最終学年
長期休みを、領地だけで過ごしてしまった……。
お父様が領地に戻ってきたのは私が学園に戻らなければならない日の前日で。
セザンヌ公爵邸に戻った時、公爵に怒られるかと思ったが、お咎め無しだったのは少し驚いた。
「娯楽施設襲撃にはついてくるかと思ってたわ。クロード様は貴方が来ないことを知ってたみたいだけど。私には一言くらいあっても良かったんじゃなくて?」
「あ、すねてます?」
「ユリア?」
狭い馬車の中、懐かしいやり取りに口角があがる。
「ふふ、すみません。私がどこに居るかで敵の動きが変わると予測していました。だから私は領地に帰り、代わりにお父様が王都に居ました。」
「……心配してたのよ。私が最後に見たのは返り血を浴びた貴方だったから。」
「ありがとうございます。私がこうして一緒に過ごすこと、怖くはないですか?」
「そりゃあ、ビックリしたし怖かったけど……。娯楽施設で見た光景に比べればマシよ。」
「あぁ……なかなか大変だったと聞いてます。お嬢様も大活躍だったとか。」
「貴方との特訓のおかげよ。」
殿下方が血の海に沈める中、後方待機を命じられていたお嬢様が鉄扇で攻撃をすべていなしたのは報告書で見た。
「ソフィアさんにもお世話になって……。ふふ、エルディラン様に襲いかかる敵を思わず助けてしまったと嘆いていたのよ?」
「エルディラン様……?まさか、エルディラン・マルシェ第一皇子ですかっ?」
「え、えぇ。」
ということは、皇太子殿下は第一皇子だったわけか。
でもそれなら、学園に通っているディル様との既視感はなんだ……?
「マルエラン・ディ・シエルは不参加だったのですか?」
「えぇ。なんでも、エルディラン様の代わりに書類整理をされてるとかで。側近の方も居なかったから、クロード様が心配されていたわ。まぁ、その心配も杞憂に終わったのだけれど。」
側近が居ない……?
側近を置いて娯楽施設にクロード・カルメやマリア・セザンヌと行動をともにしていたということ?
あの、帝国の皇子が……?
「ついたわね。いよいよ、最後の学園生活ね。よろしくね、ユリア。」
「こちらこそ、お願いします。マリア様。」
馬車を降り、学園の門をくぐる。
真新しい制服に身を包む生徒たちが遠巻きにお嬢様へと視線を向け、色めき立つ。
「マリア!」
「クロード様!」
「ああ…!会いたかったよ、マリア!今日も可愛いね。」
「……、ありがとうございます。」
「……………………レオナルド、先に行く。」
「はい、殿下。」
殿下がお嬢様の手を引いて校舎へと消えていくのをレオナルド様と見送る。
「おはようございます、レオナルド様。」
「おはよう、ユリア嬢。」
「殿下、長期休みの間に何かあったのですか?随分と堪え性が無い気がしたのですが。」
「あぁ……。娯楽施設でマリア嬢が活躍したのが原因かと。ますます惚れたとおっしゃられておりましたから。」
「あらあら。」
必要最低限のことしか教えてなかったけど、殿下が惚れているのなら良いわ。
「あ、そうです。ユリア嬢、お会いしてほしい方が居るのですが。」
「私に?」
「はい。」
レオナルド様に連れられ、新入生が集まる講堂の入口へと向かえば。
人混みに埋もれて、縮こまる見慣れた姿。
「まさか……。」
「ユミエル!」
レオナルド様の声に反応して、縮こまっていた人物は背筋を伸ばし振り返ると笑顔で駆け寄ってくる。
「レオナルド兄様!お嬢様!」
キラキラとした瞳が私を見上げてくる。
「よく似合ってるわ、ユミエル。入学おめでとう。」
「ありがとうございます、お嬢様!それもこれも、お嬢様のお陰です!」
「ふふ。ユミエル、学園でお嬢様はダメよ。」
「あ、ごめんなさい。つい……!」
慌てるユミエルに笑って頭を撫でる。
この長期休みはお父様が王都に居て色々としていたみたいだから、ユミエルと話す機会はなかったけど……。
「ドナウ侯爵は何か言ってた?」
「せいぜい恥じない結果を残せとだけ。剣術の腕前は全然ですが、頑張ります!」
「あまり気負いすぎないでね。」
「はい!」
「…………本当に、ユリア嬢によく懐いてるな。」
「あら、レオナルド様、ヤキモチですか?」
「そうだな。弟を取られた気分だ。」
「!僕、レオ兄様が一番好きですよ!!」
「ありがと、ユミエル。改めて、入学おめでとう。緊張はしてないか?」
「う……緊張してないといえば嘘になります。でも、大丈夫です。」
ユミエル、少し見ない間に大きくなった気がする……。
長期休みの間に、何かあったのかな?
「レオ兄様が近くに居てくれますから。」
「────」
これ以上はお邪魔かな?
気配を消して二人から離れる。
最終学年はクラス替えは無いから、去年同様に私はメインキャラクターたちの隣のクラス。
最初から最後まで、教室でのイベントスチルを拝むことができなかったことだけが悔やまれる。
でもまぁ。
「悪くはなかったかな。」
「呑気に笑ってんじゃないわよ、このおバカ。」
振り返れば、怖い顔をして目尻に涙をためるソフィアが居て。
「おはよ、ソフィア。ロイドとアルベルトは一緒じゃないの?」
笑って応じれば勢いよく抱きつかれる。
「ソフィ……ぐへぇ。」
し、絞め殺される……っ!
「私たちがどれだけ心配したかと……っ!!」
「ぐ、ぐるじい……。」
「領主様に聞いた私たちがどんな気持ちになったと思って……!!」
ソフィアの腕から力が抜け、解放される。
し、死ぬかと思った……。
第二の人生、ココで終了かと思ったわ。
「怒ってんのよ。」
その表情に笑って、抱きしめる。
「心配かけてごめん。ありがと、ソフィア。」
「……っ。」
「私の代わりにマリア様の傍に居てくれたって聞いたわよ。頑張ってくれてありがとう。」
「ユリアが居ないから……っ。仕方なくよ…!」
「うん。ありがとう。」
娯楽施設襲撃の顛末は聞いている。
数名は生きて捕らえることに成功したけど、大半は死亡したと。
「ソフィアが奪った命は一つとして無い。ソレは、ちゃんとわかってる。だから、背負い込まなくて良い。たとえ、ソフィアのせいだと貴方が思っていたとしてもソレは貴方のせいじゃない。私たちコースター家が招いた結果よ。」
お父様が私ではなくソフィアを行かせた意図も。
皇太子が一人だったことも。
マリア様が自衛できるとバレたことも。
「それに、王都で奪った命が原因で娯楽施設に行けなかったわけじゃないから。アレは別件。だから、本当に大丈夫よ。」
「…………嘘じゃないでしょうね?」
「この手の嘘、ついたことないわよ?」
「…………そうね。」
不満そうではあるけど、納得はしてもらえたらしい。
「ほら、そろそろ行きましょ。ユミエルの晴れ舞台見なきゃ。」
「そうね。あの子、お嬢様にかっこいいとこ見せるんだって意気込んでたわよ。」
「ふふ、それは楽しみね。」
そういうところが可愛いんだけどなぁ。
でもまぁ、攻略対象の弟であるユミエルは、かっこいい紳士になると思うんだよね。
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