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大切な人 Sideソフィア

ユリアが王都に行ってすぐの話。

私達領民は、コースター伯爵家の人たちが大好きだ。

命の恩人だからって言うのもあるし、この領地の領主様だからって言うのもある。

でも、私はあの人達の人柄がすごく好き。


貴族も王族も平民も関係ない。


ダメなことはダメって言うし、良いことは良いって褒めてくれる。

文字の読み書きや、礼儀作法も教えてくれた。

必要ないでしょって思ったけど、絶対いつかは必要になるからと全員強制的に教えられた。

できない人なんて誰もいない。

私とアルベルトは、ユリアお嬢様と同じ年だ。

ソレを嫌だと思ったことはないし、後悔したこともない。

ただ、嬉しかった。


「頼む、ユリアのために……あの子のために、一緒に頑張ってくれないか?」


領主様が、みんなに内緒でこっそりお願いしてきたこと。

私とアルベルトだけの秘密。


「ソレが、ユリアのためになるの?」

「ソレは……わからない。」


あの時、領主様もとても考えたんだと思う。


「無理なお願いなのは重々承知している。ただ、君たちがこれからもユリアの傍にいるためには、どうしても貴族籍が必要になってくる。理由は、わかるね?」


ソレに、二人揃ってうなずいた。


私の家は、診療所だ。薬の販売が主だけど、父は薬師だから医者の真似事もしてる。

この領地唯一の医者だ。

アルベルトのところは、食堂だ。

領地で唯一の食堂であるアルベルトのところは遠征帰りの時によくお世話になる。

送迎会をするのはいつも、アルベルトのところの食堂で。

それが、習慣化している。


「領主様の言ってることはわかるけど、どうしたら良いの?売上あげたら貴族になれる?」

「まぁ、そうだな。売上を上げて認知してもらって、貴族のお墨付きをもらう。簡単に言うと、ソレだけ。推薦状は私が書くから気にしなくて良いよ。」

「え、ソレだけで貴族になれんの?」

「思ってたより簡単なのね。」


アルベルトとコレならなんとかなりそうだと笑い合う。


「私たちがユリアの傍にいるためには必要なんでしょ?だったら頑張りますよ、領主様。ユリアがいなくなったら、寂しいもの。ね、アルベルト。」

「そうだな。それに、元々俺たちは王都に出るつもりだったんだ。問題ないですよ、領主様。」

「わかった。ユリアが学園に上がる前に貴族籍を手に入れてほしい。どちらか一人、確実に。」

「どういうことですか?」

「一人だけユリアのために入学させる許可をもらってきた。ユリアの警護対象であるお嬢様の護衛のためだと言ってあるから、許可はすんなり降りたよ。ただ、ごめんね。ユリアが入学した次の年にはロイド、その二年後ウイリアムって入学が決まっていて……。その、情けない話なんだけどお金の事情で……二人とも入学させてあげられないんだ。」


申し訳ない、と。


本当に、申し訳無さそうに謝るから、私達は何も言えなくなって。


「本当は君たち全員学園に通わせてあげたいんだけど……、貴族であることが絶対だし、その、お金が払えることが条件だから……。貴族である以上子どもたちには学園に行く義務があるから。」

「俺たちが貴族になってからでも払えないような金額なんですか?」

「実はね、そうなんだ。あぁ、でも心配しなくて良いよ!ユリア一人に負担をかけたくないという自分勝手な理由で君たちにお願いしてるんだからね。」


そこは任せてほしいと笑顔を見せる領主様に、


あぁやっぱり好きだなって思う。


子供のために親身になってくれる領主様が。


私達に頭を下げてくれる領主様が。


「それなら、俺よりソフィアの方が適任だろ。」

「えっ?」

「医学の心得があるソフィアの方が適任だ。ソフィアも姫さんに負けないくらい強いし。それに、姫さんも流石に専門的な医学の知識はないだろ?たったら、ソフィアが傍に居た方が色々と良いと思う。」


アルベルトの言い分にうなずく。

ユリアお嬢様が関わったら馬鹿になるけど、いつもより優秀なのも事実だ。


「そうね、アルベルトじゃ私が不安だわ。領主様、ソレで良いですか?」

「あぁ、構わないよ。ありがとう、ソフィア、アルベルト。お願いね。」

「「はい…領主様。」」


笑顔で立ち去っていく領主様を見送る。


「絶対、貴族になるぞ。」

「当たり前よ。」


アルベルトが頭の後ろで腕を組んで。


「あーあ。おまえがただの暴力女だったらなぁ、俺が学園に通ったのに。」


なんてのたまった。


「無理よ。私が通うわ。」

「譲れよ、そこは。」

「嫌。」


誰も居ないことを確認して、アルベルトとまっすぐ向き合い、髪を解く。


ソレに怪訝な顔をしながらもジッと見てくる。


「私ね、ユリアに背格好似てるって評判なのよ。」


領地の人たちは騙せないけど。


早死したいわけじゃないけど。


「あの時、決めたの。知ってるでしょ、アルベルト。私達はいつだって、身代わりで死ぬ覚悟ができてる。」


年が同じだった。


背格好が同じだった。


でも、年齢なんて聞かれなきゃわからない。


ただ、背格好が似てるだけなら誰でも良い。


「アンタがロイド様の身代わりになれるように、私はお嬢様の身代わりになれる。」


領主様たちにバレたらきっと怒られるから、私達領民だけの秘密だ。

私達はいつだって、コースター家のために死ぬ覚悟ができている。

いつだって全力で私達を守ってくれる領主様が大好きだから。


「……姫さんはお前より髪の毛短いぞ。」

「知ってる。でも、そこまでしちゃうと絶対ユリア気にするもの。絶対に止めてくるわ。お嬢様を守りたいってだけ。その気持ちは、わかってくれるでしょ?」


アルベルトがガシガシと髪をかき回す。


「姫さんもソフィアも、絶対守る。だから絶対その髪は伸ばせよ。」


アルベルトの指先が風にさらわれる髪に触れる。


「せっかくキレイな髪なんだ、もったいない。」


こいつ、本当に……。


「ユリア以外に興味無いくせに。」

「ねぇな。」

「ソレ、私以外に言ったらダメよ。絶対反感買うから。というか、むやみに触らない。」

「言わねぇし、やらねぇよ。おまえは勘違いしないだろ。」


しないんじゃなくて、できないの。


知らないわけじゃないから。


知ってるから。


アンタが誰を思ってるかなんて、アンタが気づくよりもずっと前から知ってる。


「当たり前でしょ。私が好きなのはあっさりした顔の優しくて強い大人の男性だから。」

「知ってる。んじゃ、姫さんが学園に行くまでに頑張るか。」

「手伝ってくれるの?」

「当たり前だろ?薬は作れねーけど、行商の真似事くらいならできるから任せろ!」


アルベルトはいつだって、お嬢様のために動く。


アルベルトの行動原理はお嬢様のためか否か。


ユリアお嬢様はそんな彼の思いには気づかない。


何を勘違いしたんだか、アルベルトの好きな人は私だと思ってる。

何回訂正しても信じてくれない。

まぁ、そのお嬢様の想い人はアルベルトじゃないんだけど。


「ユリアお嬢様、喜んでくれれば良いけど。」


私達が勝手にしてること。

私達は勝手に領主様一家に命を預けている。

領主様たちが“白”と言えば“白”だし“黒”と言えば“黒”なんだ。


「喜ぶだろ、絶対。」

「わかんないでしょ。あの強がりお嬢様よ?」

「友達だろ、お前ら。」

「ソレ、関係ある?」


ユリアお嬢様の初恋が、誰かは知らない。


もしかしたら想い人が初恋の人なのかもしれない。


もしかしたら、貴族の誰かかもしれない。


私達の知らない誰かかもしれない。




だけど、




私の初恋は……。


「大丈夫だ。姫さんは、おまえのこと大好きだからな。」


ニカッと笑う。

その昔から変わらない笑い方は、ずっと、私を掴んで放さない。


「ユリアお嬢様は領地のみんなが大好きなのよ。」

「知ってる。でも、姫さんが王都に行く前に教えてくれたのは俺たちだけだろ?最年長だってのも理由の一つだろうけど。そうやって姫さんが教えてくれるだけの関係は築いてるんだから、自信もとーぜ、ソフィア。」

「言われなくてもわかってるわよ!」


バチンッとその背中を叩く。


「いてーぞ!なんで叩くんだ!」

「なんとなく!」


ユリアは領地のためにいろんなことをしてくれる。

私達のために、家族のために、あらゆるものを見据えてる。


貧乏貴族の辺境伯家。

可哀想な辺境伯家令嬢。


私達でさえ、ユリアたちがなんて呼ばれてるか知ってるんだからコースター家の人たちが知らないなんてことはないと思う。

それでも、ユリアたちはそんな評判を気にすることなく私達を思ってくれる。

私達のためにお金を使わなかったら今頃、お嬢様は王都に出稼ぎになんか行かなくても良かった。


「お嬢様のために頑張るわよ、アルベルト。」

「おうよ!」


何が何でも稼いで、貴族になる。


ソレがユリアを助けるために必要なんだと言うのなら、絶対に貴族籍を手に入れてみせる。

領主様のお願いだ。

絶対に叶えたい。


「じゃあ、私はお父さんたちに事情を話ししてくるわ。」

「俺も話さなきゃ。じゃーな、ソフィア。またあとで。」

「えぇ。」


私は、ユリアのために生きると決めた。

アルベルトも、多分そうだと思う。

私達の大切な人はそんなこと知らないだろうけど。

私達の執着にも似た思いに気づくことはないだろうけど。

それでも、この思いを否定はしないと知ってるから。


たとえこの先、平民の娘だとバカにされたとしても。


たとえこの先、平民の生まれだと言うことが足かせになったとしても。


ユリアたちの傍にいる。


お嬢様たちが、私達のために授けてくれた教養は絶対に無駄じゃないって証明してみせる。


──…フィー、貴族とか平民とかそんな小さなことはどうでも良いの!何度も言ってるでしょっ?フィーがどうしたいのか、ソレだけが知りたいの。


貴方が私達のためにお母様の形見を手放したことも知ってるわ。

あの十年前の出来事の時から、私は決めたの。


三年前のあの日、貴方が私達のために形見のドレスも全て手放したと知ったあの時には私、決めてたのよ。

貴方たちが貧乏貴族って呼ばれる前から、決めてたの。 


「お父さん、お母さん、お願いがあるの。」


貴方の影武者として生きるって。


ソレをアンタは怒るだろうけど、ユリアたちが幸せになるなら構わない。


コースター家(みんな)にはまだ、内緒だけどね。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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