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駆け引き円舞曲

馬車の順番待ちが起きている中、セバスがその横を通り過ぎて門の中へと入る。


「お嬢様、坊ちゃま。」

「ありがと、セバス。」

「ありがとうな、セバス」

「ありがと、セバスのじっちゃん!」

「ありがと、セバスさん。」


それぞれがお礼の言葉を伝えて降りれば、感極まったのかうっすらと涙をためて。


「私、本当にコースター辺境伯の皆様にお仕えできたことを、生涯の喜びだと胸に刻みます。」

「お、ソレわかる。姫さんたちに会えた俺たちは誰よりも幸せだもんな!」

「あら、私達は誰よりも幸せなのよ、知らなかったの?」

「いや、知ってた。」

「はいはい。皆大げさすぎるわ。ね、ロイド。」

「あぁ、そうだな。そんな褒められても給金上がらないから、悪いな。」

「おや、この老いぼれの言葉を賃上げと言い切るのは、コースター辺境伯の特徴ですね。旦那様と奥様もそう言って笑っておりました。」


ロイドと顔を見合わせて、頷く。


「お父様がよく言ってたわ。安心して領地にこもって居られるのは、王都の邸を任せているしっかり者の夫婦のおかげだと。」

「!」

「こちらこそ、貴方たちに出会えたことに感謝を。」

「そして、貴方たちの未来を約束しましょう。」


軽く礼をして、ニコリと微笑めば泣きそうな顔でほほ笑む。


「じゃあ、そろそろ行ってくるわ。お嬢様と殿下が心配だし。」

「姉さん、足元。ほら、手。」

「んじゃあ、ソフィア。お手をどうぞ?」

「あら、アルベルトにしては気が利くじゃない。」


そんな軽口を叩いて長い階段を登り、会場入りを果たす。

豪華絢爛な城内が私達を出迎え、参加している令息令嬢たちの談笑の声が聞こえてくる。


もちろん、私達はそんなのに構う前に目的の人物に近づく。


「クロード殿下とマリア様にご挨拶を。」

「殿下方の幸多き未来をお祈りいたします。」

「おめでとうございます、殿下。」

「ありがとう。さぁ、堅苦しい挨拶はおしまいだ。楽にしてくれて良い。」


その言葉に折り曲げていた腰を伸ばして、殿下たちに向き合う。


「マリア様と殿下もおそろいの衣装だったんですね。」

「あぁ。きれいだろう?」

「えぇ、とっても。」

「殿下の独占欲が垣間見える良い衣装だと思います。」

「姫さん、美味しそうなデザートあるけど食べるか?」

「食べたい。」

「りょーかい。ソフィアは?」

「私も。」

「んじゃあとってくる。」

「四人とも揃いの衣装か。なかなか良いな。よく似合っている。ユリア嬢の提案か?」

「いえ、コレは…………。」

「当主の英断ですよ。この方が、色々と都合が良いからと。」

「なるほど。コースター辺境伯はやはり来られないか。」

「帝国の件で何やら忙しいみたいですから。ソレは、殿下もご存知では?」

「ロイド殿()遠慮がないな。」


苦笑する殿下といつも通りのロイド。

アルベルトは両手に皿をとって、私達二人分のケーキを物色中。

ソフィアはそんなアルベルトを笑いながら私の半歩後ろに立っている。


「どうしたんですか、マリア様。怖い顔をして。」

「!」

「そんな顔しなくても、殿下には微塵も興味ありませんが。」

「ユリア嬢……。」

「貴方のそういうところ好きよ。ごめんなさい、少し考え事をしていたの。」

「ココ数日ずっとそんな顔してますね。相談くらいなら聞きますけど。」

「あ、私も聞きますよ!」


ソフィアがズイッと近づいてくる。

どうやら、学園でのキャラ付けは続行しているらしい。

まぁ、視線が集まってる今ならそのキャラのほうが安全ではあるけど。


「そうね……。」


お嬢様が困り顔で頬に手を添える。


何かそんなに言いづらいことなの…?


「貴方たちには言わないつもりで居たのだけれど……。」

「?」

「マリア。」

「クロード様。」


殿下がお嬢様の腰を抱き寄せ、ニコリとほほ笑む。


「ダメだよ、マリア。」

「ですが……、このままだと不要な心配をされてしまいますわ。」

「…………、ダンスの時間みたいだね。行くよ。」

「クロード様っ。」

「ユリア嬢、ソフィア嬢。何かあったとしても隠し事をしたマリアを責めないでやってほしい。秘密にしておこうと言ったのは、私だから。」


それだけ言うと、中心へと行ってしまう。


「ほい、姫さん。ソフィア。」

「ありがと、アルベルト。」

「ありがと。」

「何かあったのか?」

「マリア様の様子がおかしくてねぇ。ロイド、何か心当たりある?」

「いいや。ただ、この異様な空気は馴染みがある。」

「だよね。ソレは私も思ってた。」


一口大のケーキをフォークにさして、ロイドに差し出せばパクリと一口。

うん、やっぱり糖分は必要よね。


「ロイド、ファーストダンスのご希望は?」

「姉さん一択。」

「お、嬉しいね。んじゃあ、行こうか。」

「ユリア、お皿貸して。」

「ありがと。んじゃあ、行ってくる。二人もちゃんと踊るのよ。」


去年は叶わなかったソフィアとアルベルトのファーストダンス……!!

ロイドにエスコートされ、ダンスの輪に加わるとゆったりと身体を動かす。


「今日の姉さん、目立つな。」

「えぇ、目立つのよ。あらゆる暗殺者の目が私に向いてるのを感じるわ。」

「暗殺者なのか内通者なのかは知らないが、どうするつもりだ?さっきも、こっちを狙ってるヤツが居ただろう。」

「仕事以外で戦う理由がないわ。それこそ、狙いがコースター辺境伯領の家族だと言わない限りはね。ココは王城。何かあって責任を追求されるのは殿下を含む王家の皆様だし。」

「まぁな。でも、ニーナを危険な目に合わせた城のヤツらに丸投げしたところで、俺達に仕事が回ってくるんじゃねーの?」

「そうかもしれないし、違うかもしれない。あれから一年経ってる。何も成長してないのなら、ソレ程度の人間だったってだけのこと。」


視線を感じて、顔を向ける。


今、確かに向こうから視線を感じたんだけど……。


ゆっくりと終わる曲に、ロイドと向かい合いお辞儀をする。


「あとはソフィアだけで良いよな。」

「他に踊りたくなるような女性か居ないのであればね。」


ゾワリとする視線の気配に振り返れば、ココに居るハズもない人物が居て。


ソフィアとアルベルトが音もなく近づいてきて、眼の前の男を睨みつける。


「護衛の居ない隙を狙ったのに、さすがコースター辺境伯。」


ニヤリと口角を上げる銀髪の男を見上げる。


「どうしてココに居るのかしら。」

「帝国の使者として、この国に用があってな。王太子の誕生日パーティーが開催されるからと国王陛下が気を利かせてくれてたおかげで、ココに居る。」


なるほど。

お嬢様たちが何かを隠している素振りをみせたのは、コレか。


「停戦協定と友好の証での参加と言ったところかしら。通りで周囲の貴族たちが浮足立ってるわけね、納得よ。」


陛下の企みか、帝国の企みか。


お嬢様と殿下がこちらに気づいたのが見えた。


「ククク……ダンスの申し込みは、受けてもらえるのか?」


挑戦的な笑みと差し出される手のひらに、ソフィアとアルベルトが殺気立つ。


「やめなさい。」

「でもっ。」

「仮にも王国と停戦協定を結ぶ相手よ。コースター辺境伯としての対応はおいおい考えるとしても、お客様にその態度はいただけないわよ。」

「…………ごめんなさい。」

「ごめん。」

「さて、皇太子殿下。その差し出した手、引っ込めるなら今のうちですが。」

「俺に敵意がないのはお見通しだろ?」


ゆっくりと息を吐き出す。


「あなたが正式な客人でなかったら、その手首ごと斬り落としてるのに。残念でならないわ。」

「ククク……斬り落とされる理由がありすぎて検討もつかないな。」

「あら。じゃあ今回の理由は私のかわいい弟の顔に消えない傷をつけてくれた代償ということにしておきましょうか。私が求める見返りは、協定なんて生易しいものじゃないけど。」


差し出された手を無視して、手を差し出す。


「私があなたの誘いを受けるんじゃないわ。あなたが私の誘いを受けるのよ、皇子様。」

「ククク……全く、気の強いヤツ。」


私の手を掴み、ダンスの輪へ。


いくら敵国とは言え、触れたくないし触れられたくないと態度に出してしまえば王国としての対応を疑われる。

今回、国王陛下の許しを得てココに居るのだから。


「以外だな。」

「何が。」

「動きにくいドレスを着てるのが。よく似合ってる。」

「あら、ありがとう。褒め言葉のついでに立派な布くらい受け取ってあげるわよ?」

「帝国が用意したものを身につけるのか?」

「売れば良い金額になると思うの。」


そう応じれば、ニヤリと口角を上げる。

まるで、そう答えると思っていたと言いたげだ。


「俺達がこの国に滞在するにはコースター辺境伯の信用が必要不可欠だ。」

「使者たちが言ってたわね。だから何?私達の信用なんてなくてもこの国とは取引できてる。そこまで私達にこだわる必要はどこにもないわ。コースター辺境伯(わたしたち)が国に興味ないことくらい知ってるでしょ?」

「あぁ、知ってる。だからこそ、お前達の信用が必要だ。国境を守護するにふさわしい行いをし続けているコースター辺境伯をずっと相手取るのは得策じゃない。」

「ずっと狙い続けてるクセによく言うわ。」

「…………皇帝陛下を止めたい。力を貸してくれ。」

「お断りよ。」

「…………。」

「他国の貴族に助けを求めなければご自身の親の行いすら止められないのですか?それはそれは、お飾りの皇子にふさわしい行いですね?」

「…………この状況で煽って、命の保証はないぞ?俺が指先一つ動かせばその首跳ねることも容易い。」

「私の首が離れた瞬間、コースター辺境伯の信用も、均衡を保たせていた国境の戦力も、あなた自身の命も、ココで終わるとわかっているのならどうぞ。」

「…………。」

「私はただで死ぬつもりはありませんよ。こうして身体に触れている。私にもあなたを殺す手段はあるのだと、理解したほうが良い。」


添えていた手に力を込め身体を寄せれば、目を見開いて。


「私の家族も。いつでも、私ごと斬る準備はできてるわ。」


私の後ろに視線をやり、苦笑する。


「なるほど。覚えておこう。」


シャンデリアの光に反射して、銀糸の髪が光った。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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