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王子と皇子

王族二人が並んでる姿は圧巻だ。

周囲の貴族たちも聞き耳はたてるものの、近づくのはためらっている。


ためらいなくそこに突っ込んで行ったのはヒロインくらいか。


殿下とのイベントスチルを強引に出そうとして、お嬢様に叱責された挙げ句、衛兵により引き剥がされていた。


イベントスチルを生で見たい気持ちは大いに同意する。

でも……でもね?

好感度が上がってないんだから出ないでしょスチル。


「コースター辺境伯には伝えてなかったようだな。」

「えぇ。余計な心労はかけたくなかったので。」

「余計な気遣いだな。帝国の参加がわかった時点で伝えておけば、少なくともご自身と婚約者の命くらいは守ってもらえただろうに。」


皇太子の言葉に殿下は苦笑する。


「彼らは王命で縛れないし、そんな言葉で命を賭けてはくれないよ。」


殿下がチラリとこちらを見ると、皇太子に向き直る。


「何より、貴方に側近が居るように私にも自慢の側近がいる。コースター辺境伯を頼るまでもなく、私と婚約者を守ってくれる。」

「随分と信頼しているらしい。」

「当然ですね。」


殿下がニコリとほほ笑む。

チラリとレオナルド様に視線を向ければ、まんざらでもなさそうな様子で静かに控えている。


そんなレオナルド様をユミエルが誇らしげに見てるのが、なんとも可愛らしい。


「では、先に戻らせてもらうことにしよう。王太子の誕生日パーティーなのに、我々のほうが目立つのを面白く思わない人間も居るようだし。なぁ?」


ニヤリと口角を上げ、こちらに視線を送ってくる。


ソフィアとアルベルトが頷くから二人の耳を軽く引っ張る。


この二人、本当にこういうところ治らないわね。

治す気がないのが丸わかりだわ。


「そんなやすい挑発には乗りませんよ、皇太子。それで?いつ頃帝国に戻るのですか?」

「なんだ、まだ一緒に居たいのか?」

「えぇ、そうね。」


私の答えが意外だったのか、お嬢様と殿下が目を丸くする。


「貴方をココにとどめておけば少なくとも領地の被害は減少するでしょうから。」

「ククク……。立派な評価をいただけているようで何よりだ。」


この時間だ。

王城内にとどまるのだろう。

殿下はともかく、お嬢様はセザンヌ公爵家に帰したほうが良さそうだな。

殿下と一緒に休みの日くらい過ごして欲しいけど。

帝国の皇太子が泊まっているなら、警戒しすぎということもないだろう。


「では、消される前に戻るとしよう。あぁ、そうだ。コースター辺境伯領に立ち寄る場合は、寝泊まりする場所はあるか?」

「三食昼寝付きの独房はいかがですか?お安く提供させてもらいますよ。もしくは土煙舞う白刃の中もお勧めですよ、快適な眠りをお約束しましょう。」


ニコリと微笑みながら伝えれば、楽しげに笑って。


「それでこそ、コースター辺境伯だ。戦場で見ることが叶わない姿を見れて、良かった。」

「二度と無いでしょうから、噛み締めてくださいな。」


そしてそのまま帝国に帰れ。


私の態度に笑みを絶やさず、会場を出て行く。


まだ気は抜けないけど、ソフィアとアルベルトの意識は皇太子から離れただろうし。


「…………皇太子が参加することを黙っていたんですね。」

「……、すまない。気分を害すだろうから黙っていようとマリアに伝えていた。」

「お心遣い感謝します。でも、心配いりませんよ。殿下方が例の件で忙しいのはわかっておりますから。」

「だが……。」

「それに、今更ですよ。私達にとって帝国はもう、好きとか嫌いとか……そんな簡単に言語化できる相手ではありませんから。」


王都の貴族と同様にね。


そう告げれば、複雑そうな顔をして。


「ご安心ください、殿下。何もされない限り、何もしませんから。」

「…………すまない。」

「ふふふ、謝らないでください。でも、そうですね……。」


感じる嫉妬と憎悪の視線に内心ため息を吐き出しつつ、殿下を見る。


「私と一曲、よろしいですか?」

「あぁ、喜んで。」


殿下にエスコートされながら、視線を周囲に向ける。


モブキャラの私が二カ国の王子を相手にしたことは、すぐに噂になるだろう。


あそこで今にも視線だけで人を殺せそうな形相の方々がいらっしゃるけど。

まぁ、標的(ターゲット)になるのは私だけで、ソフィアやお嬢様には向かないだろう。


「ユリア嬢。」

「なんでしょう。」

「どうして、あんな誘い方をした?今もそうだ。まるで、何かから守るように振る舞っている。」


さすが殿下、見抜いていたか。

そして、わかっていて手を取ってくれる貴方はやっぱりメインヒーローね。


「私は私の守りたいものを守るために行動する。ただそれだけのことです。貴方がマリア様を大切に思われているように、私にも大切に思う者がいます。」


安心して学園生活を送ってほしい。

貴族は怖いものではないのだと、わかってほしい。

どこでも生きていけるようにとどれだけの手ほどきをしても、貴族嫌いを治さないと、皆はどこへも行けない。


前へと進めない。


「王命を授からなければこうしてダンスをする仲にはならなかったでしょう。」

「…………そうだな。」

「殿下、マリア様を守ってあげてください。どうやら、今回の一件で一騒動起きそうですから。」

「わかった、気に留めておく。」

「…………殿下は深く聞かないですね。」

「聞いたところで、コースター辺境伯の邪魔をしないように立ち回る術が私にはまだわからない。何より、私はユリア嬢たちを信じている。」


真っ直ぐなその言葉に、思わず目を瞬く。


さすが、メインヒーロー。

人誑しの才能をこんなモブにまで発揮してくれるとは。


「手が必要な時は言ってくれ。できる限り力になると約束する。」

「ふふふ、よろしいのですか?王太子がそんな簡単に口に出して良い内容ではないと思いますが。」

「問題ない。コレは、コースター辺境伯に対する王家の信頼の証だ。」

「────」


まっすぐすぎる言葉に苦笑しつつ終わる曲に合わせて、手を放す。


あぁ、本当に。


「国賓の相手、感謝する。陛下に代わり、お礼申し上げる。」


王族だわ、ほんと。


「コレで、二カ国間の外交も滞りなく進むだろう。」


あえて声を張り上げることもなく、ただ淡々と言葉を発する殿下に視線が集まる。

もちろん、向かい合う私にも。


王都の貴族なら、忠義を尽くすと示すために頭を垂れ、言葉を受け取ることだろう。


だけど。


「えぇ、そう願います。」


ニコリとほほ笑み、裾を軽く持ち上げる。

略式の礼をとり、背を向ける。


「姫さん。」

「アルベルトはユミエルについててあげて。あの子、緊張してるみたいだから。」

「わかった。ロイド坊っちゃん、迎えに行かなくて平気か?」

「問題ないわ。じゃ、ソフィアにもよろしく伝えておいて。あぁ、それから…………。」


アルベルトの腕を掴み、その腕を支えに背伸びをして髪へと手を伸ばす。


「どこで何をしようと構わないけど、証拠は消しなさいよ。」


くるくると指先で葉っぱを回せば、バツの悪そうな顔で頬をかく。


「気をつけます。」

「よし!」


先に帰るねと背を向ける。


さて。


「あと一年半か。」


本編終了まで、頑張るとしますか!

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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