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今世初の娯楽施設

一足早い殿下の誕生日祝いで、お嬢様とのデート。

行き先はこの王国内にある、娯楽施設。


「わ……わぁ……!!」

「アレが、この国の娯楽施設。カジノから劇場まで幅広い施設が融合してできた区画で、数多くの貴族がココに出資し長期滞在の権利を勝ち取っています。」

「すごすぎる……!」


ステラさんの説明を聞きつつ、馬車の窓にへばりつくように景色を見る。


そう、ソレはまるで前世の商業施設……いや、テーマパークと言ったほうが正しいか。


劇場、カジノ、レストランなど。

見える範囲だけで、かなり楽しそうだ。


でもまぁ……。


「さすが王都の貴族……。お金のかけどころが違う。」


こんなお金があるなら、王位争いで傷ついた領地に支援金くらい出してくれても良かったと思う。

もう何も、この国に期待なんてしてないけど。


「当然です。本来なら、こういう使い方をするのですよ。コースター辺境伯が異様なんです。」

「ハハハッ。それで、殿下とお嬢様はどちらに泊まる予定なんですか?」

「この区画はいろいろな貴族が出資して成り立っているため、貴族御用達の修伯施設が備わっています。」

「じゃあそこに?」

「はい。王族の皆様は特別に部屋がありますから、お二人ともそのお部屋を使われるかと。」

「!!」


え、まさか同じ部屋……!?


「続き部屋になっているだけで別のお部屋です。」

「あ、声に出てましたか。」

「顔に出てました。」

「気をつけます。」

「そうしてください。お嬢様も初めてでは無いとは言えど、毎回緊張してらっしゃいますので。」

「え、初めてじゃないの?」


まさかの殿下とお泊り旅行経験済み??

ちょっと、なんでソレでヒロインに心移りしたのか聞きたいんだけど、殿下。

私が攻略(プレイ)してる時、悪役令嬢そっちのけでヒロインと過ごしてたよね?


「降りますよ、ユリアさん。」

「あ、はい。」


ステラさんに続いて馬車から降りれば。


「疲れてないかい、マリア。」

「大丈夫ですわ、クロード様。」

「そう?じゃあ疲れたら無理せずに言うんだよ。」


二人が手を繋いで通りを進んで行く。


御者たちはそのままどこかへ行ってしまうし、表立った護衛たちも姿を消す。


今殿下についてるのは“影”か……。


「ユリアさん、しっかりついて来てくださいね。迷子にだけはならないでください。」

「そんな心配しなくても、仕事はちゃんとしますよ。」

「信用なりません。」

「ひどい。」


なんて、ステラさんと軽口を叩きながら少し後ろをついていく。

人通りが多いが、すれ違う人間皆貴族だ。

身につけているもの、生地、雰囲気、目つき。


見ていてわかる。

様子を伺われているのだと。


「ステラ。」

「こちらに。」

「ありがとう。」


お嬢様に名前を呼ばれただけで、当たり前のようにお茶菓子が詰められた籠を手渡す。


さすがステラさん。


「マリアが作ってくれたのかい?」

「いいえ。」

「…………。」

「クロード様がご存知の通り公爵家(我が家)の料理人は腕が良いので、味の保証はいたしますわ。」

「…………そうか。」


心なしか気落ちしている殿下に、お嬢様の死角から近づいて。

スッとポケットに忍ばせていたソレを取り出す。


「ユリア嬢、ソレは…………。」

「!」


二人が目を見開いて凝視するからニコリと微笑む。


「えぇ、そうです。お嬢様が殿下のためにと朝早くから挑戦されたクッキーです。捨てておいてと言われたのですが、もったいないので私のおやつにしようと持ってきました。」

「ユリア嬢、譲ってくれ。」

「クロード様!」

「良いですよ。」

「ユリア!!」


顔を真っ赤にしたお嬢様の手が触れる前に殿下に少し(いびつ)で割れて焦げているクッキーを渡す。


毒見は済ませてま(美味しかったで)すよ。」

「それは楽しみだ。近くにベンチがあったと思うからそこへ行こう。」


殿下の足取りが見てわかるくらいに軽くなる。

お嬢様もそんな殿下に顔をほころばせている。


このツーショットめっちゃ写真撮りたい。


「ユリアさん。」

「はい。」

「今回は貴方の行いを咎めはしませんが……、他にも何か盗ってますか?」

「人聞き悪いなぁ……。ステラさん、そんな怖い顔しなくても、あと私が仕込んでいるのはお嬢様が殿下への誕生日プレゼントで刺繍が失敗したからあげるわと正式にもらっ────」


過去一の手際の良さで手の中からハンカチが消える。


もちろん、犯人はお嬢様で。


「ユリア、今すぐポケットの中を見せなさい。」

「え。」

「命令よ。」

「う……ハイ。」


命令なら仕方がない。


うぅ……長期休みを楽しみにしていたのが明るみに出るから恥ずかしい……。


「ユリア、コレは何?」

「その……使用人仲間が王都の情報が網羅された情報紙をくれて。」


恥ずかしくて、目が泳ぐ。


「そこに、娯楽施設(ココ)の情報も載ってたので、その……。」

「…………切り抜いて持ち歩いていたと。」

「う………ハイ。」


スクラップ帳にしてました!!

はい、すみません!!


お嬢様と殿下のデート護衛が仕事だとわかりつつ、今世初めての娯楽施設にウキウキワクワクしてました!!


この世界にスクラップ帳という概念がないのは領地に居る頃から知ってたけど!!

メインキャラたちに囲まれてる贅沢モブキャラを堪能してるのに、創作意欲が刺激されないなんてことはない!!

そうでしょう!?


そんなフラストレーションをこのスクラップ帳にぶつけてしまった。

お陰で、私は誰よりもこの娯楽施設を楽しみにしている浮かれた侍女という肩書を当てられるのだわ……。


「すごいわね……、いろいろな情報紙を切り抜いてるわ。コレは婦人紙にも載っていたわね。でも、こっちは見たこと無いわ……。」

「ソレは男性向けの情報紙の切り抜きだね。流行りのものが載っていると城の者に見せてもらったことがある。」

「まぁ、そうなんですの……。私も読んでみようかしら……。」

「必要ないよ。」

「ですが。」

「必要ないよ。」


笑顔なのに、ものすごく圧を感じるのはなぜだろう。


というか、その笑顔で誤魔化そうとしているのがありありと伝わってくる。


「お互いに補いあえば良いだけだろう?マリアがそこまでする必要はないよ。」

「クロード様……。」

「さぁ、そろそろ行こうか。道が混んできた。」


殿下がお嬢様の手からスクラップ帳を抜き取り、返してくれる。

ソレにホッとしつつ、ポケットにしまう。


「ユリアさん。」

「!」

「仕事中に遊びに出かけないでくださいね。」

「したいけどしません!」

「そうですか。」


ステラさんの全然信じてないような視線に苦笑しながら、二人の後をついて行く。


この旅行で何もなければ良いけど。


チラチラと視線を送ってくる貴族たちにそう思った。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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