左羽軍と辺境伯令嬢
お茶会会場の騒ぎを聞きつつ、お嬢様を生徒会の待機場所へと案内する。
ちょうどシノア様も戻ってきたしとバトンタッチ。
「シノア様、お茶会の席で今回の騎士団員の方々が……。」
「えぇ。その件で先生に呼ばれていたので、把握して居ます。それにしても……よりにもよって頼るところがユリア嬢とは。」
「安全だと思ったの。」
「まぁ、今回に関しては正しい判断だと言わざるを得ないですが。それで、ユリア嬢は騒ぎの中心に戻られるのですか?」
「まさか。自分の待機場所に戻ります。巻き込まれるのは御免被ります。」
一礼して背を向ける。
対騎士団員なのだから、ギブハート団長が負けることはないだろうし。
何より、いくらソフィアが戻ってきているとはいえ、危険なことに変わりはない。
「あ、戻ってきた!お嬢様!」
「ユリア!」
「…………これは、穏やかではないわね。」
待機場所に居た領民たちに向けられた剣先。
「一般人相手、ましてや学園の行事である狩猟大会に顔を出している国民相手に剣先を向けるのは、どうかと思います。一体どういうつもりですか?」
「貴様がユリア・コースターだな?帝国からの客人とコースター家の者が行方不明になっている件について話を聞かせてもらおう。」
「…………行方不明だとなぜわかるのですか?」
「そう報告が上がってきたからだ。」
「おかしいですね。それなら参加者四名が行方不明でなければなりませんよ。」
「何……?」
「今年も去年と同様、参加者一人につき騎士団員が一人ついてるハズです。二人の行方不明者が出たのなら二人についていた騎士団員も行方不明でなければなりません。」
「…………っ。」
「もう一度問います。一体どういうつもりですか?」
剣先が僅かに揺れる。
その様子にため息を一つ。
「コースター辺境伯の人間を拘束すると言うのなら、私一人だけで充分でしょう。彼らは運悪くコースター辺境伯の領地に生まれ育った者達。何があろうと、罪を問われるいわれはありません。その剣、下げていただけませんか。」
「…………。」
「重ねてお願いします。その剣、下げていただきたい。幼い子供たちが、見てる。」
「…………っ。」
「おじょーさま……っ。」
子供たちの泣きそうな声音に振り返り、ニコリと笑う。
「心配しなくても大丈夫よ。」
「でも……。」
「皆には、指一本触れさせないから。」
剣を握る騎士団員に視線を向ければ、手から力が抜けて。
剣が鞘に納められる。
「…………ご同行、願います。」
「わかりました。ソフィア、皆を無事に領地まで届けるのよ。どうせアンタ表彰無いでしょ。」
「えぇ、どーせないわよ。でも、良いの?それで。」
「えぇ、構わないわ。ココからは、私の仕事よ。」
「…………はい、お嬢様。さ、皆行くよ。忘れ物ないようにね。」
ソフィアの誘導する声を聞きつつ、騎士団員に同行する。
生徒たちの視線を感じるけど、それこそ今更ね。
好奇の視線にさらされながらついて行けば、今回のために作られた簡易駐屯所について。
「コースター辺境伯を連れて参りました。」
「ご苦労。」
険しい瞳にニコリとほほ笑む。
「ごきげんよう。学園の行事に将軍自ら赴いていらっしゃるとは思いもしませんでした。」
「…………聞きたいことがある。」
「…………。」
私を連行してきた騎士団員が、逃げ道を塞ぐように立つ。
そんなことしなくても、逃げないのに。
「…………我が騎士団員二名が死体で見つかった。」
「!」
「その二人はロイド・コースター、マルエラン・ディ・シエルについていた部下だ。」
「…………なるほど。」
考えられる可能性は二つ。
本当に二人が殺したか。
黒幕の思惑にハマったか。
「その死体、見ることはできますか。」
「何……?」
「…………。」
「お前のような令嬢が死人を見てどうするというのだ。」
「本当にあの二人があなたの部下を殺したのか確かめるのですよ。あぁ、死体見ても悲鳴はあげないのでご安心を。数え切れないほど見てきましたから。それこそ、貴方がた王国の騎士団員よりも多く、ね?」
「…………。」
「貴様、正気か?」
「もちろん。ドナウ侯爵、あなたのことだからまだココにあるのでしょう?それとも、狩り場に置き去りですか?」
重ねて聞けば、重苦しい息を吐き出して。
「ついて来い。」
先導するドナウ侯爵についていけば、大きな布で覆い隠されたモノ。
その傍で憂う騎士団員が数名。
その間をなんのためらいもなく抜けると、布をまくりあげられる。
「この二人だ。」
「…………。」
両手を合わせ、数秒の黙祷。
膝をつき、死人を観察する。
「裂傷がひどいですけど、この二人の死因は毒ですね。わずかに毒薬の香りがします。」
「!」
「ロイドとディル様がつけた剣の傷は見当たりませんね。というか、人為的な傷が見当たりません。これは動物の鋭い爪の痕です。剣で斬られてこの傷はつきません。それから、この二人の足の傷。矢のようなものでついた傷ですね。先程、一年生の女子生徒が同じように足を怪我していたので、仕掛けた人物は同一人物でしょう。」
「…………。」
「爪の大きさ的に大型の獣でしょう。足跡がないのでどの動物かまでは特定できませんが、この狩り場にいる動物は学園に聞けばわかるかもしれませんね。」
口封じのために殺されたか、あるいは…………この状況を作り出すための捨て駒にされたか。
王妃のところで曼珠沙華の紋章が彫られた武器を見てから、どうも相手が本格的に動き出しているような気がしてならない。
「大方、コースター辺境伯だからと領民たちに剣を向けたのでしょうが……名誉毀損で訴えても良いくらいの失態ですよ、ドナウ将軍。」
「…………。」
「まぁ、今回は大切な領民に怪我がなかったので良しとしますが……。次はありませんよ。」
「貴様……!!」
「言わせておけば……!!」
騎士二人が腰の剣に手をかける。
それにため息を一つ。
「全く……。コースター辺境伯を野蛮と言う貴方がた王都の貴族には頭痛がします。どっちが野蛮なんだか。」
視線を向ければ、ビクッと肩が跳ねる。
「剣は脅しの道具ではありません。どうか、抜かないでいただきたい。」
カタカタと震えているのか、鞘が音をたてている。
それでも、騎士団員としての意地か。
ゆっくりと剣を抜く動作をするから。
「ドナウ侯爵、聞きたいことが────」
「報告します!!マルエラン・ディ・シエル及びロイド・コースター!クロード殿下とともに帰還しました!!」
狩猟大会終了の狼煙が上がった。
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