……。」
「二人でコソコソと、何を企んでいるんだ?」
「人聞きが悪いことを言わないでくださいな。ただ、この異様な空気漂う会場について、意見交換をしていただけです。私たちは初めてこの場所を拝見するのですが、お二人はどうですか?」
「僕は初めてです。」
「…………主要な催し物はここが使われる。異様な空気というが婚姻の儀がある時は、こんなものだ。現国王の時もそうだった。」
「なるほど。では、この会場警備に玉軍以外にも右羽軍が駆り出されているのはそういった非常事態に備えるためですか。」
「玉軍のヤツらは基本的に表舞台に顔を出すことはない。荒事に慣れているのは我々左羽軍と右羽軍だからな。」
ということは、ルナとソフィアの方はもしかしたら時間がかかるかもしれないわね。
何か良いきっかけがあれば良いのだけど。
異様な視線を感じながらグラスを傾けていると、電気が消えて。
「停電……っ?」
「いいえ。誕生日パーティーから婚姻の儀に切り替わる合図よ。」
お嬢様に聞いていた通りの時間だ。
「ロイド。」
「わかってる。ユミエル、行くぞ。」
「?は、はいっ。」
「待て、貴様ら何をするつもりだ。」
「何って……、ゴミ掃除?ドナウ侯爵にもお力添えを頂きたく。」
「?」
停電時間は約一分。
進行役の官吏が、何やら口上を述べている。
暗闇に慣れた目で突き進み、お嬢様と殿下の傍へ。
「マリア様。」
「!ユリア。」
「ユリア嬢、このまま進めて問題ないか?」
「えぇ。事が起きるのはこの暗闇の一分間でしょう。闇に乗じるほうが、身バレしませんから。それより、暗いですから足元お気をつけください。」
「あぁ。マリア。」
「はい、クロード様。」
背後から近づいてくる身に覚えのない気配。
暗闇に乗じて動きやすいのは私も同じ。
そのための純黒ドレスとも言える。
必然的にそうなってしまったと言うべきか。
「お二人共、しゃがんでください。」
「「!?」」
促すのと同時に、二人の頭上で火花が散る。
「レオナルド様、遅いですよ。」
「お許しを。会場封鎖に手間取りました。」
刃が暗闇でギラリと光る。
刃先はお嬢様と殿下を捉えている。
「……うっ。」
死覚から手のひらで顎を打ち、目を回したところを素早く拘束。
全員を縛り上げたところで、そのまま引きずって会場の隅へ。
「ふぅ、間に合った。」
明かりがついた会場、殿下とお嬢様に視線が集まる。
そして、司会の合図で会場入りを果たした両陛下にも。
拍手喝采の中、始まった婚姻の儀。
「さて。」
縛り上げた暗殺者に視線を落とす。
「騎士団員が直々に襲い来るなんて、よっぽど追い詰められているらしい。」
「ハッ、俺達は所詮囮役。お前をここに縛り付けておくためのな。ユリア・コースター!」
「あら。知ってるわよ、そのくらい。」
「!?」
何を言ってるのかと首をかしげるのと会場内から悲鳴が聞こえるのは同時で。
「きゃーっ!!」
「陛下たちをお守りしろ!」
「会場から出られないぞ!!」
「どうなってるんだ!?」
阿鼻叫喚の地獄絵図。
「よく見なさい。私が居なくても、王族には心強い騎士がついてるのよ。たかだか辺境伯家の小娘一人出し抜いたところで、一体誰の首を獲るというの?」
ギブハート団長、キャンベル副団長、レオナルド様、ドナウ将軍。
そして、後方で控えているのはマルクル様とソフィアとルナ、リッド侯爵。
「ご無事ですか、陛下。」
「うむ。大儀であった、ギブハート。」
「もったいなきお言葉。」
「して、ギブハート。お主は別の持ち場ではなかったか?」
「それは…………。」
「フォッフォッフォッ。ワシの指示です、陛下。」
「なんと、宰相の采配か。」
チラリと視線を動かせば、ユミエルの合図が見えて。
縄で縛った暗殺者を連れて、踏み出せば反対側からロイドも同じように陛下たちの前へと進み出る。
「む。」
縄で縛られた暗殺者八名が、陛下の眼下に並ぶ。
「ちょっとガゼルさん!どこに居たんですか!?」
「ユミエルを後ろから狙ってたヤツのとこ。」
「え!?ありがとうございますっ!」
「どういたしまして。」
ガゼルとユミエルにより一名追加。
「アルベルトは?」
「そろそろ戻って来るかと……あ、戻ってきました。」
「おー!姫さん!言われていた通り捕まえてきたぜ。」
聞こえた声に振り返る。
「思ったより遅かったわ、ね……?」
「ちょっと色々あってな。ちゃんと連れてきたから、安心してくれ。」
「うん。ありがと、アルベルト。ねぇ、どうしてパンツ見えた状態の女の子を肩に担いで普通に登場してるの?せめて隠してあげなさいよ。」
「ん?暴れるからめくれ上がったみてーだな。落とすわけにもいかねーし、そのまま運んできた。なんかダメだった?」
「う、うーん……本人が気にしてないのなら良いのよ。でもね、相手は女の子だからさ。なるべくなら下着が見えないように配慮してあげて。あと、担ぐ以外の運び方をしてあげて。」
「横抱きは腕いてーし、敵に背後とらせるわけにはいかねーじゃん?それに、これが一番重たくねーんだよ。」
「わかるわよ?すっごくわかる。」
「だろ?」
「でもね、貴族のお嬢様を担ぐのはあんまり良くな……て、こんなくだらないことで説教してる暇は無いのよ。黒幕とともに悪巧みをした理由と目的を話してもらえるかしら。」
「………。」
「ま、そう簡単には話さないわよね。」
こうなれば奥の手だ。
「それって、ルナが調べてたヤツか?」
「えぇ、そうよ。この日記、音読されたくなければ貴方を誘った黒幕について教えてくれる?」
「…………アンタ、人の心ってものがないの?」
「あるからこうして脅してるんでしょ。」
「…………っ。」
「ほら、どうするの?口ごもるごとに読むわよ。」
険しい顔で睨みつけられる。
そういう対応してくるなら、仕方がない。
「◯月◯日、もしものために新しい下着を購入。やっぱり勝負下着って大切よね。寄せて上げるよりも効果がありそ「わーわーわー!!!!」うるさいわよ、黙って聞いてなさい。」
「鬼畜なの!?おんなじ女なら黙っておくべきところでしょ!?」
「一緒にしないでください、ヒロインさん。私のようなモブキャラとは相容れないとわかっているでしょう?」
「欠陥品!!」
「はい、欠陥品です。なので続きを読みます。◯月◯日、今日はあの人の誕生日。プレゼントはもちろんワ・タ・シ。◯月◯日、ライバル蹴散らして一人勝ち!やっぱり私はカワイイ。」
野次馬の一部がざわざわとしているのを感じる。
「◯月◯日。シナリオ通りって気に食わないけど、最後に笑うのが私なら問題ない。◯月◯日、悪役令嬢の分際で王子様に愛されるなんて許せない。私が目を覚まさせてあげるね、王子様。◯月◯日、正式な婚約発表がされた。シナリオ前だから許してあげる。学園生活中に返してもらうけどね。」
「読むのやめなさいってば!!」
払い落とされた日記が、ラチェット様に拾い上げられる。
あーあ、ラチェット様、ヒロインに返しちゃった日記。
「鬼畜!人でなし!欠陥品!!」
「…………。」
「モブキャラのくせに!!なんで出張ってくるのよ!?なんで私の邪魔をするの!?」
「昨日の貴方の日記にはこう書かれていた。迎えるエンドはハッピーエンドじゃなきゃダメだから。失敗は許されない。でないと、私は居る意味を見出せない。私もあの人たちみたいに消される前に、結果を出さなきゃ。…………それで?出たの?結果は。」
「…………っ。」
「出るわけないわよね?一生懸命攻略しようと思っていた想い人は、誰よりも大切な恋人を伴って、あなたの眼の前に立っていたんだもの。」
「…………。」
「あなたの望むエンディングじゃないのはココが現実で皆が意思のある人間だってこと、忘れてたから。ヒロインでも悪役令嬢でもモブキャラでも……。」
ヒロインに近づき、耳元に唇を寄せる。
「攻略対象でもね。」
「!?」
飛び退くように私から数歩離れる姿を見る。
「まさか、あなた……っ!!」
「さて、そろそろ教えてくださらない?あなたをはめた偉い人のお名前を。」
「…………、名前は知らない。ただ私は、この国の偉い人でこの国の頭脳だと聞いてるわ。協力すればクロード殿下と結婚できるって話だったから協力しただけ。」
その発言に口角をあげ、視線を向ける。
さぁ、化けの皮を剥がしなさい。
「宰相……。」
「フォッフォッフォ。悪い冗談じゃ。ワシの名を語る不届き者が居るとはのぉ。」
「そうでも無いでしょう、宰相閣下。ソフィア。」
「はい、お嬢様。」
ソフィアに差し出されるソレに首を振る。
「私よりも陛下に確認してもらいましょう。私よりもその筆跡に詳しいでしょうから。」
「……ふむ。」
陛下は表情を消すと、ソフィアの手のひらに乗るソレを手に取り目を通す。
「な、ソレは……!!貴様、いつの間に……っ。」
慌てる宰相にソフィアが応戦しようと身構える前に副団長が間に入って。
あ。ソフィア、完全に落ちたな。
「……間違いなく、宰相の字。何よりこの懐中時計はワシが宰相に贈ったもの。盗み出すことも真似ることも不可能。これは特別に誂えたものだからな。」
「…………陛下、そのような娘が手にしていたことを疑いになられぬのか。」
「この者はワシが手引した。ヌシの潔白を証明するためにな。」
「!」
「ソレでコレが出てきたのだ。言い訳はできまい。王室に危害が出ぬように事前に対処するために数名の騎士の指揮権をヌシが持っていたのも事実。そして、その者たちを不当に己の欲望のために扱ったのも事実。」
「何を……。」
「証拠なら出ておる。昨日のうちにワシ含め、中枢の貴族、騎士団長たちも目を通しておる。言い逃れはできまい。」
「…………っ。ギブハート!ワシを守れ!」
宰相の命令にギブハート団長が剣に手をかける。
「ギブハート……!?」
「ギブハート団長。言い忘れてましたが人質にされていたご家族は全員無事ですよ。今頃ワイナール侯爵夫人とお茶しています。ね、リッド侯爵。」
「えぇ。」
宰相が、騎士団長と副団長に拘束される。
「片付いたな、姫さん。」
「えぇ、やっとね。」
「……、コースター!!なぜ貴様が邪魔をする!!ワシら中枢のすることには親子共々興味がなかったのではないのか!?」
「ええ、興味ありませんよ。でも、家族が危険な目にあったら別です。」
合図すれば会場の隅で給仕服に身を包んでいた男が二人近づいてきて。
「王位争いの時、王都に移ったコースター辺境伯領の民です。貴方が使い捨てのコマとして雇入れたのは知ってますよ。貴方が私たちの大切な家族に非道な扱いをしなければ、貴方の悪巧みに口出すつもりはなかった。」
「…………貴様らは……っ。」
「たとえ貴方が曼珠沙華の紋を掲げていたとしても、関わるつもりはなかった。今回動いたのは、貴方たちが私たちの家族を傷つけたから。ただそれだけです。」
愕然とする宰相が連行されるのを見送る。
「婚姻の儀は仕切り直しだな、クロード。」
「!」
「一週間後、改めて婚姻の儀を執り行う!」
混乱の中、婚姻の儀は幕を閉じた。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




