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長女と次男

馬を走らせること数日。

単騎駆けたお陰で、かなりの日数を短縮できた。

ありがたい。お尻が痛いけど。


「ただいまー。」


領民たちが活動している気配を感じながら邸の扉を開けば。


「「お姉様〜!!」」

「ぐへ……っ。」


強烈な抱擁(タックル)で出迎えられた。


み、みぞおち強打……。


「リオネル、アイン……。大きくなったわね……。」

「お姉様おかえり!!」

「おかえり!!」

「ただいま……。」

「わー!エドワード!ニーナを見ててって言っただろ!?」

「わああああああん!!」

「そんなこと言ったって……!あぁ、泣かないでニーナ……!!」

「ぼ、僕がどうにかするから!エドワードは火を見てて!!」

「わ、わかった!!」


奥の方から阿鼻叫喚の声。


「…………今、何が起きてるの?」

「朝ごはん作ってた。」

「朝ごはん、まだなの。」

「え?いつもならこの時間には食べ終わってるでしょ?」

「ウイリアム兄様泣きそうな顔して頑張ってる。」

「エドワード兄様泣きそうな顔して頑張ってる。」


なるほど。

どうやらあの二人が先に限界きてるらしい。


「二人とも、放して頂戴。」


渋々と解放してくれる。

二人の頭を撫でて、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっているであろう部屋に入れば。


散らかり放題の部屋に思わず笑って、泣きそうな顔でニーナをあやすウイリアムの頭を撫でる。


「全く。お父様はそんな長期間留守にしてないと思うんだけど?」

「姉ちゃん……!!」

「お父様、コレを心配してたのね。ほら、泣き止んで、ニーナ。何がそんなに悲しいの。」

「ね、ねーね……っ。ねーねぇぇええええ!!」

「あー、はいはい。」


伸ばされた手に苦笑しながらウイリアムからニーナを受け取る。


「朝ごはんまだなんでしょ。ウイリアムが当番の日だったの?」

「う、うん。朝の当番終わりだったから遅くなって……、それで……。」

「あー。たまにあるよね、当番と被る日。それなら仕方がないわ。ほら、おいで。手伝ってあげるから。」

「……、うん。」


片腕でニーナを抱き上げ、ウイリアムの手を引いて台所へと入れば。


「ウィル兄!焦げる!焦げた!!これどうし……、ユリア姉!なんで居るの!?救世主!!最高!!」

「はいはい。ほら、ちょっとどいて。」


火を止め、焦げた卵だったらしきモノを見る。


えっと、今ある食材と調味料はっと。


うん、なんとかなりそう。


焦げた熱々卵を手で掴み一切れ食べる。


「……うん、使えるね。表面焦げてるだけで、中身は大丈夫。教えてあげるから、ウィルとエドは協力して朝ごはん作って。リオネルとアインはニーナと向こうで遊んでてくれる?」

「ねーね、ヤッ。」

「後でね、ニーナ。」


泣き叫ぶニーナの声を聞きつつ、リオネルとアインに連れて行ってもらう。


「ほら、呆けてないで。リオネルとアインまでお腹すいたってダダこね始める前に作るよ。」

「わ、わかった。」


さて、黒焦げ卵を活用して朝食作りますか!






無事に朝食を終えて、掃除などの家事をこなし、それぞれが好き勝手に過ごす。

今日はエドワードが学び舎での講師役らしい。


「しばらく見ない間にみんな身長伸びたなぁ。」

「そう?」

「そーよ。ウィルは今日、書類整理だけ?」

「うん。まだ処理終わってないんだ。」

「そっか。じゃあ、久しぶりの領地だしちょっと付き合ってくれる?」

「良いよ。姉ちゃん、どこ見たい?」

「とりあえず水源かな。」

「え。」

「何?」

「あ…その……。」


まだ問題が解決してないのね。

お父様の予想が大当たりってところかしら。

私に見せてきた資料もこの水源に関することだけだったから、気になってはいたんだけど……。


剣を一本腰にはいて、手を伸ばす。


「ふふ。行くわよ、ウイリアム。書類から読み取れない背景は、現地に行って確認するのが一番!」

「わわっ!姉ちゃん……!」


ウイリアムの手を引いて領内を進んで行く。


「お嬢様〜!帰ってきてたの!?」

「わー!おじょーさまー!!あそぼ!あそぼ!!」

「あしょぼ!!」

「ごめんね、今お仕事中なの。終わったら遊ぼうね。」

「ほんと!?約束だよ!約束!!」

「えぇ、約束。」


行く先々で久しぶりだからとお声がけいただくが、すべて断る。

大人たちは私がウイリアムを連れて歩いてるのを見て、何かあったのかと首を傾げている。


「お嬢様!ウイリアム坊っちゃん!何か手伝うことあるかい?」

「今のところ大丈夫!ありがと!」

「何かあったら声かけておくれよー!」

「頼りにしてる〜!」


優しいみんなに応えてコースター辺境伯領の水源へと進む。

コースター辺境伯領の実りが良いのは広大な水源と土があるからと言われている。


「姉ちゃん、ココって……。」

「あぁ、ウイリアムは来るの初めてだっけ?そう。ココが我らがコースター辺境伯領の水源!」

「…………国境越えた気がするんだけど?」

「あら、越えてないわよ。防護柵越えてないでしょ。」

「そうだけど……。」

「今帝国が侵略している柵の少し向こうは王国の領地だったと言われているわ。あぁでも、侵略されて奪われたわけじゃないのよ。あと、ココがちょうどコースター辺境伯領の中心。だからココで避難経路も学び舎と領主の邸で分かれているのよ。」

「……父ちゃんが言ってたのはココだったんだ。」

「そ。で、水の独占を禁止するためにココはコースター辺境伯以外の立ち入りを禁止している。」


人の気配にウイリアムを背にかばいつつ向き直る。


「だから、ココに勝手に人が入ってる時は問答無用でお縄につけるのよ。今回の場合は敵意は無さそうだけど、一人で来ないようにね。」

「わかった。」


こっちをジッと見てくる相手にニコリと微笑む。


「こんにちは。ココは立入禁止よ。どこから来たのかしら。貴方、領内で見ない顔ね。」

「う……あ、その……。」

「落ち着いて。貴方は誰で、どこから来たの?」

「お……。」

「「お?」」

「お、しろから……ココなら、助けてもらえるって……。それで、その……。」

「あぁ、なるほど。」


大方、コースター辺境伯の数少ない良い噂を聞いてココに来たのでしょう。


身なりからして元々貴族なのは間違いなさそうだし、お城から来たという言葉が本当なら教養もある。


「それならココが立ち入り禁止の場所だと知らないのも無理はありませんね。私はユリア・コースター。貴方の名前を教えてもらえるかしら?」

「……ニックです。」

「家名は?」

「!」

「貴族でしょう?」

「…………。」


視線が泳ぐ。

ずっとソワソワと落ち着かない様子からして、何かを怯えているのは間違いない。


「…………ドルモア。」

「……なんですって?」

「ニック・ドルモアです。」


思わず目を見開いてウイリアムを振り返れば。

キラキラと目を輝かせていて。


「もしかして、財務省財務閣下、ニードル・ドルモアの一人息子、ニック・ドルモアですか!?わー!本当に!?天才と名高い人に会えるなんて、僕、感激です〜!!」


駆け寄ってブンブンと手を上下に振る姿にため息を一つ。

危ないからと言っても聞きやしない。

まぁ、腕一つ分あれば逃げられるだろうけど。


「ごめんなさい。その子、貴方の大ファンなの。」

「わ、私の……ですか?」

「はい!!」


ニック・ドルモア。

この世界のモブキャラであり、この王国の財務省財務閣下の一人息子で、ヒロインの殿下攻略に一役かってくれた人。

ヒロインが殿下に会いに来たお城の中で迷子になっていると助けてくれたり、ヒロインの惚気話という名の相談を聞いてくれる助っ人キャラ的存在。


何よりショックなのは彼が帝国に買収されたスパイだったということ。

ヒロイン目線では帝国と王国のいざこざなんて表立った問題ではなかったから、追求はなかったけど……。

彼、国外追放で終わってるのよねぇ。


どうしてココに居るのかしら。


「ニック・ドルモア。どうして、はじめに家名を名乗らなかったの?」

「それは……。」

「…………。」

「ドルモアとは縁を切られたので……それで、行くところがココしか……。」

「よっぽどのことをしたのね。何をしたの?ニードル・ドルモア財務閣下は穏やかな人だと聞いているけれど。」


挙動不審に動く目。

小さく息を吸い込んで、私を見る。


「駆け落ちしようとしたことが、バレたんです。」


カマかけてみるか。


「帝国に駆け落ちしようとしたの?」

「な……っ!!」

「…………。」

「……………………、違います。相手は平民の女の子だったから、怒られただけです。」

「それならどうしてわざわざこんな辺境地に?ドルモアである貴方と関わりがあるのだから、相手は王都暮らしの平民の子でしょ?」

「そ、れは…………。」


ますます挙動不審になる姿をジッと見ていれば、ウイリアムが大きく息を吐き出して。


「ねぇ、落ち着いて。ニック。どう答えたとしても君はココにいて、姉ちゃんは君に答えを求めている。ソレに対してこれ以上嘘をつき続けると全てを失うよ。」

「何を……。」

「ニック・ドルモア。僕達はコースター辺境伯だ。君たちがどう思い、どう噂をしようがソレが事実だ。もう一度言うよ?すべてを失いたくないのなら、事実を話したほうが良い。」


ウイリアムの真っ直ぐな言葉にたじろぐのを見る。


「ウィル、おいで。」

「はい。」


ニックの手を放して私の傍に来る。

その手に注射痕などが無いことを確認して、ニックに向き直る。


「最後の質問よ。貴方はどうしてココに居るの?」

「…………、行くところが無いからです。」


力なく笑って答える。


「そう……。」


とても、残念だ。


「じゃあ移民手続きをしなきゃ。この辺境伯領への移民手続きはちょっと面倒なんだけど……。場所を移しましょうか。悪いけど、目隠しつけるわね。貴方はまだココでは他領の人間だから。領地内観察されると困るのよ。」

「…………わかりました。」

「協力感謝します。移動先では必要書類に記入してもらって、住む場所が見つかるまでの仮住まいに移動するから。」

「はい。」

「よし。ウィル、こっちは任せるわ。あとすることはわかるわね?」

「うん、大丈夫だよ。せんせーと二人で頑張るよ。」

「困ったらすぐ相談してね。さぁ、行きましょう、ニック。案内するからしっかりついてくるのよ。」

「ついて来るようにって……。」


戸惑うニックの手首をつかみ、目的地へと足を進めた。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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