辺境伯令嬢と王妃
王城へと向かう馬車の中。
殿下とマリア様とイチャイチャっぷりを目の当たりにしながら進む……ことにならず。
「シノア様とレオナルド様も城へ向かわれるのですね。乗せていただいて、ありがとうございます。」
「貴方のことだから、お二人の馬車に乗るつもりだったのでしょう。そんなことしたら殿下に怒られますよ。」
「大丈夫です、殿下は優しいので。」
もちろん、お二人の邪魔をした後はステラさんと共謀し公爵様の目をごまかして二人の時間を作っているので問題ない。
殿下とお嬢様の時間を邪魔したので、二人の時間を作りたいんですと相談すれば、頼もしい作戦を考えてくれる。
そのあと、ステラさんに邪魔しないようにと注意されるんだけどね。
「ユリア嬢は何か用事?」
「はい。ラチェット様におつかいを頼まれました。」
「え。じゃあ最近噂になってる商会の交渉係って……ユリア嬢?」
「あぁ……。口車に乗せられたが最後、すべて巻き上げられると噂の交渉係ですか。」
「待ってください。その噂話初めて聞きます。」
というか、ソレ絶対に良い噂じゃないよね?
「おや、ご存知なかったのですか?てっきり既に耳に入ってることかと。忘れてください。」
「無理です。というか、私は今日、会長も統括も急遽謁見できなくなったと言われてココに居るんです。」
だからその噂は私ではありませんと伝えれば。
シノア様の顔が、怖いわ……。
「納得いきました。」
「信じていただけましたか。」
「えぇ。」
クイッと眼鏡を押し上げ、窓の外へと視線を向ける。
「あの二人にかかれば、搾り取られるのは必然です。」
「シノアの知ってる人物なのか?」
「そんなところだ。」
レオナルド様はそうかとだけ言って、話を終わらせる。
この二人、仲良いのか悪いのか……。
まぁ、気心がしれているからこその対応と言われればそれまでなんだけど。
「見えてきましたよ。」
ゆっくりと停車する馬車。
レオナルド様が先に降りて、手を差し出してくれるから。
レオナルド様の手を借りて馬車から降りる。
こういうことサラッとしてくれるの、攻略キャラだわ……。
「ユリア様。お待ちしておりました。」
「マルクル様。お出迎えありがとうございます。それでは、レオナルド様、シノア様。ありがとうございました。」
二人に礼を告げ、マルクル様の後をついて行く。
「謁見の間にて、陛下がお待ちです。」
「…………謁見の間とは、反対の気がするのですが。」
「えぇ。是非とも貴方に会いたいと言われまして。陛下も許可を出されましたので、先にお会いしていただければと。」
「それって……。」
人の気配に口をつぐみ視線を向ける。
花の香りとともに現れた人物に目を細める。
「ありがとう、マルクル。手間を掛けたわね。」
マルクル様が腰を折り、丁寧な仕草で数歩退がる。
「さぁ、こちらへ。陛下には、お茶一杯分の時間を頂いておりますので、ご安心なさい。」
「…………。」
促されるがまま優雅なお茶会の席につく。
公爵令嬢なんて霞んで見えるほどの、豪華なお茶会。
たった一人のために用意されたお茶請けの菓子も、茶葉も、茶器も、花々も。
「さすが国母。取り揃えられているものが違いますね。」
私の言葉にニコリと微笑み、手ずから紅茶を注ぐとカップを差し出してくれる。
薔薇の香りがふわりと漂う。
「ありがとうございます、王妃様。」
「こちらこそ。貴方たちコースター辺境伯にはいくら礼を尽くしても足りないくらいお世話になってるわ。私がこうして生きているのも、貴方たちが私を救ってくれたから。」
優雅な仕草でお辞儀をする王妃。
「力を貸してくれたすべての国民に感謝を。そして、コースター辺境伯領の方々のご厚意に謝罪を。」
横目でチラリと見、視線をそらす。
「頭をお上げください。」
「…………。」
「侍女が見たら、怒りそうなことをなさいますね。」
「えぇ。だから、マルクルを借りたのよ。」
「なるほど。」
通りで、私達三人以外立ち入らないように影が潜伏してるわけだ。
「話はそれだけですか。」
そう尋ねれば、苦笑して。
「私とお茶をするのは嫌?」
「今以上に王家と辺境伯家の癒着を疑われるような行動はお互いにさけるべきかと。」
「貴方は本当に、コースター辺境伯ですね。」
微笑みながらそう言ってカップを傾ける王妃。
「感謝の気持ちと謝罪の気持ち。両方を吐き出すために貴方を呼んだと言えば嘘になりますね。それに、貴方がたは私達王家の謝罪をもう、求めてない。」
「…………。」
私達はもう、許すとか許さないとか。
もうそんな小さな問題は通り過ぎた。
謝られたって、失った生命も、木々も、何一つもとには戻らないのだから。
「茶葉について、私なりに調べてみました。」
「!!」
「城内で栽培していた茶葉については、医務官たちと話をし、品種改良と正しい使用法を洗い出し、無害なものに変えました。」
王妃の視線が軽く伏せられる。
数秒待っていると、決意した瞳が私をまっすぐと射抜いた。
「あの茶葉は、公国から信頼の証にと贈られてきたものです。そして、その茶葉を城内で植えて育てるように推進してきたのは、宰相でした。」
「────」
まさか、ヒロインと一緒に居た翁って……。
「絶対的な確証があるわけではありませんが、調べる価値はあるでしょう。詳細は、ラチェットに渡してあります。」
「…ラチェット様を信用なさってるのですね。」
「自ら王位継承権を放棄しなければ、王位についていたでしょう。クロードが今のように過ごせることもなかった。私はそう思っています。何より、コースター辺境伯の令嬢がラチェットの商会に入ったのです。それだけで、隠れ蓑にするには充分でしょう。」
「…………その言い方だと、私達がラチェット様を利用しているみたいに聞こえますね。」
「利用してないと言い切れますか?少なくとも、ユリアさん。貴方に利用しようとする意図がなくても、貴方の父上は、あるかと思いますよ。彼は、利用できるものはすべて利用し、目的を果たす。学生の頃、それでよく陛下が遊ばれていたのでよく覚えています。」
お父様って本当に陛下と仲良しだったのね……。
「……王家の都合に貴方がたを巻き込んだ責任はとりましょう。だからどうか、クロードの……、息子の大切な者だけは、守って。」
切実な訴えに、目を閉じる。
個人的な感情を抜きにして、コースター辺境伯としての最適解を。
「気が向けば、気に留めておきましょう。」
「えぇ、それで充分です。ありがとう、ユリアさん。」
あぁ、本当に。
「コレ、貴方のお母様も好きだった焼き菓子よ。お一ついかが?」
差し出される焼き菓子と、近づいてくる気配。
マルクル様とはまた違ったソレに息を吐き出す。
「ありがとうございます、いただきます。」
迷いなく差し出された焼き菓子を手に取り、口に含む。
そんな私に嬉しそうな反応をする。
「良かった。食べないわけじゃないのね。じゃあ、この茶葉が苦手?」
「いいえ。長居するつもりはなかっただけです。でも、先程長居する理由ができたので。」
「え?」
不思議そうな顔をする王妃様には答えずに、ローズティーをいただく。
「侍女は退がらせていると言われていましたね。護衛は何人か残して居ますか?」
「私に護衛はいませんよ。」
「なるほど。それでか。」
チラリと視線だけをマルクル様の方へと向ける。
「今日ココで私と会うことを陛下以外に話されましたか?」
「いいえ。陛下の大切な客人と話をするから人払いをとは指示を出しましたが。」
「では、お茶のお礼に一つ良いことを教えて差し上げます。」
「何かしら。」
「死にたくなければ、今すぐ頭を伏せてください。」
「!」
素直に従う王妃の頭上を短刀が通過するから。
何食わぬ顔をして、真正面にきたソレを受け止める。
「…………。」
柄に彫られているのは曼珠沙華。
なるほど。
宰相が怪しいというのは、気に留めておいたほうが良いかもね。
どっちを狙ったものかは知らないが、失敗したとわかったのと同時に立ち去るという判断を下した手際。
そういう命令だったのかもしれないけど、それなりの手練が遣わされてる。
「ユリアさん、ソレは……。」
「あぁ。頭上げて良いですよ。逃げましたし。」
どうぞと紋章が見えるように渡せば大きく目が見開かれる。
「それでは、私はコレで。」
「ユリアさん。」
「その紋章意味を貴方がたはご存知でしょう。」
複雑な表情を浮かべる王妃。
さて。
謁見に挑みますか。
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感(ー人ー)謝




