誘惑 Sideヒロイン
ムカつく、ムカつく、ムカつく!!
せっかく悪役令嬢と鉢合わせして、シナリオ通りに窓ガラスを割ったのに!
クロード殿下は全然こっちを見向きもしないし!
たかだかモブキャラの先輩に犯人扱いされるし!
ほんと、信じられない!!
モブキャラのくせに、邪魔ばっかりしてくるし!
ほんと、ムカつく!!
「私がヒロインなのに!!」
悪役令嬢が嫌われてないし!
クロード殿下は悪役令嬢にベタベタしてるし!
ありえない!
さっきだってヒロインの私じゃなく、悪役令嬢に駆け寄っていたし!
「何かお困りですかな?」
「!」
突然の声に振り返れば、見た覚えのない老人。
でも、どこかで会ったことがあるような……。
「おじいちゃん、誰。」
そう尋ねると、白いヒゲを撫でてニヤリと笑う。
「フォッフォ、ワシを知らぬとは無知な令嬢じゃのお。そんなんじゃ、殿下の心は掴めぬわ。」
その言葉にカチンときて。
「何なの!?皆して私が悪いみたいな言い方して!!私は選ばれた存在なのよ!?私のために存在してるモブのクセに!!」
「フォッフォッフォ。良い良い。その強気な姿勢、良いぞ。不快な思いをさせてしまった詫びに、殿下との仲を取り持ってやろう。」
「!?」
「ワシは地位のある人間なのでな。そのくらいは容易いのでな。」
私が、クロード殿下と結ばれる未来は絶対なのに?
こんな老人の手を借りなければいけないわけ??
私は、選ばれた存在なのに?
「あのマリア・セザンヌを陥れる手伝いをしてやろう。ヤツは公爵家の令嬢。並大抵の家柄では歯がたつまい。まぁ、そのためにはお主にも下準備を手伝ってもらう必要があるがのお。」
どうする?と、首をかしげる。
口元はいやらしく釣り上がり、品定めされているのがわかる。
気持ち悪い、不愉快。
でも。
「……………………本当に、私とクロード殿下が結ばれる未来を用意できるの?」
「フォッフォ、ワシはできぬホラは吹かぬよ。」
あの目障りな悪役令嬢を消せるなら、このジジイを利用するのも有りかも。
いざとなれば、捨てれば良いんだしね。
「わかった、手を組みましょ。でも、気に食わなかったら手伝わないから。」
「フォッフォッフォ。懸命な判断じゃ。」
ニヤリと舌なめずりをしそうな表情に眉間が寄る。
気持ち悪い。
「それで?あの悪役令嬢を陥れる下準備って何?」
そう尋ねれば、立派に蓄えられたヒゲを撫でる。
「そうじゃのお……。まずは戦力が必要じゃ。」
「戦力?」
「そうじゃ。殿下とあの女の婚約は学園卒業後。まだまだ時間はたっぷりある。」
「あと一年と半年しかないんだけど。そんな悠長なこと言ってて良いの?」
「問題あるまい。焦れば足元を掬われるからの、慎重に確実にジワジワと追い詰める必要があるんじゃ。」
「ふ〜ん?で、ソレってどうするの?」
「フォッフォ。壊すんじゃよ。」
その冷たい視線に、ゾクリと背筋が伸びた。
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