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婚約者の逢瀬

お父様から、領地の様子と私の疑問に答える回答書が届いた。

野蛮令嬢というのが、どうやら私を指す言葉にすり替わっているらしい。

元々は私の幼馴染に与えられている呼び名だったと。

納得だ。

あの放蕩娘をどうにかしてくれと彼女の両親が我が家に直談判に来たのを鮮明に覚えている。

あの子くらいだ、私と対等に渡り合おうとするバカな女性は。

平民とはいえ、私と同じように教育されている領地のみんなは、作法教育も当然のごとくしている。

それでも治らなかったのだ、あの子の破天荒さは。


「学園入学まであとわずか、か。」


あと数週間で学園に入る。

お嬢様をソレまでにはなんとか暗殺者が手を出しづらく感じるくらいの回避上手にはしなくちゃなはない。

むしろ逃げて避けることに全振りだ。

子どもたちと同じくらいの逃げ上手にはなってもらわなきゃ困る。


「よし。」


気合を入れて、お嬢様の教育のために必要なものの支度を済ませる。

お嬢様の命最優先で、最短でみっちりシゴイて少しでも早く、ふさわしくなってもらわないと。


「頑張れ私。金五千よ、金五千。いや、前金が届いたと言ってたから、残り金貨二千か。」


屋敷の修繕どころか領地のみんなにも……。


「ユリアさん。おはようございます、起きてますか?」


扉の外からの呼びかけに、ガチャリと扉を開く。


「おはようございます、ステラさん。何かありましたか?」


外部からの侵入者の気配は一切なかった。


「先程、前触れがありました。」

「…………。」

「殿下が、本日いらっしゃいます。」


ソレを、私に伝えに来た理由は一つ。


「わかりました。場所はバラ園にするようにお嬢様に言い含めてください。」

「わかりました。」

「それから、お茶の準備はいつも通りに。教えた通りの物を使ってください。良いですか?一つでも欠ければ、お嬢様は終わります。」

「はい。」


ソレだけを指示し、立ち去るステラを見送る。


「……捨て身で来んなよ、あのバカ王子。」


思わず口にした言葉を深呼吸で落ち着ける。

大丈夫、私は冷静だ。

バカなのはアイツだ。

王家からの追加の指示書はガーディナ経由で私の手元にも来た。

だからこそ、バカとしか言いようがない。

まだ、動く時じゃないだろうと。

お嬢様、まだまだだぞと。


「おはようございます、シノアさん。」

「おはよう、ユリア嬢。今日はどうしたのですか?」

「お嬢様のお茶会に添える花をもらえればと思って。」

「えぇ、どうぞ、どうぞ。選定しましょう。」

「ありがとう。ソレじゃあ……。」


嫌味の一つくらい、いれても許されるよね?





お茶会の準備を整えていると、庭園の向こうから気配を感じて。

顔を上げれば、金髪碧眼の男性。

クロード・カルメ。

マリアお嬢様の婚約者にして、メインヒーロー。

実物、ものすっごいイケメンだわ。


「息災だったか、マリア。」

「はい、クロード様。」


激甘な空気を漂わせながら始まったお茶会。

基本的に私は控えてるだけ。

ステラさんがお茶を淹れたりとするため、私は周囲を見回す。

あ、殿下の護衛の人……アレ、まさか……!!


「ユリアさん?どうされましたか?」

「ステラさん、あの方は?」

「あぁ。あの方は、レオナルド・ドナウ様です。殿下の護衛で、乳母兄弟です。」


やっぱり!!

じゃあ、攻略対象の一人!!

忠実なる騎士で、一途。ちょっと腹黒で束縛強めなキャラだ。

赤茶色の髪に黄金色の瞳を持ち、目つきは少し鋭い。


「ドナウ侯爵のご子息、ということですね?」

「そうです。次男だと聞いてます。」


へぇ。確かに公式キャラとしても兄弟がいるって書かれてたし、セリフの中にも“兄が〜”っていうのがあった気がする。


「彼がどうかしましたか?」

「いえ。ココに来る前に関係者リストは見せて頂いたのですが、社交界に疎いものですから。顔と名前が一致しないのです。」


何食わぬ顔をして嘘を吐く。

攻略対象以外のキャラは顔と名前が一致しないので、まるっきり嘘ではないし、許されるだろう。


「なるほど。たしかに、コースター家のご子息、ご令嬢が来たという話は聞いたことありませんね。ご当主様はお顔をよく拝見しますが。」

「全員揃って領地を空けるわけにはいきませんから。」


そんな余裕がないってのが本音だけど。

まぁ、王都で金に糸目は使うなというお父様からの指示なので言わないけれど。


「ユリア。」


呼ばれた名前に視線を移す。


マリアお嬢様に手招きされ、スッと近づく。


「クロード様が貴方に挨拶をと言われているわ。王都に来たことのない貴方は、お見かけしたことすらないのでしょう?」

「クロード・カルメだ。」

「ユリア・コースターでございます。」


挨拶を簡単に済ませ、いざ退場しようと思えばお嬢様に軽く睨まれて。

おお、コレが悪役令嬢の視線……!

今までも何回かこの視線に殺されるんじゃないかと思ったけど、今日も良い迫力だ。


「マリアの周囲に不穏な様子は?」


うわ、イケボ。

さすが攻略対象。

ありがとうございます。


「ご報告の通りでございます。」

「そうか。」

「貴方、報告書出してるの?」

「はい。私は王命でココに居ますから。まぁ、私が報告を怠ったとしても、ガーディナ様が居るので大丈夫だとは思いますが。」


チラリと殿下に視線を移す。

うぅ、ただ紅茶を飲んでるだけなのに絵になるイケメン。


「ガーディナよりも傍に居る貴方の方が、マリアのことは詳しいだろう?」


貴方ほど詳しくはないですよ、とは言わないでおく。

ニコリと微笑んでごまかす。


「辺境伯で過ごしているだけあって、腕前も凄いとガーディナから報告が来ていた。」

「ありがとうございます。」

「マリア。」

「!」

「マリアから見て彼女はどういった人物だ?」

「私から見て…………?」


チラリと私を見上げてくるけど、視線を合わせないように務める。

何を言われたとしても、侍女である私の方が立場は下だ。


「そうね、腕はたつようですが……。主人を主人とは思わない振る舞いが多く…………。クロード様が贈ってくださったアップルパイですら、一切れくださいと図々しいお願いをしてくる始末。あまつさえ、クロード様の為にと準備した焼き菓子ですら味見と称していくつも食べ…………!」


ステラさんとクロード殿下の視線から、スッと顔をそらす。

仕方がない。

王都のお菓子は珍しいんだもの。


「あまりにも王都の流行に疎いので、今度街へと出かける予定ですのよ。いくら辺境伯家の貧乏貴族と呼ばれていようが、この私に仕えて居るのですから、知っておいてもらわねば困りますので!」

「……そうか。」


嫌味が嫌味になっていないお嬢様にニコリと微笑む殿下。

その笑顔に照れたように視線を伏せるとカップに口付けるお嬢様は大変かわいらしい。

そりゃあ、ヒロインが現れるまでは溺愛になるよ、クロード。

めちゃくちゃ可愛いもの。


「え、お嬢様、城下連れて行ってくれるのですか?」

「……………………気が向いたらね。」

「わぁ…!!本当ですか!?ありがとうございます!お嬢様から離れるわけにはいかないので、王都探検諦めてたところなんですよ!わぁ、嬉しい」

「…………っ。全く…、うちの料理長に色々とレシピ聞いてるだけじゃ満足できないなんて。贅沢だわ。」


お嬢様がわざとらしく額を抑える。


「仲が良いな。」

「クロード様、これは仲良いのではありません。ユリアが失礼なのです。」

「気を許してる証拠だ。私とレオも似たようなものだしな。」

「…………クロード様とレオナルド様が?」

「あぁ。」


クロード様の視線がレオナルド様に向く。

視線に気づいているであろうに、涼しい顔をして立っている。


「あぁ見えて、仕事中じゃなければ砕ける。」

「…………仕事中は?」

「あの調子だ。」

「ユリア、命令よ。仕事中は私をちゃんと御主人様扱いしなさい。」

「そんな……!!私ほぼ休みなしなのに!」

「ならせめて来客中はちゃんとしなさい!」

「来客相手が婚約者であるクロード様でなければちゃんとします。」

「クロード様に失礼な態度は許さないわ。」

「大丈夫です。クロード様は懐の広いお方です。」


ポッと前金で金貨三千出してくれる陛下も気前が良い。

残りの二千は殿下からだと聞いてるけど、どこまでが本当なのか。


「クロード様?怒って頂いて構わないですわ。」

「見ていて楽しいのに。君の新しい一面を見れて嬉しいよ。」

「────」


わ、りんごみたい。真っ赤だわ。

ステラさんに視線を向ければ、控えめにグッと親指をたてられた。

良い仕事をしたらしい。


クロード様に視線で促され、一礼して離れる。

そのままステラさんの傍へと行けば…………。


「とても失礼な態度で侍女として失格ですが、とても良い仕事をしたと思います。」

「ありがとうございます。」

「ご褒美に茶葉を進呈します。」

「ステラさん……!!」


ステラさんと秘密の特訓をするようになってから少し距離が縮まった気がする。

まだ学園生活も始まってないけど、イケメンたちとのウハウハ学園生活が少し楽しみだ。

でもモブキャラな上に悪役令嬢の侍女だから、イチャイチャはないんだよなぁ。

ヒロインとも悪役令嬢ともバトルするつもりはないから良いけどね!

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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