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最後の剣術大会

生徒会の面々が最終確認に奔走しているなか、ディル様と二人、騎士団長の隣に座って会場を見下ろす。


「お久しぶりです、ギブハート団長。良いんですか、私たちと一緒に居て。」

「構わん。模造刀でも人を殺しかねんからな。」

「あれ。私全然信用されてないです?」

「ドナウ将軍と一悶着あったと報告を受けているが?」

「謝りませんよ。将軍の落ち度ですから。」

「わかっている。おまえを野放しにしておくと帝国のお客人に何かあった時、真っ先に疑われるのは目に見えている。」

「あはは、心配してくれてるんですか?ありがとうございます。」

「…………。」


黙って視線を逸らされる。

それに苦笑しつつ会場を見下ろせば、着々と予選参加者が集まってきていて。


「そういえばディル様、どうして引き受けなかったんですか?レオナルド様からのお願いごと。」

「ユリアと過ごす方が有意義だと判断しました。」

「殿下とディル様の試合見たかったのに……。」

「国家間の火種になる可能性もあるでしょう?ソレを考慮したまでです。それに、あまり剣は得意ではないので。」

「ふ〜ん?」


どう見ても、剣を嗜む人の動きしてるんだけどなぁ。

でも貴族令息の嗜みだと言われればそれまで。


帝国剣術か帝王剣術か見たかったのに。

身体に染み付いたクセは消えないから。


「不満そうですね、ユリア?」

「ちょっとだけ。でもまぁ、断って正解だったとも思っています。」

「え?」

「こう言っちゃ悪いですけど、殿下とディル様じゃ雲泥の差でしょうから。」

「────」


殿下がロイドにぶっ飛ばされた時、思った。

あぁ、帝国の騎士より殿下の方が軽いんだって。


そりゃあ体格差とか経験値もあるだろうけど。


「ユリア。呼ばれてるのでは?」

「え?」

「ほら、あそこ。」


ディル様の指し示す方向を見れば鬼の形相のソフィアが居て。


「あれは呼ばれてないですね。無視してください。」


きっと、私がディル様と二人で居ることを快く思ってないんだろう。


「ものすごく怒ってるみたいですよ。」

「あはは、まぁ、今回ばかりは大人しく怒られますよ。」

「何したんですか。」

「ん?私たちが二人きりにならないように監視していたアルベルトを殿下との開幕試合に参加させたから。」

「!」

「アルベルトにはいい機会です。ギブハート団長、私の()()()なんで、ちゃんと見ててくださいね。」


アルベルトの時間を奪ったせめてもの償い。

いいや、そんな崇高なものじゃない。

ただの自己満足。


アルベルトの昔からの夢を叶えるための第一歩。


「殿下を見くびってないか?クロード殿下は、そう簡単に勝てる相手ではない。」

「それはどうでしょう。少なくとも、アルベルトはそうは思ってないと思いますよ。」

「…………。」


睨んでくるギブハート団長にニコリと微笑み、階下を見る。


「クロード殿下ぁぁあ!!素敵〜!!!!」


よく通る声だこと。


チラリと殿下を確認すれば、そんな応援の声も聞こえてないんじゃないかってくらいに婚約者様とお話されている。


あ、デコキス。


今日もごちそうさまです。


「この国の未来は明るいですね。」

「そう思います。」

「…………ユリア。」

「はい。」


その時、大きな歓声がこだまして。

視線を向ければ殿下の攻撃をいなし、会場をめいいっぱい使って動くアルベルトの姿。


さすが、意図をよくわかってる。


「……と、ディル様。何か言いかけてませんでしたか?」

「僕とデートしてくれませんか?」

「……………………はい?」


よ、予想外のお誘い……。

思わず動揺してしまった。


「実は、主への贈り物を探しているのですが、王国内を探索できていなくて。僕達、コースター辺境伯の傍でしか自由が無いですから。」

「あー…………。」


言われてみればそうね。

王命を言い訳にして学園内での監視しかしてないわ。


「私たちの監視無しで出歩いてる人が居るかと思いますが。」

「ははは……、僕は出歩いてませんよ?ですから、付き合っていただけると嬉しいです。」

「んー、わかりました。まぁ、お役目放置してる自覚はありますので、お付き合いしますよ。」

「ありがとうございます、ユリア!」


ドキッと鼓動が跳ねる。

落ち着け私。


「いつ城下へ行きますか?」

「今日一緒に行けますか?」

「え、今日?随分と急ですね……。」

「ははは、すみません。急ぎで必要なものでして。」


んー、どうしよう。

今日のお嬢様の予定は剣術大会の予選と明日の本戦での備品確認等。

生徒会の仕事を終えたあとは、公務があるって言ってたし……。


「私も今日は何も無いですし、良いですよ。」

「!」


そんな目を見開かなくても……。

私が応じるのがそんなに以外か。


「ディル様?」

「いえ。すごく、嬉しいです。ありがとうござ────」


肌を撫でるような親しみのある怒気。


「……、アル。」

「ユリア?」

「ダメ!!」


ビクッと身体を震わせて、なんとか剣術大会らしく決着をつけた。


それと同時にあがる歓声。


「……んの、バカ…!!」

「ユリア?」


ソフィアに合図を出せば、頷いてアルベルトへと駆け寄る。

アルベルトも怒られるとはわかってたらしく、ソフィアの形相に苦笑しているのが見えた。


「姫さん!」

「!」

「ありがとーな!」


ニカッと笑って見上げてくるアルベルトにため息を一つ。

手を振って応えれば、殿下の傍に行き手を貸してるのが見えた。


「一体何が……。」

「アルベルトが剣術大会の開幕試合だってこと忘れそうになってたので。それより、予選始まりますけどディル様は見て行きますか?」

「ユリアの予定に合わせます。」

「あ、本当?それなら一緒に食堂行きましょう。」

「食堂?」

「そ!今日と明日限定メニューが出てるんだって!食べてみたいから、人の少ないうちに行こうと思って。」

「……警戒しなくて良いんですか?」

「ふふ。私に毒を盛るんですか?」

「誰かに盛られる可能性はあるでしょ。」

「あはは、そんなの気にしてたら楽しい食事にありつけませんよ?それに、たかだかコースター辺境伯の娘一人毒殺したところで、状況は何も変わりません。まぁ、今よりも厳しい状況には置かれるかもしれませんが。」

「…………。」


誰がとも言わないし、誰がとも聞かない。

必要がないと、わかっているから。


「それで?私と一緒に食堂に行きますか?」


意識して微笑めば、困った顔をして笑う。


「お互いに毒を盛るメリットが無いのが明白なので、ご一緒させていただきます。」

「じゃあ行きましょうか。乱戦が終われば、食堂は混み合うでしょうから。」

「はい。」

「あ。ギブハート団長、あとはお願いします。」


視線がアルベルトをとらえたまま、軽く頷いた。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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