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公爵令嬢と辺境伯令嬢

お嬢様と手作りブレスレットを作ると決めたのは良いものの……。


「…………マリア。」

「…………。」

「不器用だったのね……、意外。」

「わ、私はしたことがないことが苦手なだけよ!」

「なるほど。」


確かに、貴族の教育ではこういう工作は習わない。

せいぜい刺繍の仕方をみっちりとしごかれるだけだ。

あの時間は何よりも苦痛だったなぁ。

普段からほつれ直しや裾直しとかしてたから、裁縫することに関しては問題なかったんだけど。

あの練習用の模様よ、問題は。

曼荼羅(マンダラ)模様みたいなものや幾何学(きかがく)模様みたいなのが出てきた時は口が開いたわ。


「ユリアは……上手ね?したことあるの?」


はい、前世のヲタ活で何度か。


なんて、言えるわけもなく。


「領地に居る時に何度か。行商に売るのにも、拾った石をそのまま売るよりは加工したほうが売れるので。」

「そうなのね。でも、ココ、失敗してるわ。」

「うぐ……、誤魔化したハズなのに。さすがの目利きです。」

「フフ、当然よ。私を誰だと思ってるの。僅かな不正も許さないわよ。」

「わぁお、カッコいい。」


その姿勢がヒロインとバチバチぶつかる理由のんだろうけど。

悪いところじゃないのよねぇ。

今のところ、悪役令嬢っぽいところってないし。


「コレは何の石かな?ガラス玉っぽくはないよね?」

「ソレは水晶ね。透明度はかなり悪いけど、質の良い屑石のようよ。」

「へぇ……。」


水晶ってこんなふうに削られてるんだぁ。

前世でも見たことない削り方だなぁ。

ただ割れただけって言うには意図的な削ぎ落とし方って感じだし。


「あら?コレは…………。」

「どうしました?」

「この石……。」

「?」


お嬢様の手元を見れば、キレイにカットされている宝石。

屑石の中に紛れていて気づかなかったけど、コレは完璧に加工された価値ある宝石だ。

この小ささでも値がはる代物。


「どうしてこんなところに…………。」


というか、その石、イベントです。

ヒロインが登場して学園生活満喫してる時に王太子に見せるシーンがあったハズ。

つまり。


「お嬢様、ソレ、ブレスレットに組み込んでは?」

「え?」


ココでヒロインが王太子ルートに行くフラグをバキッと折れば、私も仕事遂行できる確率があがるのでは!?


「気になるんですよね?だったら、ブレスレットに組み込んで、持ち帰り、クロード様に相談するべきです。」

「でも…………。」

「些細な違和感も逃しちゃダメです。コレ、我が領の教訓です。」


むしろ持って帰れ、頼むから。

ダメなら私が使う。

ヒロインと王太子の接触フラグは片っ端から折りたいんだ、私は。


「…………そこまで言うなら……、わかったわ。」


クロード様のためだもの、なんて。


健気で可愛いかよっ!!

王太子が溺愛してるのが、こういうとこなんだろうなぁ!!

この状態の令嬢を悪役令嬢にするなんて、ヒロインが悪役令嬢だわ!

いや、悪女だわ!!


「クロード様に見られても良いような出来にしましょう!この石はどう?マリアとクロード様の石。」

「…………っ。」


ボンッと音が聞こえそうなくらい真っ赤になったお嬢様に笑いながら、ブレスレット作成を続けた。





なんとかブレスレットを作り終え、サラダクレープを購入。

買い食いをしたことがないというお嬢様の為に、ベンチに座って食べる。

まぁ、歩きながら食べるのはお行儀悪いから仕方がない。

なにより、お嬢様に買い食いを教えたとバレればあらゆる方面から消されかねない。


「……はい、どうぞ。」

「ありがと…………。」


毒見を済ませたクレープを渡す。


「初めて食べるわ…………。」

「美味しいですよ、ガブッと食べてください。ガブッと。」


少しためらって、パクリと食べるマリアお嬢様。


可愛いが溢れてます。


ごめん、王子。貴方の知らないお嬢様をまた堪能してます、私。


「……!!」

「気に入ったなら良かったです。」


私もパクリと自分の分を頬張る。

美味しい。

クレープなんて今世では初めてだから余計に。


「私は、知らないことが多いわね……。」

「そうでしょうね。」

「否定しないのね。」

「してほしかったですか?」

「侍女なら否定するところよ。」

「あいにく今はお友達なので。」


パクリとクレープを食べる。


「正直ね、貴方は…………。」


お嬢様が困ったように笑う。


「私が知ってるのは、王妃教育で培ったものだけ。所詮、紙の上の情報にすぎないわ。流行りの本や衣装を追いかけても、それ以外のことは知らない方が多いわ。」

「そりぁ、そうでしょう。全部知ってると言われた方が怖くてビックリです。それに、王都に暮らす普通のお嬢様なら知らなくて当然ですよ、国の端で起きた出来事なんて。」

「…………。」

「王家の人たちが把握してないって言うのと、一貴族のご令嬢が把握してないって言うのは、意味が違います。」

「でも私は殿下の婚約者なの。」

「そうですね。貴方が殿下の婚約者だから知らないといけないと言う事象は国内外たくさんあるでしょう。それでもまだ婚約者ですし、学園への入学もまだです。まぁ、目前まで迫ってますが。」


物語はまだ、始まっていない。


「少しずつ知っていけば良いんですよ、焦ることはありません。わからないことをわからないままにするから問題になるんです。現に今日、初めての体験をいくつもしたじゃないですか。ステラさんや護衛の居ない城下探検、私と二人でブレスレット作り、クレープ。一日で初めてをたくさん経験できただけでも凄いですよ。」

「ユリア…………。」

「初めてのことや未知のことを嫌煙するのは人として当然です。でもお嬢様は挑戦する気持ちがあります。大丈夫ですよ。民の暮らしを知り導くのが貴方たちの役目、私はそんな貴方を守るのが役目。」


近づいてくる不穏な気配にため息を一つ。

食べ終わったクレープの紙をぐしゃぐしゃと丸め、口元を指で拭い立ち上がる。


「中枢の人間にしっかりしてもらわないと、私は困るんです。」


もう二度と、領地の皆をあんな目に合わせたくない。


「その女を渡せ。」

「断ります。貴方はどこの誰ですか。」

「答えるつもりはない。」

「そうですか。」


今まででの奴と雰囲気が違う。

それでも…………。


「ユリア…っ。」

「大丈夫です、動かないでください。」


立ち上がり背中にピタッと引っ付くお嬢様。

周囲にちらほらとこちらを伺う人の気配がある。


「ココで騒ぎを起こす気はなさそうなので、通り抜けますよ。」

「!」


ユリアお嬢様の腰を抱き寄せる。

うわ、腰細っ!!


「逃げるのですか。」

「逃げますよ。貴方こそ、逃げた方が良いと思います。」

「おや。私がですか?」

「えぇ。もうすでに囲まれて追い詰められてるのは自分だと気付けないくらいに間抜けなら、どうぞそのまま居てくださいな。」


まだ物語は始まっていない。

だけど、それでも。


「このまま帰っても良いとこ、傀儡なので。」

「そ、残念だわ。」


雰囲気がガラリと代わり、殺気が飛んでくる。

この間までとは違う、そこそこ手練れの暗殺者の雰囲気。

それでも、帝国から送られてくる刺客に比べれば断然マシだ。


振り上げられる小型のナイフを避け、横腹に一発。


「ぐ……っ。」


そして、私が追撃をする前に死角から人が飛び出してきて。

お嬢様を抱えてしゃがむ。

そうすれば、いとも簡単に男の意識が奪われて。


「いやぁ。一発で鎧の隙間を狙うとは。さすが、護衛役として呼ばれたご令嬢ですね。お怪我はありませんか?」


顔を上げれば、ニコリと笑う人影。

その質問に、コクリと頷く。


「大丈夫ですか、お嬢さん。気をつけて帰ってくださいね。」

「レオ………ッ。」


名前呼びそうになったお嬢様の口を手のひらで覆う。


「はい、ありがとうございます。親切なお方。巡回に穴があるのは困るので、くれぐれもお願いしますね。」

「耳が痛いなぁ。」


なぜか、城下町を守る下級騎士団……警羅隊の服に身を包んだレオナルド様。

ヒロインとのデート中でも見たこと…………あるわ。

お忍びの時着てたわ。

あと、情報収集とか殿下のお忍び護衛とか。


「さ、次に行こうマリア。」

「え。」

「帰らないので?」

「なぜ帰るんです?」

「怖い目にあったところですよね?」

「?王都の人間はコレ程度の襲撃で出歩かなくなるんですか?」

「「……………………っ。」」


そっか。普通は、そうなのか。

そう………だよね…………。


「ごめんなさい、マリア。私が間違えてるのね。世間知らずはお互い様だわ。帰ろっか。」


マリアの手を引いて、街中を進む。


同じ年齢の友達ってソフィアとアルベルトしか居なかったからなぁ。

帰ったらステラさんに、もう少し王都のこと教えてもらおう。

私はまだ、ココに馴染めてないみたいだから。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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