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狩猟大会

生徒会の仕事で先に会場入りを果たすお嬢様。


「お嬢様、生徒会の最後調整は終わったって言ってませんでしたか。」

「もしものためよ。クロード様が会長になって初めての大きな行事なのよ。失敗は許されないわ。」

「だからって、何も一人で会場入りしなくても……。ね、ステラさん。」

「それでこそお嬢様です。文句があるならユリアさんはあちらでのんびりされていては?」

「ステラさん、ひどい!もしかして、昨日ガーディナ様とのやり取りを根に持って────」


振り上げられた拳が脳天に振り下ろされる。


「痛いですよ〜、ステラさん。」


涙目になりながら訴えればジトリと視線を向けられ。


「ソレは関係ありません。」

「ステラ、ガーディナ様と何かあったの?」

「何もありませんよ、お嬢様。寝ぼけたユリアさんの戯言です。さぁ、お仕事に集中しましょう。暗殺者が居たとしても良い的が居ますからね。身体をはってくださいますよ。」

「ワー、ヒドーイ。」


遠慮のない物言いのステラさんにお嬢様が小さく笑って。


「本当、仲良くなったわね。」

「なってません。」

「だ、そうですよ。」


肩をすくめていると慣れた気配が近づいてくるのを感じて。


「ユリア?」


不思議そうなお嬢様が私の視線を追いかけ、目を大きく見開く。


「やっぱり居た。遅くなったね、マリア。」

「く、クロード様……!ど、どうして……!?」


うろたえるお嬢様に殿下が優しくほほ笑む。


可愛いなぁって思ってるのがわかるくらい、表情が緩い。

あと、狩猟大会用の衣装が二度目とは言え、眩しいです。

ゴチです。


「責任感の強いマリアのことだから、きっと早く会場に行って確認をしてくれてるんだろうと思ってね。ありがと、マリア。」

「そ……、わ、私は別に特別なことは何も……っ。」

「あぁ、そうだね。まだ見終わってないところはあるかい?手分けして回ろう。」

「い、いけませんわ!護衛も連れていないのにクロード様を一人行動させるなんて……!」


お嬢様がそんなのはダメですと強く訴える。

チラリとステラさんを見れば、軽く頷かれる。


「お二人で回られてはどうですか?」

「ユリア!」

「殿下とお嬢様が一緒に居れば安全ですし、何よりまだまだ時間はありますからね。最終確認も急ぐ必要はないかと。」


ニコリと微笑めば、殿下が力強く頷いて。


「ユリア嬢の言う通りだ。大会が始まったら一緒に居られる時間はあまりないからね。一緒に回ってくれるかい?」


殿下が手を差し出せば、お嬢様が耳まで真っ赤にして。


「そ、そこまで言われるのであれば効率は悪いですけど、一緒に周りましょう。」

「ありがとう。」


ツンッとした顔をするけれど、その赤くなった頬は隠せてなくて。

なんならそんなお嬢様を見て笑みを深める殿下が大人しくしてるわけもなく。


「ユリアさん、少し離れましょう。」

「えぇ、そうですね。離れてましょう。」


殿下に目配せされ、そそくさと離れれば。


「可愛い、マリア。」

「く、ろーどさ……っ。」


スッと視線を逸らす。

ごめん、お嬢様。

攻略キャラのご尊顔を間近で拝んで正気を保てと言うのも難しいかもしれないけど、頑張ってください。

モブキャラの私よりも悪役令嬢で婚約者のお嬢様なら大丈夫でしょうから。


「ユリアさんはお屋敷の方に戻らなくて良いのですか?」

「はい、問題ありません。もともと私、あんまり邸に戻ってないですし。」


というか前日に一応公爵邸抜け出して帰ってます。

皆の衣装合わせを見てました。


「そういうステラさんこそ、よろしいのですか?ウイスキー伯爵が心配されるのでは?」

「問題ありません。お嬢様のお傍を離れたくありませんから。」


ステラさんらしい。


お嬢様と殿下の仲睦まじいやり取りを眺めていると、生徒会の面々が集まりだして。

シノア様とレオナルド様は顔を見合わせて肩をすくませ、私を見て目を見開いた。


「…………ユリア嬢?」

「おはようございます。レオナルド様も殿下同様に参加されるようですね、頑張ってください。」


スチルイベント云々も大切だけどこの光景を眺められること事態がご褒美です。

ありがとうございます。


「ありがとうございます。いえ、あの、その格好は……。」

「え?何か変な格好してますか!?」


マダムシャーリーが仕立ててくれた衣装だから、変なわけないハズ。

むしろ今日の狩猟大会で着用するようにというお父様からの手紙もついていたから、コレを着る以外の選択肢がなかったのだが。


「いえ、とてもお似合いです。そうではなく……っ。」

「狩猟大会参加者かと思うほどに刃物を背負われておりますが、ソレはなんですか。」


あぁ、そういうことか。


「今年は領地の皆と一緒に後方支援に勤しむので。」

「……それはつまり、ユリア嬢も解体作業に参加されると?」

「はい!」

「……………………そうですか。」


シノア様とレオナルド様がなんとも言えない顔をする。


「貴方は、とことん辺境伯令嬢ですね……。」


呆れ混じりのその言葉にニコリと笑い、空を見上げる。

良い天気で、ほどよい気温。

絶好の狩り日和。


何より今回も水場が近い待機場所。

三人には血抜きに苦労しない獲物を狩るように指示を出している。

まぁ、ロイドが作戦を授けてるみたいだからもっとたくさん狩れる作戦をたててくれてるだろう。


お父様も帝国が手を出してこないと周知の事実になった今だからこそと人手を多く借り出してくれることになっている。


「レオナルド、シノア。私達は向こう側を見て回るから、備品と参加者の最終確認を。」

「はい、会長。」

「はい。」


あと少しだけの範囲を手分けして最終確認されるらしい。

昨日も散々確認してたように聞いたのに……これが、念には念を、とヤツだろう。


「皆さん、遅れてごめんなさ……あ!私、何か忘れてましたか…!?」


お、ヒロインのご登場か。


「お気になさらず。参加者が揃う前に確認をしているだけですので。」

「わ、私も何かお手伝いを……!!」

「あぁ、それでしたら────」


シノア様が何か指示を出しているのを聞きつつ、お嬢様と殿下を見守る。


怪しい気配は今のところないし、ステラさんが適切な距離を保ちつつ、二人についてるから心配もいらないだろう。


「…………それで、どうして生徒会役員でもない人がこんな時間にいらっしゃるんですか?狩猟大会まではまだまだ時間があるかと思うのですが。」

「すみません、張り切って会場入りしてしまったんです。マリア様と殿下の許可はもらっていますし、生徒会の皆様の邪魔をしないようにステラさん(見張り)もいる。心配いりませんよ。」

「ふ〜ん?なんでも良いですけど、クロード殿下の邪魔だけはしないでくださいね!」

「えぇ、もちろんです。」

「ふんっ!全く、コレだからモブキャラは……。」


なんて、ブツブツ言いながら離れて行くヒロイン。

わかるよ、わかる。

攻略がうまくいかない上に、原作と違うことをされて困ってるんだよね。

だって、どのキャラを攻略している時でもヒロインが狩猟大会の開幕時間前に会場入りするなんて場面、どこにもなかった。


「あの方は?」

「一年生の生徒会役員なので、お嬢様の後輩ですね。」

「あの方が……。そうですか。」

「ステラさん?」

「いえ。お嬢様に日々迷惑をかけ、お嬢様の心象どころか周囲の方々の反面教師になっているかつ我らがお嬢様の足元にも及ばない下級貴族のご令嬢の顔をやっとこの目で確認できましたので、記憶に刻んでいるだけでございます。」


めちゃくちゃ怒ってるじゃないですかぁ。

一体何を愚痴ったらステラさんのヒロインへの好感度がマイナス突破することになるんですか。


「ユリアさん。」

「はい。」

「大勢の人混みの中で確実に仕留める簡単な方法はありますか?」

「落ち着いてください、ステラさん。一朝一夕でできることでもなければ、おすすめもしません。」

「…………。」

「お嬢様が悲しみますよ?」

「……、そうですね。まさかユリアさんに止められるとは。私もまだまだです。」

「えぇ、本当に。」

「…………。」

「私にまだ勝てないのですから、先走った行動はお控えください。」

「…………………………………………承知しました。」


ものすごく不服そうだなぁ。


一通りの確認を終えたのか、生徒会の面々が先生たちと合流し設置されている運営テントの中へと消えていく。


参加者が続々と入ってくる。


もうそんな時間か。


「あ、居た!!」

「本当だ!!」

「おじょーさまぁ!!」


元気な声に振り返れば、ソフィアとアルベルトに手を繋がれてる領地の子供たちがいて。


「みんな!!」


走り寄ってくる皆を抱きしめる。


「よくきたわね!大変だったでしょう?しんどくなかった?」

「うん!」

「あのね、あのね!きょうはね、おさかなたべられるって領主様が言ってた!」

「え、魚?」


魚が獲れるような場所あったかなぁ。


「どうやらこのエリアの奥地に行けば小さな川が流れてるみたいよ。」

「へぇ……。そうなんだ。」


と、なると…………。


「皆で何人来たの?」

「十人!」

「お父様、随分頑張ってくれたわね……。」


いくら帝国の進行が無いと皆の知るところになったとは言えど、領民を大量に投入してくることはないと思ってたのに。


「領主様が、どうせならその場で捌いて食えるものは全部食って余りものを持って帰ってこいって指示出したみたいだぜ?ロイド坊っちゃんが言ってた。」

「そうなのね。そういえば、ロイドは?」

「大人たち連れて、待機場所に行った。」

「じゃあ、私達もそっちに行きましょうか。」


皆がはぐれないように手をつなぎ、待機場所へと向えば。

既に皆捌いて食べる気満々らしく、調味料どころか火起こしまで済んでいて。


「皆、今日はお願いね。」

「はい、お嬢様!」

「もちろんだぜ!!」

「ちなみに、今年は何の勝負で選ばれたの?」

「全員でじゃんけん大会して、勝ち残り戦です。」

「子どもたちも今年は行くんだって聞かなくて……。」

「ぼくたちも、おじょーさまたちといっしょがいい!!」

「ロイドぼっちゃま、だっこ!」

「あ、ずるいぞ!」

「こらこら、喧嘩すんな。順番にしてやるから。」


去年同様に元気な皆の姿に安心する。


「ロイド、そろそろ集合時間でしょ。ソフィアとアルベルト連れて行っておいで。」

「あぁ、そんな時間か。わかった。悪いな。あとは姉さんに任せる。姉さん、リクエストは。」

「魚と鳥。これだけ人数居るんだもの。じゃんじゃん狩ってきなさいよ。」

「ん。」


子供たちの元気な声に見送られながら、三人が参加者の群れへと姿を消した。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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