ヒロインVS悪役令嬢
剣術大会のことや私の裁判の話で盛り上がる学園内。
そして、お約束のごとく私の周りに人は居ない。
殿下やレオナルド様は囲まれているというのに。
何もしてないヒロインですら囲まれているのに。
いやまぁ、彼女はヒロインだから囲まれてるのは通常運転か。
そうだとしても当事者は私だけどと思わなくもない。
「姫さん。」
「アルベルト。」
「結構噂になってるな。」
「ま、仕方がないわよ。気にするだけ無駄。」
「まぁな。」
アルベルトが頭の後ろで手を組んで、楽しそうに笑う。
「何か良いことあった?」
「ん?なんか、楽しいなぁって。」
「え?」
「ほら、俺達さ学園に通えるとは思ってなかったから。ソフィアに一年分の遅れはとったけど、姫さんたちと過ごせるの嬉しいなって。それにさ、俺達自慢の姫さんが皆に噂されてるんだぜ?」
嬉しいって心の底から思ってる笑顔。
無邪気な笑顔に肩の力が抜ける。
「ったく……。良い噂ばかりじゃないでしょ?」
「まぁな。でも、良い噂が増えた。」
「ふ〜ん?自分じゃよくわからないけどアルベルトがそういうならそうなんでしょうね。」
「ほんと、姫さんたち自分のことに興味ないなあ。」
アルベルトが肩を竦めると、廊下から何かが割れる音と悲鳴が聞こえてきて。
廊下に出てみれば、割れた窓ガラスと座り込むヒロイン、呆然と立ち尽くすお嬢様、ポカンとした表情をするソフィアが居て。
「うわっ、窓割れてるぞ。」
「怪我は!?」
「わ、私は大丈夫よ。」
「私も。それより、そこの一年生が……。」
座り込む一年生…もといヒロインに視線を合わせる。
「マリア!マリア、無事かい!?怪我は!?何があった!?」
「クロード様、落ち着いてくださいませ。私は大丈夫ですから。」
「だ、大丈夫です。びっくりしただけなので。」
お嬢様と殿下の話し声を聞きつつ、ヒロインの状態を確認する。
「どうしていきなり窓が……。」
「外から何か飛んてきて……。そ、それで私怖くて……っ。」
メソメソと泣き出すヒロイン。
殿下が険しい顔のまま周囲を見渡す。
「学園の敷地内に不審者?」
「え、学園の関係者ってこと?」
口々に飛び交う憶測の言葉。
「いや、外から割られてねーぞコレ。」
そこに響くアルベルトの声。
「投げ込まれたものもないし、割れた窓ガラスの破片が廊下にそう多く散らばってない。」
「不審者が敷地内に居たら気づくしね。」
「そうそう。自分で割ったんじゃねーの?」
アルベルトの確信をつく言葉にヒロインの肩が跳ねる。
「な……!どうして私がそんなこと……!!」
「さぁ?」
「さぁ!?そんな曖昧な憶測で疑わないでくれる!?」
ヒートアップするヒロインにアルベルトはどこ吹く風。
「とにかく、飛び散った破片片付けましょ。怪我したら危ないわ。」
「掃除道具借りてきた!」
「ありがと、ソフィア。」
ソフィアと二人手早くガラス片を片付けていく。
割れた窓の補強は……、必要ないか。
「マリア様が私に声をかけてくださった時に割れたんです!だからマリア様が何か……。」
「……確かに、私は貴方に挨拶されて挨拶を返しました。ですが、私が窓を割る理由がありません。」
「そ、ソレはクロード殿下に言い寄る私が気に入らなくて……。」
「クロード様に言い寄る方は貴方一人ではないのに、なぜ貴方にだけ危害が及ぶことをしなければならないのですか。窓は内側から割れているようですし、それこそ貴方の自作自演だと言われても仕方がないことかと。」
ワナワナと震えつつ必死に言葉を紡ぐヒロインと、冷静に淡々と言葉を返す悪役令嬢。
あぁ、公爵令嬢として培った教育の賜物か。
表情がピクリとも動かないお嬢様、さすがです。
パンパンと手を鳴らす。
「はい、そこまで。貴方、さっきから言ってることがめちゃくちゃで一貫性が無いわ。きっと、パニックになってるのね。医務室で休んだほうが良いわ。」
「な!私は……っ!!」
「手の甲と腕、怪我してる。ついでに治療してもらったほうが良いわよ。」
「…………っ。」
「マリア様も、らしくありませんね。少し殿下とお茶されてはいかがですか?落ち着くかと思いますよ。」
「…………そ、うね。ごめんなさい。」
「行こうか、マリア。ちょうどサロンを一つ抑えてあるんだ。」
殿下がお嬢様の手を引いて行くから、レオナルド様が後ろをついて行く。
アルベルトとソフィアの視線に合図すれば、二人もついて行く。
さて、と。
「貴方、医務室の場所わかる?」
「わ、わかるわよ!!」
「そ。ならついて行かなくて良いわね。」
ガラス片の入ったちりとりと箒を手に、歩き出す。
これだけの野次馬を集めたのも、王太子クロード・カルメの婚約者であるマリア・セザンヌが騒ぎの中心たったからだろう。
ヒロインと悪役令嬢の運命というべきなのか……。
「うーん……?」
ゴミ箱に捨て、掃除道具を片付ける。
傍にあった水道で手を洗い拭いて居ると、後ろから殺気を感じて。
振り返らずにしゃがんで避け、足を引っ掛ければ重たい音とともに地面に転がる音。
そのまままたがり、喉元にナイフを突き立てる。
「誰の命令で私を狙ったの。」
「く……っ。さすが、コースター辺境伯の娘だな。ココまでとは。」
「ココ数日見張られてるのはわかってた。目的は何。」
刃を首元に押し当てたまま相手を見据える。
「…………、助けて欲しい。」
「…………。」
「こんな仕事してるんだ、命を狙われるのは慣れてる。だけど、あんなのは間違えてるんだ。頼む、家族を助けてくれ。」
「標的に命乞いする暗殺者にろくなヤツは居ないのよ。」
「わかってる。バツは受ける。でも、家族は関係ない。頼む、家族だけで良いから助け、て。」
迷うことなくナイフを一閃すれば、血しぶきがあがる。
「悪いわね。同じ言葉を繰り返すのは嘘をついてる暗殺者の特徴なのよ。本当に交渉する気があるヤツは、先に情報を提示してくるわ。」
ナイフについた血を洗い流し、隠す。
「姉さん。」
「ロイド。どうしたの、こんなところに。」
「怪しい気配がしたから。……暗殺者?」
「えぇ。」
「死んだの?」
「もう少しで死ぬかもね。」
「目的も聞いてないのに。」
「命乞いしかしない男だったから。ま、一時間以内に医者に見せれば命は助かるとは思うわよ。致命傷は避けてるし。何より、私を狙ってきた。」
「……なるほど。誰の差し金なのか、候補が多すぎて絞りきれないな。」
「そういうこと。聞くのが一番早いでしょ。それに、命乞いの言葉が本当なら喋るハズよ。」
暗殺者が標的に命乞いをするのは、それだけ大きな意味があるのだから。
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