ドナウ家三男と辺境伯令嬢
ステラさんの手でドレスアップされたお嬢様。
今日の主役は誰だ!?
マリア様だ!!
と、答えることができるくらいには立派な装いだ。
今日はマリア・セザンヌの誕生日パーティー。
先日のマーシャル・タールグナーの件で会場警備が強化されている。
まぁ、表向きは“正式な婚約者になったから”という理由なんだけど。
マーシャル・タールグナーも表向きは体調不良の休暇ということで取り調べを受けている。
攻略対象だけど、仕方がない。
「いつも豪華ですけど……。今年は一段と豪華ですね。」
「当然です。なんせ、お嬢様と殿下の婚約が正式に発表されたあと、初めての誕生日パーティーなんですから!」
「それもあるけれど、今年は帝国の皇太子を招いているから。王国の威厳を保つためといった意味合いのほうが強いわ。」
「あぁ、そういう。」
国際問題の中心人物だものねぇ、お嬢様って。
彼のことだから、そういうことは気にしてないと思うけど。
「皇太子と従者の方だけが来られるのですか?」
「そうみたい。マルエラン様は不参加よ。会いたかった?」
「まったく。」
「ふふふ、素直ねユリア。」
手を横に振りながら応じれば、小さく笑うお嬢様。
まぁ、笑えてるなら心配はいらないかな。
「それじゃあ、私も一度屋敷に戻りますね。なぜか今年は何が何でも着替えに戻れと言われているので。」
「あら。何かあるのかしらね。」
「それが教えてくれないんですよ。誰に聞いてもとりあえず黙って仕事終わり次第帰って来いの一点張りで。」
そんな言い方されると不安になるよね。
帝国絡みなのは間違いないんだけど。
「ねぇ、ユリア。」
「はい。」
「気をつけてね。待ってるわ。」
「はい、お嬢様。」
少しだけ不安そうな顔をするお嬢様にニコリと微笑み、視線を合わせる。
「どうしたんですか?さみしくなっちゃいました?」
「もう、さっさと帰りなさい。」
「ふふ、はーい。ステラさん、お願いしますね。」
「はい。」
最近は暗殺者も顔を出さないから、心配はないだろう。
これが、嵐の前の静けさというものなら警戒は必要だろうけど。
「…………っし。」
軽く身体を伸ばしてセザンヌ公爵家の敷地を抜ける。
すれ違う見回りの公爵家お抱えの騎士たちがチラリと見ては立ち去っていく。
「…………何かついてるのかしら。」
「多分、その手のモノを見られてるのだと思います。」
「あら、ユミエル。迎えに来てくれたの?」
「はい。ソフィアさんに、お嬢様が逃げないように連れて帰ってくれってお願いされました。」
「心配性ねぇ、ほんと。」
「ところで、その手に持っているモノはなんですか?随分と大きいように思いますが……。」
「あぁ、コレ?コレは────」
陛下からお詫びの品として贈られた国宝の壺です、と言えるわけもなく。
「内緒。帰ったら説明するわ。」
「わかりました。もしよければ僕に運ばせてください。」
「重たいわよ?」
「日頃力仕事で鍛えられてますから。」
「ふふ、じゃあお願いしようかな。」
その両手にソッと置けば少しよろけて。
でも、両手でしっかりとソレを支えた。
「…………お嬢様、コレ平然と持ってたんですか。」
「鍛えられてますから。」
「流石です、お嬢様。」
ユミエルと二人並んで歩く。
最短距離で帰るつもりだったけど、ユミエル相手だと正規のルートでしか帰れない。
まぁ、たまには良いか。
「…………僕、お嬢様に伝えなきゃいけないことがあるんです。」
「あら、何かしら。」
この仕事辞めます、とか?
いや、ユミエルから仕事辞めるとかの相談も悩み事も最近は全然ないって報告あがってたけど…。
え、辞められたらどうしよう。
「僕を選んでくれてありがとうございます。」
予想外の言葉に、目を見開く。
「お嬢様が僕を選んでくれて、嬉しかったです。それに、父の剣を折ったのがお嬢様だと聞きました。」
「不可抗力よ。折るつもりはなかったわ。」
「はい。僕のために、ありがとうございます。」
「私が不愉快だっただけよ。」
「はい。それでも、ありがとうございます。僕、これからもコースター辺境伯にお仕えしたいです。」
「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。でもソレは、受け入れられないわ。」
「え…………。」
ユミエルが泣きそうな顔をして立ち止まる。
「僕、何かしましたか?」
無理に笑おうとして失敗したような。
そんな、複雑な顔。
ユミエルの頭を撫でて、覗き込むように視線を合わせる。
「貴方が学園に行って、色々なことを知って、見て、聞いて……それでも私達コースター辺境伯の屋敷で働きたいと思った時まで、許可できない。ユミエル、貴方はドナウ侯爵家とコースター辺境伯の環境しか知らないわ。もっと広い世界を知りなさい。貴方は、知る必要がある。」
目の端に光るソレを軽く指先で拭ってやり、屋敷への道を歩き出す。
そうすれば、後ろからついてくる。
「貴方はもうすぐ学園に通う。通いながら今の仕事を続けるのも良いし、ドナウ侯爵家に帰っても良い。働きたいと言ってくれる気持ちはとても嬉しい。ま、他に比べれば低い給金だけどね。」
「……、それでも僕は……っ。」
「ユミエル。」
「!」
「貴方は、ユミエル・ドナウよ。ドナウ侯爵家の三男。それは覆らない事実。学びなさい。あらゆる人から。知りなさい。悪意あるモノから自分を守るすべを。」
「お嬢様……。」
「そして見つけなさい、悪意あるモノから他者を守るすべを。」
出迎えてくれたセバスが、門扉を開いてくれる。
「ココに居るというのなら、貴方はただ守ってもらうだけの子ではいられなくなる。覚えておいて。コースター辺境伯領において、コースター辺境伯の邸は絶対的信頼の証よ。」
「────」
「おかえりなさい、お嬢様。」
「ただいま、セバス。例のもの、ユミエルが運んでくれてるから、適当な場所にお願い。」
「かしこまりました。お嬢様、こちら旦那様からです。」
「ありがとう。じゃあね、ユミエル。今日は迎えに来てくれてありがと。」
さて、一体何が書かれてるのか……。
歩みを進めながら、封を開いた。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




