辺境伯家
初連載、本編スタートです
隣国との境目に位置するココは、この国の重要拠点の一つ。
そして何より、ココは危険が多い。
いつだって争いの拠点になる。
だからこそ、緊急時の避難計画見直しとか貯蓄の確認とかが日々求められる。
「姉さん、コレは?」
「それは、詰め所!」
「姉ちゃん、コレは?」
「ソレは訓練所!」
「「お姉様、コレは?」」
「それは応接室!!」
「ねーね、コレは?」
「ソレは貴方のよ、ニーナ。」
だから、このくらいのやり取りは日常茶飯事だ。
「ユリア姉、コレは俺の?」
「それは私のよ、エド。貴方のはさっき食べたでしょ。」
「えー、お腹空いたぁ。」
うるうるしながら訴えられる。
「……食べて良いよ。」
「わーい!やったぁ!ユリア姉大好きぃ!」
私に一度抱きついてから、お皿を持って退散して行くあざとい三男。
まぁ良い、別に一食抜いたくらいでバチはあたらない。
今日で終わらせるってお父様たちも言っていたから。
「「エドワード兄様、さっき食べてなかった?」」
「……、気のせいだよ。」
双子からの鋭い指摘にニコリと微笑む三男。
「「ふ〜ん?お姉様!お届けしてきたよ!」」
「ありがと、リオネル、アイン。疲れたでしょ?先に休みなさい。」
「「はーい!」」
元気に返事をする双子の頭を撫でる。
「あ、ウィル、おかえり!ありがと!二人のこと、お風呂に入れてもらっても良い?」
「わかった。ほら、行くぞ。リオネル、アイン。」
「「わーい!ウイリアム兄様とお風呂〜!」」
双子を両腕にぶら下げながら歩いていく姿を見ると感慨深くなる。
本当、大きくなったな……。
「……、よしできた!」
ようやく最後の一つを作り終えて、息を吐き出す。
「ごちそうさまでした!」
元気に挨拶をして立ち去ろうとするのが見えて。
「エド!食べ終わったらこっち持ってきて!!」
「え〜。」
「えーじゃなくて。」
「僕もう疲れちゃったよぉ。」
「甘えたこと言ってんじゃねーよ。決めたことくらい守れっつっただろーが、エドワード。」
「げ。」
「おかえり、ロイド。詰め所の様子は?」
「問題ない。」
「そっか。ありがと、ロイド。今、ウイリアムがリオネルとアインをお風呂に入れてるから、エドと一緒に先に入っておいでよ。」
「…………。」
「ね?」
「ねーね、いっぱ、たべた!」
「まだ食べ終わってないよ、ニーナ。」
まだ食器の使い方もままならないニーナは食べこぼしも多い。
食べこぼしたもとを拭き取り、ニーナの食べていたお皿を手に取る。
「ごめんね、放置して。ほら、あーん。」
「あーん!」
口元にスプーンを持っていけば、嬉しそうに笑う。
ただそれだけで、幸せな気持ちになる。
「エドワード、皿洗って風呂行け。」
「…………。」
「返事。」
「はぁい。」
ふてくされたような声が聞こえ、そっちに視線を移せば渋々作業をしようとするエドワード。
「姉さん、交代。」
「ロイドも疲れたでしょ?私は良いか、ら?」
ズイッと眼の前に差し出されるのは、色とりどりの果物が乗ったタルト。
「食べなきゃ倒れる。」
「────」
「ちょっとした休憩だと思って、食べろよ。」
「コレ、どうしたの……?」
「知るか。」
不機嫌そうにお皿を仕向けてくると私の手からニーナの分のご飯を抜き取る。
「ニーナ、姉さんにありがとうは?」
「ねーね、あーと!」
「どーいたしまして。」
ニーナの頭を撫でて、ロイドの頭を撫でる。
そして、二人から少し離れたところでタルトを堪能する。
甘くて美味しい……。
それに、コレは……ロイドの味がする。
詰め所に行ったついでに作ってくれたのかしら。
それとも、隠れて準備してくれてたのかしら。
「……なんだよ。」
「別に?」
どちらにしろ、嬉しいという気持ちに変わりはない。
「偉いな、ニーナ。全部食べた。」
「ごっそしゃま!」
その舌っ足らずなところがまたかわいい。
「三人とも布団に入ったよ。」
「ありがと、ウイリアム。」
「何食べてるの?」
「フルーツタルト。」
「おやつ?」
「ご飯。」
「……またエドワードにあげたの?」
不満そうな顔をするウイリアムから視線をそらす。
フルーツタルト、美味しい。
「はぁ…甘いよ姉ちゃん。そんなんだからエドワードが成長しないんだ。姉ちゃんはもっと────」
「はい、あーん。」
「んぐっ!?」
目を白黒させながら咀嚼するウイリアムの頭を撫でる。
「心配してくれてありがと。私は大丈夫だから。」
不満そうだけどモゴモゴと咀嚼しているウイリアムは何も言わない。
「ごちそうさま。ロイド、先にお風呂……。」
「姉さん入れ。ニーナが眠そうだ。皿は洗っとく。」
お腹が膨れて船を漕いでいる姿は可愛らしい。
「わかった。ありがと、ロイド。ニーナ、お風呂入るよ。」
「ん〜……。」
眠そうな返事をするニーナを抱き上げて、浴室へと向かう。
もちろん、手にはさっき作ったばかりの包帯を持って。
「ロイドの我慢するクセはどうにかならないかしら。」
そうなった理由に心当たりがないわけじゃない。
ただ、それでも弟を心配するのは仕方がないじゃないか。
「ねーね…?」
「なんでもないわ。さ、もう少し頑張ってニーナ。」
今にも寝てしまいそうなニーナを抱えて、頭を切り替えた。
この家には、使用人なんかいない。
いや、かつては居たらしい。
けど、今は諸事情により居ないだけ。
だからこそ、全て自分たちの手でしなくちゃいけない。
「あぁ……っ。ニーナ、起きて…!まだ、寝ないで…!」
タオルを身体に巻き付けた私は、手早くニーナに服を着せる。
湯冷めするのは今に始まったことじゃないけれど。
思うところがないわけじゃない。
「……、よし。ニーナ、ダメよ、ココで寝ちゃ風邪引くわ…!」
かと言って気持ちよさそうに寝ている末の妹を叩き起こすなんてことしたくない。
さらに言うなら巻いてるタオルを握りしめられていて、着替えることすらできない。
諦めてそのまま抱き上げ、脱衣所から顔をのぞかせる。
「ロイド〜?ウィル〜?誰か起きてない〜?」
返事はなく、いつもどおりの静けさだけ。
仕方がない、やっぱりココは羞恥心を捨てて……。
「お父様、お母様。貞操を守れぬことをお許しください。」
覚悟を決めて一歩踏み出そうとすれば。
「呼んだ〜?」
ありがたいことに、ウイリアムが来てくれて。
「ウィル!良かった、まだ起きてたのね。」
「うん……て、姉ちゃん、なんて格好してんの!」
「しー!大きな声出しちゃダメ!ニーナを寝かせてあげてくれる?このままじゃ身動き一つとれなくて。」
「う、うん。それは良いけど……。」
ウイリアムの視線が握られているタオルに行く。
「あぁ、そうだったわ。」
ニーナをウイリアムに預け、未だ握られている手を見る。
指を一本ずつはがし、タオルを抑える。
「じゃあ、お願いね。」
「う、うん。おやすみ。」
「えぇ、おやすみ。」
ウイリアムを見送り、服を身につける。
湯冷めしたからと入り直すことはしない。
なんせ今日は、ロイドがまだなんだから。
「ごめん、おまたせロイド。……ロイド?」
「……、あぁごめん。軽く寝てた。」
嘘が下手くそでかわいい。
「お風呂、入って良いよ。」
「わかった。姉さんも、早く寝なよ。」
「そうする。ありがと。」
あ、そうだ。忘れてた。
「ロイド!」
「何?」
「たまにはお姉ちゃんを頼りなさい。それだけよ、おやすみ。」
さて、明日の仕込みを……て、あら?
終わってる……ロイドかな?ウイリアムかな?
明日は二人に負担をかけないようにしなきゃ。
ありがとうごいました
感(ー人ー)謝