最後の侍女仕事
今日は、殿下の誕生日パーティー。
何事もなく無事に迎えた……とは、言い難いが良かった。
「え。いつもの会場では無いのですか?」
「えぇ。クロード様が成人を迎えられる式典だもの。特別に陛下がパーティーホールの使用を許可されたみたい。」
「パーティーホールって……。いつもの会場とは違うのですか?」
「あ、そっか。ユリアは知らないんだったわね。いつもクロード様が使用されているのはダンスホール。申請を出せば誰だって使用させていただくことができる空間なの。今回のパーティーホールは催し物をするために誂えられた建物で、王家縁の人物しか使えない特別な空間なのよ。ちなみに、離宮の一つ。」
む、無駄……。
だいぶ無駄。他に回せよ、国家予算。
「…………豪華ですね。」
「ふふ。国をあげての式典も基本的にはこのパーティーホールが使われるの。一昨年や昨年の建国祭で使用されなかったのは特例ね。」
「へー。愛されてますねぇ、お嬢様。」
「え?」
「お嬢様の身の安全を考慮した結果でしょう?」
目を大きく見開くお嬢様。
私、そんな驚くようなこと言った……?
「ユリアさん、お嬢様の邪魔をしないでください。お嬢様、最後の仕上げに取り掛かりましょう!さぁさぁ、お邪魔なユリアさん!貴方はさっさとドレスに着替えてらしてはいかがですか!?」
「す、ステラ……。」
「わー、今日のステラさん一段とひどいです〜。」
「当然です!!今回のパーティーが終われば貴方はお役御免!!つまり!お嬢様は私だけのお嬢様になります!!」
「あ、嫉妬?ステラさん、可愛いですねぇ。」
「あら、ユリアに妬いてたの、ステラ。ふふ。そんなことしなくても、私はステラのこと、ずっと好きよ?」
「〜〜〜〜お嬢様……!!私、一生涯お側にいますっ!!」
「ガーディナ様が拗ねるわよ?」
「が、ガーディナ様なんて関係ありません!!私はお嬢様一筋です!!」
ニヤニヤとするお嬢様。
慌てふためくステラさん。
ふむ。
「おめでとうございます、ステラさん。今度恋バナしましょう。」
「あら、良いわね!」
「お嬢様と二人で恋バナなら大歓迎ですが!ユリアさんにだけは絶対に言いません!!」
「え、ひどい。ひどいです、ステラさん。」
思えばこのやり取りも終わりだなぁ。
何事もなく婚姻の儀を上げて欲しいものだ。
ま、何かは起きる予想なんだけど。
「ユリア、ありがとう。」
「お礼を言うのは早いですよ。今日のパーティーが終わるまで気は抜けませんから。」
「それもだけど。パーティーホールを使わなかったのは私のためを思ってだって言ってくれたこと。」
「え、お嬢様気づいてなかったんですかっ?」
「…………クロード様がお茶会も誕生日パーティーも、ダンスホールで開いてくれていたから。王家縁の人間として認められてないだとか、愛されていないだとか……色々とあるから。」
随分と追い詰められていたらしい。
悪役令嬢であるお嬢様の弱気な表情はもう見納めじゃないかと思う。
「どこのバカですか、そんな陰口を言ったのは。脳みそ詰まってないんじゃないですか。気にするだけ無駄ですよ。」
「…………皆がユリアのように強いわけではないのよ。」
悲しそうに微笑むお嬢様にステラさんが同情するのがわかった。
それにため息を吐き出して指を一本たてる。
「バカでもわかる婚約者の定義を申し上げましょうか。」
「え?」
「一つ、上位貴族……、ましてや王太子殿下の婚約者ともなれば危険がつきまとう。二つ、政略結婚に愛は不要だが、婚約者を護らなければならない責任が伴う。三つ、世間体を気にしなければならないため、たとえ婚約者とは言えど一人の女性を贔屓にできない。」
「…………。」
「お嬢様に限らず、王太子の婚約者としての振る舞いを求められる。何より今挙げたのは、貴族の政略結婚に求められる最低限のルールです。クロード・カルメが王太子でマリア・セザンヌが公爵令嬢だったこと。話題にはもってこいだし、欠点の無い二人を罵るために、付け入る隙があるように見える両者の振る舞いに焦点を当てたのでしょう。」
「それは……。」
「次にバカでもわかる客観的事実を申し上げましょう。」
「…………。」
「一つ、殿下の用意する衣装や装飾品は毎回独占欲の塊。二つ、無理を押し通して実現した婚姻の儀を前倒し。三つ、陛下及び殿下直々の護衛推薦。これらの事実から導き出される結論、殿下はお嬢様のことを大切に思っている。ステラさん、異論は?」
「ありません。」
チラリと時計を確認する。
そろそろ行かないと間に合わなくなるな。
「では、お嬢様に説明する役をお任せします。」
「はい、任せてください。」
「…………貴方たち、仲良いわね。」
「仲良くありません。これは利害の一致です。ね、ユリアさん。」
「だ、そうですよ。それでは。」
私も最後の仕上げに取り掛かりますか。
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