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広がる噂

何事もなかったかのように、日常が来る。


いつもと違うところをあげるとするなら、お嬢様が殿下とともに城から学園へと通い、アルベルトとソフィアが居ないことだろうか。


帝国の使者と話した後、お父様はウイリアムとエドワードを連れて領地へと帰って行った。

お父様たちがついてから王都へ戻る予定のアルベルトとソフィアは、必然的に今日は学園を休んでいる。


あの二人の足なら無理なくたどり着けるだろうけど、お父様があの二人を手ぶらで帰すわけがない。

帰ってくるのは早くて学園が終わった頃だろう。


「ユリア嬢。」

「殿下。」

「少し相談があるのだが、良いか?」

「もちろんですよ。」

「ありがとう。」


殿下に声をかけられ、誘われるままついていく。


あ、ココはお嬢様といつも一緒に過ごしているサロンだ。


「実は、お願いがある。」

「……お嬢様の観察日記がほしいんですか?」

「ほしい。いや、違う。個人的なお願いなのは間違いではないのだが、そういった類のものではない。」

「失礼しました。」


咳払いを一つ。


「ユリア嬢、お願いだ。私に、縫い物を教えてくれ。」


予想外な言葉に、思わず殿下の顔を凝視する。

危ない、顔に出すぎてしまった。


「縫い物、ですか?それこそ、王城務めの侍女たちに聞いたほうが確実かと……。」

「ダメだ。マリアに余計な心配をかけたくない。」


健気で一途で完璧な答えが返ってきた。


殿下、貴方は間違いなくこの世界のメインヒーローです。


「ソレは私相手でも変わらないことかと。王妃に相談してみては?」

「母上は……。」

「…………?」

「その…………裁縫が、苦手なのだ。」

「…………え?」


苦虫を噛み潰したみたいに、歯切れ悪く言葉を紡ぐ殿下。

首をかしげる私に、もう本当に絶望したと言いたげな表情を浮かべる。


「昔、マリアがよく母上に教えていた。母上の生み出したアレはもはや(まじな)いに使う何かだ。」

「……………………へぇ。」


王妃様、裁縫苦手なんだ……。

国母になる人だから完璧な人なのかと思ったけど、やっぱり生きた人間なのね。


「だから、頼む。私に縫い物を教えてくれ。」


律儀に頭を下げる殿下に、小さく息を吐き出す。


「マリア様の許可を得てください。そうしたら教えます。」

「バレるわけには……。」

「お嬢様へのプレゼントですか?」

「そ、そうだ。」

「ふ〜ん?」


まぁ、嘘をついてる様子はないし。


「わかりました。では、ソレちゃんとマリア様に言いましょう。」

「え。」

「殿下の大切な婚約者様に誤解を与えたくないですし、殿下との噂を広められたくありません。」


今頃また変な噂が広がってることだろうけど。


話は終わりだと立ち上がれば、殿下が何かを言いたげに視線をよこしてきて。


「まだ何か?」

「……、ユリア嬢、君は…………。」

「…………。」

「いや。他言無用で頼む。」

「もちろんですよ。」


殿下を促しサロンを出れば、視線が突き刺さる。

その視線の中を気にせず進み、レオナルド様と過ごされていたらしいお嬢様に近づく。


「マリア様!お耳貸してください!」

「?」


不思議そうな顔をするお嬢様の耳元に唇を寄せて。


「殿下がお嬢様にプレゼントしたいものがあるそうですよ。」

「…………え?」


お嬢様が目をパチパチと瞬くから、ニコリと笑う。


「そのためのお手伝いをお願いされました。マリア様は、どうしてほしいですか?」

「…………。」

「…………。」

「ふふ。私、貴方のそういう律儀なところ、好きよ。良いわ。クロード様が貴方を頼ったのなら、力になってあげて。」

「よろしいのですか?よかったら同席します?」

「クロード様が嫌がるでしょ。何より、貴方はクロード様に興味がないみたいだから。」


お嬢様がチラリと殿下に視線を送り、私にニコリと笑う。


「クロード様に迷惑をかけてはダメよ?」

「はい!」


お嬢様が嫌がったなら、同じ空間に居てもらおうと思ったけど……。

まぁ、ヒロインが出張って来る気配もないし……気にしすぎだったかな。


「というわけで。殿下、マリア様の許可はもらえたので、早速今日から頑張りましょう!」

「あ、あぁ。」


周りの生徒が好機の視線を向けてくる。


「レオナルド、代わりにマリアを送ってあげてくれ。」

「わかりました。」

「気にしなくても良いですわ。屋敷から迎えも来ますし。」

「そういうわけにはいかないよ。マリアに何かあったらと気が気じゃないんだ。」

「クロード様……。」

「ね?」

「……ありがとうございます、クロード様。」


少しばかり照れたように微笑むお嬢様に周囲がざわついて。

そんなお嬢様に嬉しそうに微笑むと手を引いて教室へと歩き出してしまう殿下。


殿下、少し視線を下げると真っ赤なお嬢様が見えるので是非とも振り向いてほしい。


「ユリア嬢。」

「はい。」

「不穏な噂が広がっているので、気を付けてください。」

「ご忠告ありがとうございます、レオナルド様。」


レオナルド様が、困った顔をして微笑んだ。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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