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計画的誘拐事件

ウイリアムとともに目当てのものを手に入れ、お嬢様たちが入った店へ。


「私、店内見てくるからココで待っててくれる?」

「うん。」


ドアを開こうと手を伸ばせば扉が押し開かれて。

道を開けるように数歩退がれば。


「あ、ユリア姉!」

「…………エド?」


フリフリのワンピースに身を包んだエドワードがそこにいた。


「見てみて!俺、かわいくない?大きくなったらニーナにコレ、着せてあげよーよ!」

「ふふふ、領地に居る時に女の子の格好はしたことあるから大丈夫って言ってくれて。私がコーディネートしたのよ。」

「すごく似合ってる。でもエドワード、最近そういう格好はしたくないって言ってなかった?」

「ふふん、俺ってばユリア姉より美形だから。」


ドヤッと自信たっぷりな表情を浮かべるエドワード。

こうしてみると、お嬢様と背格好が似てるから友達とショッピングと言われても違和感がない。

エドワードはまだ線が細いし、女の子に間違えられそうだ。


「ウィル兄も着る?」

「今日は遠慮しておく。僕はエドワードと違って慣れてない格好では動けないから。」

「ちぇー。」


拗ねるエドワードにウイリアムが苦笑する。


「それより、買ってきたやつ食べようよ!」

「そうだね。」


エドワードの催促にウイリアムが応えて、人混みから離れた場所に腰を下ろす。


「マリア、どうぞ。」

「ありがとう、ユリア。」


私とエドワードの間にお嬢様を座らせる。

何かあったらエドワードがお嬢様を連れて走れるし、何より後ろは壁だから襲われにくい。


「「いただきまーす!!」」

「い、いただきます。」

「いただきます。」


パクリと一口かじれば、優しい味わいが口いっぱいに広がる。


「ユリア、コレはどうやって食べるものなの……?」

「……、ココをこうやって持って。」

「こう?」

「そうです。で、ガブッと。」


少しためらったのち、パクリと一口。

そひて、目を見開いてこっちを見るから思わず笑う。


「気に入りました?」


モグモグとする口元を手で覆い隠しながらコクコクと頷くお嬢様。

まぁ、城下町を二人で探索したときはあまり買い食いってしなかったもんね。


「……、ごちそーさま!ユリア姉、焼き立ての美味しそうな匂いしてるんだけど、どこだと思う?」

「あ、本当だ。」

「俺ちょっと見てくる!」


言うが早いか飛び出して行ってしまうエドワード。


「…………エドワードって逃げ足は早いけど、ユリア姉に負けず劣らずの方向音痴だったよね。確か。」


一瞬の沈黙。


エドワードが立ち去った方向と逆方向に現れた見慣れた人物。


「…………ウイリアム。」

「行って良いよ、姉ちゃん。兄ちゃんがそこに居るから大丈夫。」

「ココ動かないで、二人とも。ロイドから離れないように。」


二人から離れてエドワードを追いかける。


く……っ、人が多すぎる……!!


「わぁ!?」

「エド!?」


喧騒の中聞こえた声に名前を呼ぶけど返事はなく。


人をかき分けて周囲を見回せば、路地裏に落ちた片方の靴。


迷わず路地裏を進めば蹄と車輪の音が聞こえて。

そこにはもう片方の靴が落ちていて。


「エドワードが誘拐された……。」


どうする?

どうするべきだ?

追いかける?

いや、でもウイリアムとお嬢様が待ってるしロイドも合流してる。


「〜〜〜〜っ。」


自分の頬を叩いて、来た道を急いで戻る。


人混みをかき分けて戻れば、殿下とお嬢様が座って楽しげに会話していて。

その二人をウイリアムとロイドが眺めている。


「ロイド!ウイリアム!」

「姉ちゃん。」

「エドワードが誘拐された。」


私が二人にそう告げれば、聞こえていたのか殿下とお嬢様が目を見開く。


「私、このまま追いかけるからロイドとウイリアムは二人を連れて城へ行ってくれる?」

「ユリア嬢、行き先に検討はついてるのか?」

「馬車で連れ去られたみたいなので、そのまま車輪の跡を追いかけます。」

「わかった。では戻り次第騎士団に────」

「その必要はない。」

「…………は?」

「それは、どういう……。」


戸惑う二人と平然としたロイドとウイリアム。


「…………。」


アルベルトの提案で私達は城下町に遊びに来ていた。

そして、エドワードがお嬢様と店内に入り着せ替え人形になり。


そういえば、さっきエドワードが着ていたワンピースってお嬢様が今日着ている服装に似ているような…………。


「……まさか。」

「ユリア嬢?」

「ウイリアム。」

「ごめんなさい、姉ちゃん。でも、こうするしかなかった。」


気持ちを落ち着けるために深呼吸を一つ。


「エドワードは、知ってたの?」


そう問いかければ困ったように微笑む。


ソレが、答えだった。


「…………。」

「ごめんなさい、姉ちゃん。」

「あんまりウイリアムを怒ってやるな。考えたのは親父と俺だ。」

「……ロイド。」

「兄ちゃん。」

「ちなみに、アルベルトとソフィアはこのこと知らねぇから怒ってやるな。」


そう言って封書を一枚差し出してくる。


「親父から。」


受け取り封を開けばたった一言。


──帝国の狗が紛れ込んでいるから、あぶり出せ──


息を深く吐き出して。


「エドワードに武器は持たせているの?」

「護身用に暗器一つだけ持たせてる。そんな怖い顔しなくてもエドワードなら大丈夫だろ。逃げ足だけは信用しても良い。」

「ロイド。一つ聞くわ。この計画はエドワードも一緒に誘拐される予定だったの?」

「いいや。」

「…………。」

「お嬢様に扮したエドワードだけが誘拐される予定だった。」


気持ちを落ちつけるために深呼吸を二回。


「私がエドワード様にワンピースを着せたから…………?」

「それは違いますよ。あいつは純粋に将来末の妹に着せる衣服のデザイン案が欲しいから、一着着て帰ると決めていました。その一着をマリア嬢に選んでいただけて嬉しかったと思います。」

「でも……っ。」

「ソレに、本当に心配はいりません。言ったでしょ。この作戦はコースター辺境伯当主と俺が考えたものです。」

「…………、来てるの?」

「エドワードとウイリアムの迎えにな。なんでも帝国から文が届いたから辺境伯当主として意見を聞かせてほしいと陛下から呼び出しがあったらしい。」

「領地は大丈夫なの。」

「今夜中には領地へ帰る予定だ。親父の足ならそうかからないだろうからな。」


お父様が呼ばれるほどの帝国からの手紙……?

怪しすぎる。

帝国の狗をあぶり出せと指示を出してくる理由に関係してる……?


「奪還作戦に参加するメンバーは?」

「姉さん、俺、騎士団。」

「待つ必要があるのは?」

「いない。ただ、全部解決した時に殿下と騎士団には駆けつけていてもらわなきゃ困る。」

「……あそこにいる吟遊詩人はどうするの?」

「今回はダメだ。たとえアレが標的から視線をそらすための演奏だとしても、ソレだけじゃあ貴族は取り合わない。」

「まぁ、そうよね。」


本当、狡猾なヤツが多すぎる。


「ひとまず城へ。この二人も連れて行かなきゃだしな。何より、親父が待ってる。」

「わかった。」


私が知らされてない作戦。


帝国関連で情報共有がなかったのは初めてだ。

一体、何が起きてるの……?

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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