領主代理の仕事
ロイドとともに王都の邸の門扉をくぐれば、泣きながら出迎えられた。
本当に悪いことをした。
「ごめんね、ユミエル。ガゼル。すっかり忘れてたの。」
「忘れないでくださいよぉおお!僕達、お嬢様は無事だって聞いてからも気が気じゃなかったんですからぁぁあ!」
「うん。本当に、ごめん。」
「反省してくださいぃい。」
「はい。」
泣き顔フェチじゃないハズなのに。
レオナルド様に顔立ちが似ているせいか、ドキドキしてしまう。
ごめん、ユミエル。
ゴチですって思ってる私を許して。
「お嬢様のことですから心配はいらないだろうと何度も言ってたんですが……、ほら、ユミエル。お嬢様から離れろ。」
「あんなこと言ってますけど、ガゼルさんも“お嬢様どうしてるかな”ってずっと言ってました!!」
「な……!別に、アレは……!!この家に仕える者として当然の心配をだな……!!」
「ありがとうね、ガゼル。すっごく嬉しいわ。」
「…………っ。」
「セバスとベロニカも。ごめんね、心配かけて。」
「いいえ、とんでもございません。お嬢様が無罪で無事に戻ってくることを、私達は知っていましたから。」
「心配事があったとすれば、国王陛下を困らせていないかということくらいですよ。旦那様はよく陛下を困らせて、楽しまれておいででしたから。」
苦笑するしかない。
お父様と陛下は同級生だったというのがあるから、それこそ戯れなんだろうなぁ。
「お詫びに今夜は私が手料理を振る舞うわ。大したものは作れないけど。」
「お嬢様の手料理……!?」
「お嬢様が、作るんですか……?」
「えぇ。大丈夫よ。ちゃんと食べられるもの作るから。」
アルベルトの料理には劣ってしまうけど。
「夕飯の後は執務室にこもることにするから。私の代わりにロイドが目を通していた書類も含めて用意してもらえる?」
「かしこまりました。」
「本日はこちらで休まれますか?」
「ううん。今日は戻るって伝えてるから、こっちでやること済ませたら戻るわ。長期休みの間に殿下の誕生日パーティーがあるから、その前には戻ってくるつもりでは居るけど。」
あ、そうだ。
「お父様にブティックに挨拶に行くように指示を出されたのだけど何か聞いてる?」
「はい。今年はお嬢様が直接ご挨拶に行くと旦那様が連絡を入れておられました。所在地などは執務室に。」
「わかった。ありがとう。」
長年懇意にしているブティックで、領地に居るときから定期的にお金のやり取りをしている記録は残っていた。
会員制のブティックだって言うのは、ご令嬢たちの情報で手に入れていたけど……一体どんなところなのかしら。
「殿下の誕生日パーティー前には行かなきゃよね……。」
殿下とお嬢様のデートに同行があるから、明後日からしばらくは挨拶に行けないし……。
「旦那様が先んじてお嬢様が訪問する旨は伝えられていますから、お嬢様の都合の良い日に訪れていただければ大丈夫ですよ。」
「え?」
「そういうご希望のようです。」
「あら、そうなの?」
ソレは助かる。
そういうことなら、今日セザンヌ公爵家に帰った後明日少しだけ抜けて良いかお嬢様に聞いてみよう。
久しぶりの大所帯での食事。
みんな、残さず食べてくれた。
口にあったようで何よりだ。
「ユリア。」
「ソフィア。どうしたの?」
「ルナが気になる情報をくれたわよ。聞く?」
「もちろん。」
明日に備えて就寝しているだろうルナ。
ソフィアが紙を一枚差し出してくる。
ソレに一文ずつ目を通す。
「宮仕えの侍女に声をかけて、別の仕事を頼んでる人が居るみたい。ルナも声をかけられたって。」
「ルナも?」
「なんでも王太子妃のためになる重要な仕事って。ルナはそれ以上詳しくは聞いてないみたいだけど。」
「それで良いわ。ルナにあまり危険なことはさせたくない。でも、ルナの断り文句で相手が引いてくれたかどうかがわからないわね……。」
「あぁ、そこは大丈夫じゃない?ルナは、領主様の命令以外に従うつもりはないって断ったみたいだから。」
「それなら良いわ。次からはちゃんとコースター辺境伯の名前を出すように伝えておいて。」
「了解。」
王太子妃のためって声をかけてるあたり、マリア・セザンヌ公爵令嬢の周りも気をつける必要がありそうだ。
それに、その内容で幼いルナにまで声をかけているってことは、王太子妃の部屋の管理を任されている侍女たちに声をかけている可能性が高い。
これ以上ルナに探らせるのは危険だわ。
何より、ソレはゲーム描写と酷似している。
ヒロインが出張ってる可能性がある以上、深入りは禁物だ。
「で、こっちが帝国に関する情報。」
「早いわね。」
「学園でも結構話題になってるわよ。まあ、噂話を流してくれる学友がいないユリアは知らないでしょうけど。」
「だからアルベルトとソフィア頼みなのよ。」
「とは言ってもほとんどがアルベルトが集めてくれたんものだけど。」
本当、アルベルトのそういうところ尊敬する。
「帝国に王国の情報を流していた連中は一網打尽。帝国の方で罰する準備をしていたのは本当みたいで、領主様と陛下宛に連名で調査報告書を送ってきたみたいよ。」
「…………なるほどね。」
送り主は十中八九、皇太子か。
あの側近もコースター辺境伯の信用が必要不可欠と言っていたし。
「王都の貴族たちは、あの帝国がって驚いてるみたい。」
「王都の貴族たちでその反応から、中枢の人間は面白くないでしょうね。」
それとも、あえて王国の中枢を怒らせてる……?
一体、なんのために……?
帝国にはなんのメリットもないハズだ。
「どう考えても怪しいわよね。」
「怪しいわね。でも、コースター辺境伯に害はないから放っておいて良いわ。」
それでも、私達の力になろうとしてくれてるのはわかるから。
あの夜も、そうだったように。
──俺を誰だと思っている?今更一人二人命を狙ってくる人間が増えたくらいで痛手にはならない。迷惑料だと割り切って受け取っておくんだな。
貴方は一体、何をしたいの……?
「全く、皇太子にも呆れたものね。あいつ、領地を襲ってる張本人って自覚ないんじゃない?」
「自覚があるからこその手回しでしょ。」
「え?」
「ソフィア、コレ領地に戻ったらお父様に渡してくれる?こっちは領地の皆に。今回の長期休みは帰れそうにないから、よろしく伝えて。」
「わかった。本当はユリアから渡したほうが喜ぶんだけどね。」
「仕方がないわよ。私は仕事でこっちに来てるんだもの。年に一度は帰れるように調整するから。」
「はぁあああ。ほどほどにしなさいよ?帝国からの侵攻が落ち着いてるとはいえ、安心はできないんだから。」
「えぇ、もちろん。」
そのためにまず、王都で情報を集めなきゃ。
帝国の狙いも、お嬢様たちを狙ってるヤツらの狙いも、明確にはなってないのだから。
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