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天敵 Sideエドワード

三男、エドワード視点。

ドサリと投げ捨てられる。


「…………っ。」


痛みに顔を歪めつつ、甲高い音をたてて閉じられる鉄格子を見る。


「キレイな服が汚れちまうな。」

「そこで大人しくしていろ。」


吐き捨てるように言って立ち去っていく。


足音が完全に聞こえなくなり、気配がなくなったのを確認すると身体を起こして。


「……ふぅ。」


後ろ手で縛られている縄をはずして、手首を撫でる。


どこかの貴族の屋敷の別館。

その地下。


「……たく。俺ってばホント、罪な男。」


この作戦を聞いた時にやりたいと言ったのは俺。

ロイド兄たちには反対されたけど、俺だってコースター辺境伯の男だ。

何より、ユリア姉の力になりたい。


「……ユリア姉怒ってるかなぁ。」


捕まったとき、ユリア姉に名前を呼ばれた気がした。

もしかしたら、近くにいたのかもしれない。

捕まるときはユリア姉の知らない場所でひっそりと捕まるようにって言われてたのに。


前髪をとめていたピンを外して、檻の鍵に差し込む。

ガチャリと音をたてて開く鍵にゆっくりと扉を押し開き、男たちが出て行った扉をソッと開く。


人質を閉じ込めた直後に見張りを置くのは一流。

人質を閉じ込めて話し合いの後に見張りを置くのは二流。

油断しきって見張りを置かないのは三流だ。


今回は、二流か三流。

俺の予想は二流ね。

俺を誘拐するときの手際が悪かったけど、警戒心はあったから。


「…………。」


続く長い廊下といくつもある窓。


犯人を捕まえるのに証拠を集めるなら各部屋を周ることが大切だ。

だけど今回俺がすべきなのは素早くココを脱出し、みんなに伝えること。


でも。


「…………っ。」


俺だって、コースター辺境伯の男だから。


長い廊下を見て、人の気配がない近くの部屋の扉を開く。


ココは書斎らしい。


「何かわかるかも。」


この屋敷が誰のものかとか。


窓の鍵を前もってあけておき、部屋を物色。

逃走経路の確保は必須だ。


ちなみに、逃走経路を確保していても父上には勝てない。勝ったことない。

兄弟の中では逃げ足一番ってみんな言うけど……俺、みんなにも勝てたことないからね?


「!」

「!?」


突然の気配に身体をずらし、暗器を取り出して応戦する。


ガキッと音をたててぶつかり、離れる。


どうしよ、近づかれるまで気づかなかった。


「……、失礼。この屋敷のご令嬢かと。誘拐されてきた公爵令嬢でしたか。まさか武術の心得まであるとは。ご無礼、お許しください。」


その反応に表情を改める。


「見かけない顔ね。何者かしら?」

「私はココに裏切り者を粛清しに来ただけですよ。ココはとある貴族の家で、隣国と悪巧みをしているご令嬢がいると知らせがあったので。」


なるほど、ココがラチェット・カルメーラ絡みの問題児がいる屋敷か。


それなら、眼の前のコイツは……。


「……なるほど、貴方ですか。帝国から不法入国した不届き者は。」

「…………。」

「責めるつもりはありませんよ。裏切り者の粛清というのも嘘ではないでしょうから。ですが、殺さないでいただけると助かります。この国の法で裁くので。」

「…………噂よりもキレ者ですね、マリア・セザンヌ様は。わかりました。ですが、私も仕事を投げ出すわけにはいきません。どうでしょう?ココは確保の手伝いをする代わりに手を組むというのは。もちろん、ココだけの話で、二人だけの秘密です。」


悪い話では無いでしょう?


そう問いかけてくる男に眉根を寄せる。


ユリア姉なら、どうするだろう。


「……えぇ、わかったわ。それで、貴方のお名前は?」

「ギルと呼んでください。」

「そう。では早速だけどギル。貴方が掴んでいる情報を教えて頂戴。」


コースター辺境伯(我が家)の家訓に、使えるものは使えというものがある。


つまりこの状況は紛れもなく俺が戻った時に伝える情報を詳細にしてくれるハズ。


なんせ、俺のことをマリア・セザンヌだと思ってるんだから。


「ソレは、標的を捕まえるのに必要ではないでしょう?」

「あら。貴方はレディの頼みも聞けないの?紳士失格ね。手を組む理由もなくて残念だわ。」

「冗談、冗談です……!!目的を果たすためにも情報交換をしましょう…!私も貴方が持つ情報がほしいです……!!」


よし、釣れた。


「では、話してくださる?」

「…………はい。」


うなだれて安堵の息を吐き出す男は、いつ俺が()()()なんかじゃないと気づくかな。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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