帝国からの提案書
殿下とお嬢様が居るおかげで、なんの苦労もなく城内に入ることができた。
陛下たちが居るのは円卓の間らしく、そのまま廊下を突き進めば、見張りの騎士が扉を開いてくれ。
「父上!」
殿下の声に視線が集まる。
「来たね。その様子だと、エドワードが連れて行かれたかな?」
「えぇ、そうよ。お父様、コレは一体どういうこと!?」
バンッと手を叩きつけるも、お父様はいつも通りの笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ、ユリア。エドワードにもちゃんと心得はある。」
「だからって…!」
眼の前に差し出される上質な紙。
「帝国から届いたそうだよ。」
「…………。」
開いて確認すれば、格式張った文面が並ぶ。
要約すると、王国相手にもう攻め込まないって約束する証拠として帝国の人間を送る、だ。
ようするに、人質。
チラリとお父様を見れば、変わらない笑みを浮かべている。
「コレを、帝国が?」
「そうだ。」
「…………でもコレ、帝国の皇帝陛下からの勅書ではないわよ。どうやってコレを王国に届けに来たの?」
「何?」
「どういうことだね。」
その重鎮たちの反応に父は、ニコリと視線を送る。
「やっぱり、その字は彼かい?」
もう一度ソレに目を通し、頷く。
「えぇ、間違いないわ。お父様も何度か見たことあるでしょ、彼の字を。」
円卓にソレを置いて、重鎮たちを見渡す。
そして、陛下に視線を移す。
反応を見るに、そこまでは知らなかったのか。
「お父様、ロイドに預けた手紙の真意はコレですね?」
「うん。見つけられるかい?」
「エドワード拉致に関わって居るのであれば。」
「頼んで良いかい?」
「もとよりそのつもりで王都に出てきたんでしょ?」
肩をすくめて吐き出すように言えば、笑みを深める。
そして、ポンッと優しく頭を撫でられて。
「僕が帰るまでの間、アルベルトとソフィアに領地を任せてる。だから、心配しなくて良い。」
「わかった。ロイド。」
「ん。」
「お父様、帝国からのその手紙の内容について私から伝えるべきことはありません。任せます。」
「そういうと思ったよ。考えは、同じだね?」
その問いかけにニコリと笑う。
「ウイリアム、お父様から離れちゃダメよ。」
「うん。行ってらっしゃい、姉ちゃん、兄ちゃん。」
「行ってきます。」
「ユリア……!」
「マリア様。」
「……、気を付けて。」
「ありがとうございます。マリア様は殿下とお父様の傍を離れないでくださいね。」
帝国からの言葉というよりは、彼自身の言葉のように思う。
「陛下、一つ質問です。」
「……申してみよ。」
「コレは、正規の手続きで届けられた文ですか?」
「あぁ、そうだ。」
「そうですか。」
皇帝陛下と相反する意見を持つ彼が正規の手続きでコレを届けられたのは何か理由があるハズだ。
だって、帝国はコースター辺境伯領を手に入れることを諦めてないもの。
「姉さん。」
「……、そうね。さっさと行ってエドワードを救出して犯人捕まえるわよ。殿下、騎士団の手配お願いします。」
「任せておけ。すぐに向かう。」
ロイドと二人、円卓の間を出て廊下を進む。
「あの勅書が本物なら、帝国の狗ってのは皇帝陛下絡みか?」
「可能性は高いわね。帝国側にマリア・セザンヌを暗殺する理由は無いから、手を貸してるだけでしょ。」
「王国側の情報と引き換えに、か?」
「だと思う。帝国がこの国で欲しいものって私達の領地と情報だけでしょ。軍事力も医術も、帝国のほうが遥かに進んでる。」
「切開は、この国……、センセーが第一人者だけどな。」
「そうね。」
ロイドと二人、建物の外へ出るのと同時に走り出す。
「人が多いな。上行くぞ。」
「ん。」
木の上に乗り、城壁を飛び越える。
そのまま近くの建物へと飛びのり、走る。
領地と違ってこのあたりの建物はしっかりしてるから、走りやすいな。
「今回エドワードが身代わりで誘拐されたけど、犯人がエドワードじゃなく、お嬢様を誘拐していたらどうするつもりだったの?いくらエドワードの変装術が優れていても犯人が騙されてくれるとは限らなかったと思うのだけど。」
「その時は、殿下を利用して犯人を追い詰める予定だった。俺が殿下を連れて城下に行くのは決定事項だったし、レオナルド・ドナウがついてこないのは予想済みだったしな。」
そのセリフにチラリと横目でロイドを捉えれば、まっすぐと前だけを見ていて。
建物から建物へと飛び乗る。
「レオナルド・ドナウに縁談の話が出ているのだとユミエルが教えてくれてな。今日はその縁談相手と顔合わせだそうだ。」
「そうだったの。」
レオナルド様、縁談の話なんかあったのか……。
ゲームプレイしてる時は、そういうのわからなかったなぁ。
あ、いや。そうでもないか。
──どうしたの?元気ないね?
──そんなことありませんよ。
──嘘。だって、いつもと違う。何があったの?
──何も。ただ、少し憂鬱な気分になっただけです。
確かあの会話が入ったのは今頃の時期……。
でもアレはレオナルドルートに入らないと発生しない会話だったハズ。
ヒロイン、殿下を諦めてレオナルド様にルート変更した……?
「町外れに続いてる馬車の跡がある。アレか?」
「だろうね。」
さて、この車輪の跡はどこに導いてくれるのか……楽しみね?
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