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コースター辺境伯一致団結

どうやら三人は順調に狩りを成功させているらしい。


「お嬢様、コレ。」

「ん?あ、魚!良いの?こっちに回してもらって。」

「良いって。俺達解体に集中するからお嬢様は魚捌いて子供たちに食べさせてやって。」

「わかった。ありがと。」


狩猟大会だからね、魚はカウントされないらしい。

ココに届けにきてくれた騎士団の人たちは不思議そうな顔をして立ち去って行く。


「っし。」


どうやら私の家族たちはとても気が利くらしい。

鱗を全部とってくれている。

ありがたい。

ココまでしてくれてるのはアルベルトかな。

さすが、食堂の息子。


「おじょーさま、そのお魚食べられる!?」

「えぇ。」

「やったー!」

「パパ、おしょうゆちょうだい!」


元気な声を聞きながら三枚におろす。

今世、アルベルトという料理男子のお陰で魚もさばけるようになりました。


「はい、どーぞ。」

「「いただきまーす!!」」


子供たちの元気な声に笑いつつ、魚の処理を済ませていく。

隣では運び込まれて来る食材……じゃなくて獲物を解体して行ってくれている。

血抜きに時間はかかってしまうけど。


「ンフフ。」

「おいし……っ。」


子供たちが楽しんでくれているみたいだし、良かった。


「ユリア。」

「あ、マリア様!ステラさんも。どうかされましたか?怪しい人でも?」


生徒会の面々は固まって座ることになっていると聞いていたから、ちょっと安心してたんだけどなぁ。

今年は殿下とレオナルド様は参加されると聞いたけどシノア様は不参加だって言ってたし。

てっきり一緒に待機されているかと思ってたんだけど……。


「シノア様が先生に連れて行かれてしまったから。ココで待たせてもらっても良い?」

「もちろんですよ。ただ、ココは汚れてしまうので、あっちのテントの下のほうが良いかと。」

「大丈夫よ。それより、コレは何を食べているの?」

「あぁ、魚です。」

「え、魚?ココ、魚もとれるの?」

「そうみたいですね。まぁ、子どもたちが食べる分だけなのであまり量はないですが。」

「そうなの……。」

「ユリアさん。コレ、魚に火が通ってないようですが。」

「えぇ、生魚です。新鮮な状態のものなので、そのままでも問題ありません。」


この世界に刺し身というものは存在しない。

かといって私が広めたわけでもない。

ただ、王位争いの時に火すらも手に入れられない状態になり、生食になっただけだ。


「とは言え、食べ過ぎるとお腹を壊すので軽く炙ってるんですけどね。」


そばにある焚き火に捌いた魚を木の棒に突き刺して火にくぐらせ、お皿に載せる。

そうすれば、子どもたちが笑って手を伸ばして食べる。


「…………。」

「気になるならお一ついかがですか?」

「え。」

「毒は仕込んでませんし。ステラさんもどうぞ。」

「私は────」

「あのね、あのね!おしょうゆつけたらおいしいよ!」

「いっぱい焼いても美味しいんだぜ!?」


子どもたちに進められ、断れなくなったのか覚悟を決めたのか……。

お嬢様が意を決した表情でパクリと一口。


「!!!!」


目を見開いてこっちを見るから、ニコリとほほ笑む。


「……、美味しいわ。」

「それは良かったです。」

「ねー、おじょーさま。コレ食べたらあっちで遊んでても良い?」

「えぇ、もちろん。でも、森の中は皆武器持って歩いてるから、入っちゃダメよ?」

「うん!」

「ねーねー、おじょーさまもいっしょにあそぼー?」

「コレ片付けたらね。」

「やったー!」


子供たちの声が聞こえていたらしく、大人たちが微笑ましそうにこちらを見ている。


「おいおい。お嬢様、あんまり甘やかさなくて良いですよ。子供たち寝かしつけて仕事に行ってくれても構わないくらいです。」

「そうそう。領主様のお言葉に甘えて俺達もガキ連れてきちまった責任はとるから。」

「あら。私が皆に会いたいからってお父様にわがままを言ったのよ?だから、そんなことは気にしなくて良いわ。皆が無事に領地に帰れることだけが守ってほしい約束だもの。」

「お嬢様……。」

「私のわがままを叶えてくれてありがとう。じゃあ、私は向こうで子供たち見てるから。解体作業は任せるわ。困ったらすぐ呼んで頂戴。ココは王都。領地とは勝手が違うから。」

「はい。」

「ハハッ、お嬢様はホント、領主様たちに似てらぁ!」

「おじょーさまぁ!」

「今行く!」


すぐ傍の広いスペースで子供たちが元気に走り回る。

その輪の中に入れば、子供たちが手を取り合って踊り始めるから。


「おじょーさま、おんがくして!」

「ごめんなさい、今日は楽器持ってきてないの。」


お嬢様に確認したらダメだって言われちゃったし。

まぁ、学園の行事で外部の人間を入れるのもそれなりの手続きが必要だし仕方がないとは思う。

ちなみにお嬢様に関して言うなら公爵家のご令嬢及び殿下の婚約者という立場なのが大いなる理由でステラさんの同行を許可されている。


ようするに、権力。


「今度領地に帰ったらね。」

「えー!」

「じゃあじゃあ、剣ポンポンするの見せて!」


こうやってするの!と、ジェスチャーされて納得。


どうやら剣でのジャグリングが見たいよう。


「良いわよ。」


今回の解体用に持ってきていた刃物を三本手に持って。


子供たちから数歩離れる。

そうすれば、領地にいるときのように地面に座るから。


「危ないからそこから見ててね。」

「「「はーい!」」」


一本ずつ頭上に投げていけば。


「「「わー!」」」


興奮した子供たちが手を叩いて称賛してくれる。

良かった。

私コレ、よく失敗するのよね。

何回練習したことか。


「ユリア、貴方そんなこともできたの……?」

「えぇ。うちの領地は娯楽という娯楽がありませんから。」


高さを変えたり片足を上げたりと子供たちが少しでも楽しめるようにと、あらゆる大道芸を仕込まれた。

もちろん、仕込んでくれたのは両親だ。


「それって────」

「お嬢様!このお皿使ってくれ!」

「っと。ありがと!」


ジャグリングしていた剣を受け止め、投げられたお皿を剣先に乗せてそのままクルクルと回す。


お嬢様とステラさんが目を見開く。


「王都の流行りは辺境地にまで届きません。たとえ届いたとしても、届くのにかなりの日数を要します。何より、王都で当たり前にあるものは、私達の領地にありません。」


チェスをするにもカードゲームをするにも、買うためのお金がない。

何より、行商が来ない。


だからこそ、お父様が王都に出た時に買ってきてくれたし、遊び方を学び舎でレクチャーした。

壊れたりしたものは私達の手で修復したし、手作りして数を増やした。


私達の領地で全員がいつでも好きに遊べる娯楽というのは、とても少ない。


「皆がいつでもできること。それが、私達の領地でできる遊びです。」

「それが、大道芸?」

「はい。もちろん、コレだけではありませんが。」


前世知識をフル活用した手品も領地の中で流行らせた。

手品の種明かしができるくらいには皆真剣に練習して遊んでくれた。


遊びの中で帝国の脅威から逃げるために必要なものを身につける。

知力、気力、体力……いろいろな力を身に着けて領地の皆は生きている。

学び舎で教えていることなんて、貴族教養の一端に過ぎない。


「パパ、のどかわいた!」

「おぉ、きれいな水がココにあるから。ちょっと待ってろ。」

「あたしもー!」

「のむー!」


子供たちが、解体作業をしている大人たちに近づいていく。


「お嬢様、仕事中すまねぇ。」

「どうしたの?」

「今、この狩猟大会の主催者からだっつって、こんなもん渡されたんだが……。」

「そう。誰か使った?」

「いや。アイツらにも聞いたが、受け取ったのは俺だけらしい。俺達も外であまり飲み食いしねーから、どうしたら良いかと思って。」

「ありがとう。ね、マリア様。何か聞いてますか?」

「いいえ。先生方や来賓からもそのような話は聞いてないわ。」

「なるほど。」


手渡される水差しを受取り、手のひらに少し垂らす。


香りはない。

手のひらの水を口に含めば軽い舌先のしびれ。


「……うん。偽物で間違いない。皆、この会場に来る前にロイドから()()もらった?」

「あぁ。それなら全員食べた。」


あぁ、良かった。

あのソフィアが作った中和剤入りの料理を全員食べたなら、多少の毒なら心配いらないな。


「コレを渡してきたのはどんな人だった?」

「この会場の警備任されてるっつう騎士団員のヤツだったぜ。」


だとすれば、内部の人間。

もっと言うのなら黒幕の手に落ちた者。

どうやら楽しい時間はもう終わりらしい。


「……、食用の解体はココまでよ。帰り支度を。」

「わかった。」


他の大人たちも私達の雰囲気に何かを感じ取ったらしく、子供に水を渡すのをためらっている。


だからソレにいつもどおり笑いかける。


「喉乾いたのよね。私が美味しい水持ってるから、こっちあげるわ。」

「おいしいおみず!?」

「ちょーだい!」

「りょーちでものめる!?」

「ごめんね、コレ王都の水なの。だから、領地で飲めるように頑張るね。」

「うん!」


大人たちが安心したように息を吐き出す。

そして私からの指示が周知されたらしく、テキパキと片付け始める。


「ユリア。」

「心配いりませんよ。このくらいの出来事なら領地では日常茶飯事です。この水差しも毒入りですから、皆が飲まなくて良かった。あ、触れちゃダメですよ。危ないですから。」

「ど…!?だ、大丈夫なの……!?」

「えぇ、このくらいなら平気です。それより、お嬢様は私から離れないでください。本日の生徒会の仕事はあと何が残ってますか。」

「狩猟大会の集計と閉会式、それから片付けよ。」


まだ時間はあるか……。


「生徒会の業務ついでに狩猟大会で発生した問題として、マリア様の信頼できる人物と一緒に水差し(コレ)調べてもらっても良いですか。」

「私の……?」

「コースター辺境伯が出張るよりもずっと良いです。あぁ、あくまで怪しい動きをする人物から水差しを受け取って持ち帰ったということにしてくださいね。」

「でもそれじゃあ……!!」

「マリア様。」

「…………っ。」


悔しそうな顔をするから、小さく笑う。

本当、優しいお嬢様。


「お願いしますね。ステラさんも、他言無用でお願いいたします。」

「もちろんです。貴方が居なくなるのは困りますから。」


マリア・セザンヌは悪役令嬢で王太子クロード・カルメの婚約者。

私はただのモブキャラに過ぎない。

発言権があるのは、私じゃない。


「あら?どうしたの、もう片付けちゃって。私もこっち手伝おうと思ってたのに。」

「おかえり、ソフィア。どうしたの?何かあった?」

「ノルマ達成したから戻ってきただけ。それで?何があったの。」


険しい表情をするソフィアに、ニコリと笑った。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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