原作の強制力
なんだ、やっぱり。
「所詮は、モブキャラか。」
「ん?何か言ったか、姫さん。」
「人が多いわねって言ったのよ。」
「あぁ、確かに。ちょっと集まりすぎだな。」
長期休みも明けて、新学期。
どうやら、すでに次の生徒会役員は選抜されたらしい。
「生徒会って、成績良いヤツがするんだろ?なんで姫さんとロイド坊っちゃんの名前、ねーの?」
そんなの、私が聞きたいわよ。
「俺達、それどころじゃねーから、断ったんだよ。な、ユリア姉さん?」
「えぇ。」
ロイドに合わせれば、アルベルトが頭の後ろで腕を組んだまま不満そうな顔をする。
「そっか。姫さんたち向いてそうなのにな、こういうの。」
「そう?ところでロイドはどうしてココに?」
「生徒会の選抜が今年は掲示板に貼り出されてるって聞いたからな、見にきた。ま、名前を見る限り、順当だな。」
「そうね。」
テスト成績が二位の殿下と三位のお嬢様。
二人の推薦で生徒会入りが決まったのが、レオナルド様とシノア様。
そして、今作のヒロイン。
もちろん、顧問は…………。
「まさか、お二人が生徒会入りを断るとは思っていませんでした。」
「タールグナー先生。」
「あなた達辺境伯の人間にとっては、良い機会だったように思うのですが。なぜ、断ったのですか?」
心底不思議そうに聞いてくる。
「私達よりも適任者が居ると判断したまでのこと。それに、学園の中では貴族籍なんて関係ないとおっしゃいますが、やっぱりココは小さな貴族社会で、社交の場ですよ。私達はソレを、日々実感しております。」
「…………。」
「そろそろ授業が始まる時間ですね。それではコレで。」
ロイドとアルベルトの背中を押して、先を促す。
「今回、どうして生徒会選抜のメンバーが貼り出されたか知っていますか?」
「王太子殿下が生徒会に加入されるからでは?」
「いいえ。どうやら、ソレ以外の目的があったようですよ。学園の行事には王族は関わりませんが……何やら、指示があったようですから。」
「…………信じるに値する証拠は。」
「これでも私は、学問の分野では一目置かれている存在でしてね。ある程度の情報は先んじて入ってくるんです。お気をつけください。殿下方を陥れたい人物が居るようですから。」
マーシャル・タールグナーが立ち去って行くのを黙って見送る。
「どう思う。」
「怪しすぎると思う。」
「だよな。」
「でも、今更嘘をつくところでもないわ。」
「一年生から二人、生徒会の選抜メンバーだったヤツが居る。一人はおまけらしいが、もう一人は卑怯な手を使ったとも言われている。」
「裏で糸を引く黒幕が誰か調べるのは今じゃないわ。それに、その黒幕にはもう、手が届きそうよ。」
マーシャル・タールグナーが今更私達に手を貸そうとするのも、気になるけど……。
あの様子だともう、お嬢様を狙うことはないだろう。
何より、既にヒロインと居た翁についての情報は集まっている。
ただ、まだ何もするなと言われているだけだ。
「帝国の動きだけで精一杯なのに、これ以上問題を起こさないで欲しいわ。」
「王命絡みか?」
「王命関係ないわよ。逆恨みよ、逆恨み。全く、巻き込んでくれるわねぇ、この国の貴族たちは。」
「まぁまぁ。姉さんが頭かかえてたって解決しないんだから、とりあえずは流れに任せよう。帝国から一人、学園に入学してくるんだろ?」
「その情報が一向に掴めないんだけど。どうなってんの?」
ソフィアも、アルベルトも、私も。
あらゆる手を尽くしたけど、一向に帝国から送られてくる人物の情報が掴めない。
わざわざ殿下の誕生日に皇太子が顔を出すくらいだから、既に王都に送る人物は決まっていると思ったのに。
「姉さんはまだ知らない方が良いかもな。」
「え。何、ロイド。まさか情報掴めたの?」
「親父に口止めされてる。」
「お父様に?」
「姉さんが王命そっちのけで乗り込む危険性があるからって。あと、すぐにわかることだからってさ。」
「すぐわかることなら教えてくれたって良いじゃない……。」
でも、ロイドにそうやって連絡を入れてるってことはお父様が既に何かしらの手を打っているということ。
あまり無茶なことをしてほしくないけど、帝国相手にやり過ぎということはないから大丈夫だろう。
「お父様、最近なんでか私に帝国の情報を流して来ないのよねぇ。ロイドには話すのに。」
「里帰りしないから。」
「え、嘘。もしかしてお父様、拗ねてるの?」
むしろそんな理由で情報規制されてるの?
びっくりなんだけど。
「まぁ、ソレは冗談として。アルベルト、ソフィアの傍についてなくて良いのか?」
「ソフィアなら公爵令嬢と一緒に居るぞ。なんか最近、副団長がよく現れるから匿ってもらってるっつてたけど。」
「あら。最近見かけないと思ってたけど、ソフィアには会いに行ってるのね。」
これはソフィアが陥落されるのも時間の問題かな?
あの子、そういうのに弱いから。
「ソフィアが良いなら別に良いが……。」
ロイドが視線をよこしてくるから、肩を竦める。
「様子を見ましょう。あの二人なら心配はいらないでしょ。」
でも、あの二人が結ばれるとソフィアは王都に住むことになるんだよね……。
それは……結構さみしいかもしれない。
「ユリア嬢!」
呼ばれた名前に振り返れば、額に汗を浮かべたレオナルド様。
駆け寄ってくるだけなのに、なんなのあの爽やかさは。
「良かった、まだ学園内にいらしたのですね。」
「何かあったのですか?」
「ソレが…………、帝国からの入学希望者が今、到着したようで。」
「!」
「クロード様とマリア嬢が対応を任されて居るのですが、その…………。」
少し言いにくそうにするレオナルド様に嫌な予感がする。
まさか、ね……?
「案内役に私を指名してきたのですか?」
「似たようなものです。」
「…………ねぇ、レオナルド様。違うなら違うって言って欲しいんですけど……。もしかしなくても、その人って私のクラスに配属ですか?」
肩を震わせて、息を呑む。
あぁ、やっぱり。
最悪だ。
「ロイド。」
「さすがに俺もソレはびっくりしてる。でもま、予想の範囲内だろ。」
「…………。」
「監視役にコースター辺境伯を指名してきてる時点で俺か姉さんのクラスなのは確定だったんだ。何より、信用できるか定かでない相手を王太子とその婚約者に近づけるわけにはいかない。幸い姉さんはアルベルトと一緒だし。」
「だな。安心しろ、姫さん。絶対、傷つけさせねーから。な!」
「な!じゃないわよ、な!じゃ!!私より自分の身を守りなさい!」
「ひでー。」
ケラケラと笑うアルベルトに息を吐き出しつつ、レオナルド様に向き直る。
「レオナルド様、案内をお願いできますか?」
「もちろんです。」
「ロイドはアルベルトが余計なことしないように見張ってて。」
「わかった。」
「俺別になんもしねーって。」
帝国の使者が私達を指名してきてることも、陛下たちがソレを条件として飲むだろうというのも。
全部、わかっていたこととは言えど気が重い。
たかだか悪役令嬢の取り巻きに選んでいただいたモブキャラなのに。
「レオナルド様は、どんな方が来られたかご存知ですか?」
「はい。先程、お二人とともに挨拶を。」
「どんな方ですか?」
「それは……、と。ココです。」
大きな扉の前で立ち止まる。
「中でお待ちです。お会いになられたほうが早いかと。」
「…………そうですね。そうします。ありがとうございます、レオナルド様。お気遣い感謝します。」
最悪な予想を裏付けるように、扉の傍にレオナルド様が控える。
深呼吸をし、扉を開けば長椅子に腰掛けて向かい合う人たち。
二人と一人。
もちろん、二人仲良く腰掛けているのがお嬢様と殿下。
「ユリア・コースターお召により参上いたしました。」
「ありがとう、ユリア嬢。さぁ、こちらに。」
「突然ごめんなさい。迷わなかった?」
「レオナルド様に案内していただきましたから大丈夫ですよ。」
「それなら良かったわ。」
お嬢様の完璧な笑みにニコリと同じように笑顔を返す。
こんなところで感情を出すわけにはいかない。
どんな相手だったとしても、彼は国賓としてココに居るのだから。
「もう少し驚くかと思っていたのですが……、誰が来るか予想できていたんですね。」
「充分驚いておりますよ。まさか、使者として来られていた貴方が来られるとは思っていませんでしたから。」
側近の方は着てないみたいだけど。
それとも、私が彼に食料を分けてもらったことを知られている……?
もし、そうだとしたらコースター辺境伯を監視役に指名してきて私のクラスに入れた理由に納得が行く。
懐柔したいのは、コースター辺境伯の長子か。
「ユリア嬢、こちらはマルエラン・ディ・シエル殿。ユリア嬢も知っての通り、帝国の使者として来られていた方だ。」
マルエラン・ディ・シエル……?
皇族の一員じゃないのか?
使者としてきていたくらいだから、皇帝の血筋の者だと思っていたけど……。
「こうして顔を合わせるのは初めてだろう?明日からの学園生活、よろしく頼む。」
「はい、殿下。監視はお任せください。」
妙なことしたら帝国に強制送還しますねと言いたい気持ちをこらえる。
大丈夫、耐えられる範囲だ。
何より、ソフィアやアルベルトに彼の監視役を頼まなくて済むのはありがたい。
「生徒会の方でなるべくサポートさせてもらうから。」
「ありがとうございます。引き継ぎはいつ頃の予定ですか?」
「テスト前には全権引き継がれる予定だ。だから、空き時間にはなってしまうのだけど……。」
「充分です。ありがとうございます。ですが、無理はしないでくださいね。殿下やマリア様に何かあれば困るのは国民ですから。」
「学園の中でおいそれと危険は起きないよ、ユリア嬢。」
「…………。」
「いや、そうだな。気をつけよう。」
どうやら自分たちが食堂で毒殺されかけたことを思い出してくれたらしい。
まだ一年前なんだから、警戒を解かないで欲しいわ。
「シエル卿とお呼びしても?」
「ディルと呼んでください、ユリア嬢。」
「わかりました、ディル様。」
「…………まぁ、良いでしょう。よろしくお願いしますね、ユリア。」
コイツ、ちゃっかり呼び捨てにしてきやがった。
と、いけない。
心が荒んでるわ、ユリア。
落ち着くのよ、ユリア。
お母様に言われたじゃない。
心穏やかに、慈愛の心で包み込みなさいと。
ニコリと笑みを浮かべて、相手を見る。
「こちらこそ、お願いしますね。」
こうなりゃヤケだ。
お嬢様と殿下のハッピーエンドの邪魔さえしなければ良いから、大人しくしてて欲しい。
切実に。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




