テスト勉強と変化
気づけばテストまで数日。
珍しくマーシャル・タールグナーからの接触もなく過ごしている。
「姫さん、ココ教えて?」
「アルベルト、貴方私に勉強見てもらわないといけないほど、危ないの?」
「そのとーり。つうことで、教えて?」
「もう……。」
毎年恒例となりつつある勉強会に今回はアルベルトも参加。
今回の勉強会は何かが変わるかと思ったが何も変わらずに。
「レオナルド。」
「ん?」
「間違えてます。」
「え?」
「ソレは一つ前の問題の解き方です。その問題はこっちの公式を使って解け。」
「…………。」
「なんですか。」
「シノア、最近口調が綻ぶことが増えたなぁと。昔みたいだ。」
「…………くだらないことを言ってる暇があるなら、さっさと解き直してください。」
「わかった。」
「クロード様、あの。」
「ん?」
「そんなに見られると、気になります……。」
「ごめんね、英気を養ってるんだ。」
「わ、私を見るよりも庭をご覧になったほうが良いのでは……!?」
「そうだね、じゃあ一緒に庭を散策しようか。」
「く、クロード様……!」
うん。今日も異常なし。
ヒロインが登場してからの初めての勉強会だからと思っていたけど……、心配はいらなかったかな?
「あ、そういえば。ユリアが気にしてたあの女。今回のテストすごく気合いれてるんだって。ロイド坊ちゃんが言ってたわよ。」
「え?」
「あぁ……生徒会推薦を狙ってるとか言ってたな。ま、でもロイド坊っちゃんには勝てないだろ。」
「まぁね。」
ヒロインチートがどこまで炸裂するのかは未知数だから、正直油断はできない。
フラグはへし折ってるけど、諦めてるとは思えない。
前のようなあからさまなアピールは減ってるけれど、お嬢様が参加するパーティーやお茶会では、ヒロインの話題が尽きないらしいから。
まぁ、お嬢様が気にしてないしステラさんも気にしてる様子はないから、本当にあくまで噂話程度の話題なんだろうと思ってる。
まぁ、このテストが終わったら次のスチルイベントは殿下の誕生日パーティー。
殿下フラグの必須事項。
殿下の好感度バクアゲ選択肢がある超重要イベント。
悪役令嬢から離れたところで殿下と仲良く語り合うヒロイン。
ソレが、一回目のイベントスチル。
二回目のイベントスチルは、殿下と仲良くダンスを踊るスチルだ。
二回目のスチルを出すための条件は二つ。
一回目の仲良く語り合うスチル、殿下の好感度が他の攻略キャラよりも一番高いこと。
この二つを満たせば、ほぼ殿下攻略は確定だ。
「姫さん?」
「!」
「どうした、ボーッとして。」
「なんでもないわ。みんなどうしてるかなって、思っただけ。」
「みんな元気にしてたぞ。姫さんに会いたいって騒いでた。」
「長期休みもあるし、帰る?」
「ううん。今回は辞めておくわ。気になることもあるし、お父様にお願いされたこともあるから。二人は領地に帰る?」
「そのつもり。」
「そっか。気を付けて帰るのよ。道中喧嘩しないようにね。」
「大丈夫よ。アルベルトのデリカシー無い言動には慣れてるから。」
「ひでー。」
ケラケラと笑うアルベルトにソフィアがため息を吐き出す。
この二人は相変わらずらしい。
少しも進展を感じないのは心配になるんだけど……余計なお世話かしら?
「にしても……、殿下は最近婚約者様にべったりね?」
「仲良いよな!」
「そんな単純な話じゃないでしょ。」
「かもな。でも、良いじゃん。悪いことじゃないだろ?」
「悪いことじゃないわよ。」
「だろ?じゃあ良いじゃん。」
ニカッと笑うアルベルトにソフィアがパチパチと目を瞬いて。
「…………はぁ。私は時々、あんたのそういう脳天気なところが羨ましいわ。」
「いやぁ、ハハハッ。」
「褒めてないわよ、このお嬢様バカ!」
「あれぇ?」
「はいはい、そこまで。」
割って入れば、二人揃って口をつぐむ。
「ソフィアは気にしすぎなんだって。前から言ってるだろ?姫さんからも何か言ってやって。」
「そうね。ソフィアは心配性だわ。」
「ほら。」
「でも、私からすればアルベルトも同じくらい心配性。」
「そりゃあ、姫さんだからな。」
「ユリアだからの一択よ、ソレ。」
「?みんなに対して面倒見が良いように思うけど……。」
「姫さんが大切にしてるもんは、俺達にとっても大切だからな。」
「その通り。」
「あのねぇ……いい加減私を基準にするのやめなさい。前から言ってるでしょ?」
私達領主を慕ってくれるのは嬉しい。
だけど、それだけじゃ困る。
もし、私達コースター家がいなくなった時、自分たちで判断して行動できないようであれは、なんの意味もなさない。
私達は領民が何不自由なく暮らしていけるように手を尽くしている。
私達に依存して生きてほしくない。
「良いんだよ。今はソレで。そのいつかがくるまでは、姫さんたちのこと大切にさせてくれ。」
「アルベルト。」
「大丈夫だって。そんな心配しなくても俺達はちゃんと自分の足で歩けるし、選んでいける。選んで、ココに居るだけ。」
アルベルトの大きな手が頭に乗る。
ワシャワシャと撫で回される頭にアルベルトを見れば、優しく微笑んでいて。
「姫さんは公爵令嬢の心配だけしてろ。俺達のことは良い。」
「そん────」
「お、姫さん。心配しすぎて髪の毛薄くなってね?」
「嘘!!」
「嘘。」
「…………。」
「ハハハッ。姫さんは変わんないなぁ。」
「…………。」
「……………………ガキ。」
「ん?何か言ったか、ソフィア。」
「別に〜?ユリア、ココ解き方教えて。」
「えっと、ココはね…………。」
問題を見て、解き方を教えていく。
いつかは、この時間も終わる。
モブキャラの私にはもったいない時間。
イケメン、イケボを眺めながら勉強するなんてモブキャラ転生のご褒美みたいな機会は、王命の間だけだろう。
「シノア、ソレはなんの呪文だ?もう一度説明してくれ。」
「脳みそまで筋肉になったんですか、レオナルド。今の説明で理解できないなら一生理解できなから諦めなさい。」
「安心しろ、次は理解できる気がする。」
「気だけでどうにかなるなら勉強会なんて必要ないんですよ。」
「マリア、二人のことは放っておいて大丈夫だ。昔からそうだろう?」
「え、えぇ……。ですが、ココまでシノア様が本音をさらけ出しているのは随分と久しぶりな気が……。」
「そうかい?マリアから見れば、そうかもしれないね。何も変わってないよ、シノアは。ただ最近ちょっと疲れることが続いてるらしくてね。レオナルドに八つ当たりしてるんだ。」
「や、八つ当たり……?」
お嬢様の戸惑いに殿下がにこやかに笑う。
「シノア様にココまでの多大なストレスを与えられる人物が居るなんて…………、ユリア?」
「待ってください、マリア様。なんでそこで私を疑うんですか。」
今、なんのためらいもなく私を見たよね?
「貴方ならあり得るなって。クロード様に対しても私に対しても遠慮がないし…………シノア様にストレスを与えていても不思議ではないわ。」
「マリア様、信用してくれとは言いませんがもう少し悩んでください。」
確かにメインキャラに対してはヲタク心を隠すために、他とは違う接し方になりがちだけど。
発狂しないように自制してるからであって、他意はない。
「二人は本当に仲が良いね。」
「クロード様。コレは仲が良いのではなく、ユリアが失礼なだけです。」
「ハハハッ、そっか。」
照れたようにそっぽを向くお嬢様に、殿下が優しく微笑んだ。
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