狩猟大会終了
狩猟大会が終わり、結果を発表されるようだ。
騎士団員たちも続々と集まり始めた。
「クロード様、素敵〜!!」
ヒロインの声援があるお陰で、見えなくても状況が把握できるからありがたい。
どうやら、殿下が優勝したらしい。
「コースター。」
「!」
「聞きたいことがあると言っていたな。」
聞こえていたのか。
「はい。通常、左羽軍は城下の警護に当たっていると記憶しております。今回、狩猟大会の会場警護の任が与えられたとしてもソレは去年同様に右羽軍の管轄のハズ。なぜ、今回は左羽軍だったのですか。誰の指示ですか。」
チラリとこっちに視線を向けたかと思えば、背を向けられる。
答える気はない、か。
まぁ、仕方がないな。
ロイドたちから話を聞くか。
「…………今回。」
「!」
「ココに来るようにと宰相閣下が騎士団長に指示を出したと聞いている。」
「…………。」
「お前達辺境伯は鼻が効く。一つ、忠告しておいてやる。コースター辺境伯当主とお前自身では価値が違うと心得よ。」
それだけを伝えて整列する騎士団員の元へと行くから。
「言われるまでもないわ。」
私とお父様は違う。
当主と当主代理は違う。
何より、私が当主代理なのは学園に通っている間だけだし、次期当主が成人するまでの馬緤に過ぎない。
その事実を、家族以外には知られていないし知られてはいけない。
その場を離れ、観察しながら歩いていれば殺気を感じて。
それとほぼ同時に現れた気配により、組み伏せられた殺気の主を見る。
「姫さんに近づくな。」
「…っぐ。」
「大丈夫か、姫さん。」
「えぇ。ありがと、アルベルト。」
安心したようにいつもと変わらない笑みを浮かべる。
「抵抗せず、質問に答えなさい。あなたの雇い主は誰?」
「……、殺してくれ。」
その懇願に思わず眉間にシワがよる。
どうやら、今回の暗殺者も私達に助けてほしいらしい。
「アルベルト、ギブハート団長にその人引き渡して。」
「りょーかい。姫さんは、このあとどうするんだ?」
本来なら、お嬢様の傍に真っ先に戻る必要があるのだけど……。
「少し状況を整理したいから、ロイドたちと合流するわ。アルベルトもギブハート団長に預けたらすぐに合流して。」
「わかった。ロイド坊っちゃんたちなら今頃殿下といるだろうから、生徒会の待機場所に行けば良いぞ。」
「わかったわ、ありがと。」
アルベルトに背を向けて、人混みの中を進んでいく。
この会場から出るための馬車が混み合っているのか、まだまだ人がいるものの大半が帰ったようで。
「……では、申請のなかった人物がこの会場の中に潜んでいたと?」
「あぁ、そう考えるのが妥当だろう。」
「そんな……。」
わずかに聞こえてきた会話にズイッと割り込む。
「興味深い話をしてますね。それ、詳しく聞かせてくれますか?」
「ユリア!」
「ユリア嬢、大丈夫なのか?」
「えぇ。それより、今の話詳しく教えていただけませんか?ロイドとディル様の話も聞きたいですね。」
「そうだな。……人払いを頼む。」
「御意に。」
殿下の命令に、バラけていく騎士団員。
制服の色が違う。
彼らは、玉軍か。
「姫さん、団長に預けてきたぜ。」
「ありがと、アルベルト。間に合ったわね。」
「そりゃあ良かった。」
「揃ったな。では、話を整理しよう。」
殿下に全員が頷き、大きな地図を広げる。
どうやら、この狩り場の地図らしい。
集まっているのは殿下、レオナルド様、シノア様、お嬢様。
そして、ディル様、アルベルト、ロイド、私の八名。
「まず、狩猟大会に参加していた私、レオナルド、ロイド殿、マルエラン殿、アルベルト殿だが……。私はレオナルドとともに狩りをしていた。スタート地点は会場の南側。そのまま北上し会場に戻る予定だった。その道中、返り血を浴びた三人を見かけ、ココに戻ってきた。三人を見かけたのは…………、このあたりだ。」
殿下が地図を指差す。
そこはちょうど、狩り場の中心あたりで。
「俺達は西側出発で、アルベルトとソフィアが川へ直行し魚を数匹捕獲しに行った。その後南下して大型獣を狩る予定だったが、担当の騎士団員が偽物だったため、あえて泳がし様子を見ていた。」
「俺とソフィアがロイド坊っちゃんたちと合流した時には敵に囲まれていたな。んで、ロイド坊っちゃんの指示で俺とソフィアは情報収集のために一旦離れた。」
狩猟大会参加組がそれぞれの視点で情報をくれる。
ゲームのシナリオでは、敵の襲撃なんてものは語られなかったし、偽物の騎士団についても触れてはいなかった。
もしかしたら、ヒロインにそういった話を聞かせていないだけで、起きていたのかもしれないけど。
「今回、敵の狙いがわからないわね……。」
「帝国のマルエラン殿か、コースター辺境伯か、セザンヌ公爵令嬢か……。」
「殿下とマリア様の婚約を白紙にしたい人物の仕業なのだとしたら、会場内に居た敵が弱いのよねぇ。王国と帝国の和平条約をよく思わない人物の仕業なら、私やロイド、ディル様が狙われた理由は予想がつくのだけど。」
「怪我してりゃあ、どっちかのせいにできたってことだろ?姫さん、ソレってどっちに特があるんだ?」
「どっちにもメリットがあるわよ。ただ、場所がこの狩猟大会の会場だって考えると、不利なのは帝国側ね。」
そう応じるとロイドとアルベルトが納得したように頷く。
ディル様、先程から難しい顔で考え込まれてるわね……。
思い当たることでもあるのかしら。
「帝国?王国側ではなくて、ですか?」
「王国側で起きた問題だと、不利になるのは我々だと思うのだが……。」
「殿下とレオナルド様はこう言われてますが……シノア様とマリア様も同じ考えですか?」
「えぇ。普通に考えて王国の領土で起きた問題は、王国側の失態として受け止められるかと。」
「そうね……。マルエラン様が学園にいらっしゃるのも帝国が王国に敵意がないと示すための……あ。」
お嬢様が目を見開いてこちらを見るから、笑って頷く。
「まさか……。油断させて王国を狙う作戦だったと…………?」
「そう捉えられる可能性が充分にあるということです。ね、ディル様。」
「えぇ、そうですね。お恥ずかしながら帝国も一枚岩ではありませんから。ですが、今回に限って言えば我々帝国側は一切関与していないでしょう。」
「そうね。」
「あぁ。」
「だろーな。」
「ま、待ってくれ!なぜ、そう言い切れるっ?」
なぜって……ねぇ?
「捨て駒でも弱すぎる。」
「帝国の剣術じゃない。」
「頭悪そうな作戦だもんなぁ。」
「ハハッ、流石ですね。長年我々と剣を交えてるだけある。」
「何より、マルエラン・ディ・シエルが狙われた。俺と一緒に居たからだとしても、帝国の人間が仕組んだことなら、今頃屋敷にいる皇太子殿下が奇襲されたって報告くらい上がってくるだろ。」
「ロイド殿の言うとおりです。我が主も敵が多いので、暗殺者が後を絶たないのですよ。ですから、今回の襲撃が帝国側の策略なら…………。」
「既に王国側の耳にも入っている、か。」
「はい。もし、帝国の人間が関わっているとしても今回のコレを企てた王国の人間を手助けしていると考えるのが妥当でしょう。帝国の誰かがたてた作戦なのだとすれば、お粗末すぎますから。」
ニコリとほほ笑むディル様に、殿下が険しい表情をした。
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