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人の口に戸はたてられぬ

用意されてるドレスに目を瞬き。


「え、何コレ。コレ着るの?本気で??」

「さぁさ、お嬢様!お時間がありませんので。」

「はい、ユリアちゃっちゃと脱いで!」


ベロニカとソフィアの手によって、仕立て上げられた自分の姿はまさしくザ・プリンセス。


とは言ってもエンパイアラインなので、子供っぽさはない。


白銀を基調とした薄青で彩られたドレスはキラキラと輝いていて。

装飾品一つとってもコレ一つで民家なら買えるだろうものがついていて。


「よく似合ってるわ。」

「とても素敵です、お嬢様。」

「ありがと、二人とも。でもコレじゃあ、誰が主役かわかったもんじゃ……というより、このドレスどうしたの?」


いくら王都で金に糸目をつけるなと言われているとは言え、こんな豪華な仕様になるような注文はしていない。


マダムシャーリーも注文外のことはしてこないハズ。


「そちらのドレスは旦那様からお預かりしたものでございます。」

「お父様から?でも、手紙にはそんなこと一言も……。」

「旦那様もお嬢様宛の荷物として代理で受け取ったようで。今回のセザンヌ公爵家主催の誕生日パーティーにふさわしい装いだからと送ってこられました。」

「いや、コレ完全に主役食ってるから。」

「いいんじゃない?アンタが主役で。」

「良くないわよ。どっかの誰かとは違って私はマリア様と波風立たせずにいたいのよ。」


いくらマリア・セザンヌが殿下からの贈り物であると嫌でもわかるような豪華絢爛なドレスに身を包んでいたとしても。


「さ、行くわよユリア。誕生日パーティーに遅れちゃう。」

「あ、待って。ありがと、ベロニカ。行ってきます。」


暗器を仕込む私を見てニコリと笑うベロニカは、本当よくできた侍女だと思う。


「おー、ソフィア、姫さ、ん……?」


ポカンと目を見開いて停止するアルベルトに、ソフィアを振り返る。


「どうしよ、アルベルトが言葉失うくらいどこか変?着崩れてる?」

「今部屋から出てきたところでしょ。」

「そうだけど……。」

「姉さん、ソレ、親父から贈られてきたヤツか?」

「えぇ、そうみたい。」


こんな豪華なドレス一体どこから仕入れてきたのか。

危ない行商人に騙されたり……は、しないか。


「意味は無いこと言わねぇだろうから、行きゃなんかわかんじゃねーの。」

「まぁ、ソレはそうね。じゃあ行きましょうか。今日の御者は……。」

「ガゼルだ。」

「それはまた、荒れそうな人選ね。」


王城の人間にマルクル様とガゼルの関係が知られているだろうから。


「いらない誤解を生みそう。」

「まぁ、そういうな。本人はやる気満々だ。」

「珍しい。」


ロイドにエスコートされながら馬車へと向かえば、こっちを見て目を瞬くガゼルが居て。


「きれいです、お嬢様。」

「ありがと、ガゼル。」

「ソフィアさんもよくお似合いです。そうしてると普段とは別人ですね。」

「当然よ。だって私、英才教育を受けた淑女だもの。」


フフンと誇らしげなソフィアに笑いつつ馬車に乗り込み、ロイドの顔を見れば。

まんざらでもなさそうな表情で肩を竦める。


「良い傾向ね。」

「そうだな。」

「何年で叶うかな。」

「ウイリアムが卒業する頃には叶うだろ。」


それは、五年以内で殿下たちが変えてくれるというロイドなりの信頼。


「叶えば良いね。」

「最短でな。」

「なんの話ししてるの?」

「「内緒の話。」」


そう応じれば、ソレ以上踏み込んで聞いてくることはない。

本当に、よくできた家族だ。


馬車がゆっくりと動き出すのを感じながら、今頃会場に居るであろうお嬢様に思いを馳せる。


「去年は、救護活動に勤しんだわね……ソフィア。」

「そうね。今年は平和に終わってほしい。」

「ん?何かあったのか?」

「大通りで馬車の事故があったのよ。それに殿下たちが巻き込まれてちょっとした騒ぎになったの。」

「そういやそんな話聞いた気がする。」

「アンタ本当、ユリア以外のことに興味ないわね。」

「失礼なヤツだなぁ。俺は家族以外に興味ねーだけだ。」

「どうだか。」


他愛もない話をして居ると、無事にセザンヌ公爵家へと到着。

ガゼルの手を借りて降りれば、視線が集まる。


「お気をつけて。」

「あぁ。」

「行ってきます。」


ロイドにエスコートされながら会場入りすれば、すでに殿下がお嬢様を見せつけるように横にピッタリと張り付いていて。


どうやら堅苦しい挨拶は済んだらしい。


「アレはエスコートというよりも牽制だな。」

「うん。」


このまま二人には結ばれてほしい。


あ、目があった。


「皆!」

「おめでとうございます、マリア様。」

「お誕生日おめでとうございます!マリア様!とっても素敵なドレス!クロード殿下の独占欲が溢れ出ててますね!」

「……っ。」

「私のマリアだからね。ね、マリア?」

「〜〜〜〜っ。」


腰を抱き寄せ、マリア様の垂れる髪を指先でもて遊ぶ殿下はとても良い笑顔だ。


「殿下、そのくらいで。マリア様が倒れそうです。」

「残念。」


たいして残念そうではない殿下がお嬢様から少し離れる。

それでも腰に回っている腕はそのまはまだが。


頑張れ、お嬢様。

そんな顔をしても私にはこれ以上どうにもできません。


「ユリア嬢のそのドレス……。」

「あぁ、コレは────」


その時、ざわざわと入口付近が騒がしくなって。

視線を向ければ、帝国の皇太子とその従者。


…………ん?あの格好は…………。


「ロイド。」

「ごめん。」

「…………。」

「知ってた。」


ジトリと睨めつければ、苦笑して。


「親父から口止めされてた。」


その事実に出かけた言葉を飲みこみ、息を吐き出す。


「お父様はなんて?」

「縁談がとどまることを知らないから、一泡吹かせて来いって。」

「…………………………………………よりにもよって皇太子とは。」

「現状だと国内は選べないだろ。」

「それもそうね。今日一日だけだと腹をくくるわ。」

「それでこそ姉さんだ。」


まっすぐにこちらへと近づいてくる皇太子に道を譲れば、殿下の真正面に立つ。


「このようなめでたい日に招待していただき感謝する。」

「こちらこそ、ありがとうございます。」

「クロード殿は良い婚約者をお持ちだな。」

「えぇ、私の自慢です。」

「ククク、まっすぐだな。」


軽く言葉を交わし、こちらに視線を向けてくる皇太子から目をそらさずに見つめ返す。


「やはり、よく似合っている。」

「ご期待に添えれたようで何よりです。」

「気に入ったか?」

「靴はもう少し低めが好きです。貴方を狙うには不安定ですので。」

「ククク、そうか。では次からも贈る際は、高めにしておこう。」

「…………。」


私からの言葉も笑顔でかわすと、手を差し出される。


「お相手願います。」

「えぇ、喜んで。」


その手をとれば、少しだけ驚いたように目を開くから。


「ドレス分くらいは役目を果たしますよ。」

「それはありがたい。」

「マリア、私達も。」

「はい。」

「ロイド坊っちゃん、ソフィアと行ってくるか?」

「お前が行け、アルベルト。俺はやることがある。」

「わかった。んじゃあ、ソフィア。」

「ちゃんとエスコートしなさいよ。」

「任せろって。踏まれかけても逃げるのは得意だ。」

「その自信コテンパンにしてやるわ。」

「淑女教育はどーした?」

「バレないように色々模索するのも淑女よ。」

「こえー。」


なんて声を聞きつつ、ダンスフロアへ足を踏み入れる。

私を静かに見下ろすのは同じデザインの衣装に身を包んだ皇太子で。


ほんと、モブキャラのくせに顔面偏差値高くて嫌になる。


「見惚れたか?」

「マナーを守ってるだけですが。」

「ククク、そうか。それは残念。」

「それで?」

「ん?」

「わざわざお父様と共謀して何を企んでいるの?」

「…………。」

「素敵なドレスを用意してくれたことには感謝してる。でも、貴方が意味のないことはしないってことくらいは知ってる。」


小さく笑ったかと思えば、顔が近づいてきて。


「学園での長期休み、例の娯楽施設へ乗り込む手筈を整えている。」

「!」

「この件はクロード・カルメの協力を得ている。他国で好き勝手はできないからな。」


適正距離まで離れる皇太子を見上げれば、見慣れた笑みを浮かべていて。


「詳しい話はマルエランから伝えさせる。協力してくれるだろ?」

「……王家が関わっているのであれば私の出番はないでしょう。」

「俺達が大切な御学友を傷つけるとは考えないのか?」


なんて。

挑発にも似た言葉と表情。


だけど。


そんなこと、する気もないクセに。


ニコリと微笑み、言葉を飲み込む。


「今、殿下方に死なれると困るのよ。暇だったら顔出すわ。」

「ククク、帝国との戦闘もないのに忙しいのか?」

「あら、領地の経営って忙しいのよ。知らないの?」

「お前達コースター辺境伯にとっては、片手仕事だろ。」

「随分と高い評価ね。」

「当然だ。ユリアとロイド、二人揃って戦場に顔を出したのは俺がロイドに怪我をさせたあの一回だけ。帝国側の狙いもカンパした完璧な陣形と布陣。領地から戦闘員を排除しないのは防衛戦の基本だが、最高戦力を防衛戦に回すという異例の配慮。絶対にココは落とさないという決意の現れだ。何より、戦地に赴いていない辺境伯領の人間はいつも通りの日常を送っている。帝国の軍勢相手が攻めて来ているのに、だ。」

「…………。」

「ソレを片手間と言わずになんとする?今、こうして俺がお前の行動を抑制しているのにも気づいているのに抵抗しない理由と、関係があるのか?」


その問いかけに、ニコリと微笑み返す。


「ソレとコレは別の話ですわ、皇太子殿下。」

「どうだか。」

「あら、今ココで殺されるかもと?だったらどうしてこの招待を受けたのですか?いくら帝国と王国の距離を縮めるためとは言え、未来の王妃相手に(こび)を売るような性格ではないでしょ。」


そう言い切れば、笑みを深める。


「何より、貴方の側近はロイドの誘いに乗って会場を離れた。貴方たちはココで自分が狙われるかもなんて心配していないし、ココで問題が起きないと知っている。まぁ、私達コースター辺境伯になら殺されても良いというような方々なので、私達以外への対処方法は用意してきているのでしょうけど。」

「ククク、さすがだな。」


曲が終わり、手を放そうとすればそのままグイッと引き寄せられて。


「何を……。」


二曲目が始まり、抜け出せなくなる。


招待客たちがポカンとこっちを見ている。


「…………この国で、二曲連続踊る意味を知っていますか。」

「あぁ、もちろん。」


睨みつける私をものともせず。


「二曲連続で踊ることが許されているのは婚約者だけ、だろ?三曲連続は夫婦の特権だったか。」

「私、貴方と婚約者ではないのだけど。」

「似たようなものだろう。」

「どこが。」

「俺達帝国とコースター辺境伯の不仲は周知の事実。そして、今日のこのパーティーで俺の贈り物を身にまとっている令嬢がユリア・コースターなのも周知の事実。」

「…………。」

「未発表の疑いようのない事実として、噂話が広がる。事実がどうであれ、な。」


「…………。」


そうなると、私達コースター辺境伯領が帝国の軍勢と日々攻防を繰り広げているという現実が自作自演扱いされて王都の貴族との溝が更に深まる。


今回の国家間交流が原因で急接近と捉えてくれる人が一体どれだけこの国に居るのだろう。


「ほんと、良い性格してる。」

「よく言われる。」


意地悪くあげられた口角。


二曲目が、終わりを告げた。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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